第四話
新人冒険者ユーカに頼まれパーティーを組むことになったジェイクは、自分が狩りをした場所とは逆の方向へと来ていた。
とはいえ、出現する魔物はそう変わらない。
遠くから《ゼリーム》を眺めつつジェイクは、ユーカへと確認をとった。
「ユーカ。まず聞きたいんだけど、魔物との戦闘経験はどれくらいある?」
「え、えーっと……ほんの少しです!」
ほんの少し、ということはないわけじゃないようだ。
「じゃあ、ゼリームは倒せるな?」
「もちろん! ゼリームぐらいなら!」
自信に満ちた返事から、ジェイクは安心して見ていられると感じさっそく鞘から剣を抜く。
「それじゃ、ちょっと実力を見せてもらうぞ。俺が、ゼリームを数体おびき寄せる。それをユーカは、魔法で倒してくれ」
「はい!」
ユーカがマジフォンを構えるのを確認してから、ジェイクは近くに出現したゼリームを剣で突き挑発。敵意を持って襲ってくるゼリーム三体。
ジェイクは、後は任せたとユーカの肩を叩き後ろに下がった。
「やってやりますとも!」
個人的にはマジフォンで戦う現代の魔法使い……いや【魔機使い】の戦い方というものをじっくりと見てみたい。
ユーカが飛び掛ってくるゼリームに対し、マジフォンを構え魔力を込める。
すると、マジフォンから赤い光が溢れ出し魔方陣が展開。
「【フレア】!!」
飛び掛ってきたゼリームへを襲う炎の魔法。
フレアは、初級魔法のひとつで百年前からそれは変わっていないようだ。だが、なかなかの威力だ。おびき寄せたゼリーム三体を一気に倒してしまうほどに。
経験値となり、ユーカの体に吸い込まれていくゼリーム達。ジェイクは剣を肩にとんっと乗せながら、小さく笑む。
「なかなかじゃないか。初級魔法であれほどの威力があるなら、心配はなさそうだな。それに、マジフォンによる詠唱なしの魔法……思っていたより便利そうだ」
「いやー。素直に褒められると照れてしまいますよ~」
えへへ~とだらしない顔になる。
最初、少し不安だったがこれなら何の問題もないだろう。初級魔法フレアであれほどの威力を発揮できるんだ。
これは、他の魔法にも期待ができそうだ。
「それじゃ、目標として後十体ぐらいは狩ろう。レベルも上がるだろうしな」
初心者ということで、レベルはまだ一桁のはずだ。
ゼリームを後十体ほど狩れば、さすがにレベルが1は上がるだろうと経験上から語ったジェイクは、足を進める。
が、急にユーカが慌てるようにジェイクを呼び止めた。
「いや! あの!」
「どうした?」
さすがにいきなり十体はきつかったか? と思ったジェイクだが、ユーカの口から出た言葉は予想外のものだった。
「あのー、魔力がもう尽きそうなので。魔法は後一回が限界です……」
「……え?」
ジェイクは、自分の耳を疑った。
もう魔力が尽きそう? 待て待て。よく考えてみるんだ。ここまで来る前に使った魔法といえば、あの猫耳を生やす魔法。
そして、この場で使ったのはフレアが一回。
レベルが1の段階だとしても、初級魔法は五回か六回は使えるほどの魔力があるはず。いや、人によっては三回ぐらいしか使えないってこともあったが……。
まさか、猫耳を生やす魔法でほとんど魔力を使い切ったとか?
「保持魔力値が少ない、のか?」
「いえ、平均より少し上です。数値で表すなら平均が二十ぐらいで。私は三十ぐらいあります」
「初級魔法とあの猫耳を生やす魔法の消費魔力量は?」
「初級魔法が五で、猫耳が十です……」
初級魔法よりも消費が重いのか……。現代魔法は、いったい何を考えているのか。だが、そう考えるとまだまだ余裕だと考えられる。
ユーカの保持魔力が三十に対し、消費しているのは十五。ということはまだ十五はある。初級魔法なら三回は使える計算だ。
先ほどのように一回で複数体を倒すことができれば、なんとかなるはず。
なんら問題はない、と考えたジェイクだったがユーカはまだ言い残していたことがあったらしく。小さく挙手をしながら告げた。
「そ、それでですね。私にはその……中々厄介な【固有スキル】がありまして」
「固有スキル持ちだったのか」
固有スキルとは、普通のスキルとは違いその者しか持ち得ないの便利スキルと言ったところか。例えば、ジェイクが知っているものからひとつ上げるとすれば……魔物が落とす素材の数が増える、とか。
固有ゆえに、保持している者は数が少ない。
生まれ持っての天賦の才能とも言われているほど貴重なものなのだ。それを、ユーカは持っているという。だが、本人は厄介と言っていた。
本来ならば、便利スキル、と言われるほどあれば嬉しいもののはずなのに。
「【魔攻の王】というもので、攻撃魔法の威力が二倍になるのですが……その、消費魔力量も二倍になるというなんとも使いにくいものでして」
「……確かにそれは厄介そうだな。つまり、今の残り魔力は十ってことか」
「はい。初級魔法を後一回しか使えないんです……こんな固有スキルがあるせいで、なんだか攻撃魔法を覚えるのが悩ましくなってしまって」
まだ攻撃魔法だけという点から考えると、まだマシ……かもしれない。もしこれが全ての魔法が対象だった場合はジェイクでも頭を悩ませる。
しかしながら、初級魔法ですら最大でも三回しか使えないとは。
これは、中々厄介そうだ。
マイナスになるような固有スキルは初めて聞いた。大抵は、その者のプラスになるようなものしかないはずなのだが。
「わかった。それじゃ、なるべく多くのゼリームを巻き込めるように俺が誘導する。ユーカは、タイミングよく残りの魔力を使ってフレアを唱えるんだ」
「え? 付き合ってくれるんですか?」
「そうだが……どうしたんだ。お前が、一緒にパーティーを組んで欲しいって言ったんだろ?」
驚くユーカにジェイクは首を傾げる。
「だ、だって。大抵の人が私の固有スキルのことを聞くと苦笑いして去ってしまうんですよ? だから、ジェイクさんのような反応は新鮮だったもので」
そういうことか。
ジェイクは、容易に想像ができた。最初は快くパーティーを組もうとしたがユーカの固有スキルのことを聞いて去っていく冒険者達の姿を。
威力はあるが、初級魔法ですら三回しか使えないということはそれだけ使うタイミングなどを考えた上で戦わなくてはならない。
いつも以上に大変な戦闘を続けることになる。だから、丁重に断ったんだろう。
「気にするな。俺は、むしろお前とパーティーを組むことで面白くなりそうでわくわくしている」
「お、面白くなりそう? そ、そんなことを言ってくれたのもジェイクさんが初めてです」
今のジェイクにとっては、すぐ魔力が空になりそうな者だったとしても関係ない。むしろ、そういう一癖ありそうな者と一緒に居れば面白いことが起きそうだと考えてしまう。
だから、むしろ一緒にパーティーを組んで戦っていくのは大歓迎なのだ。
「それに、あんな捨てられた子犬みたいな目をされちゃ放っておけないしな」
「こ、子犬……私、そんな目をしていたんですか?」
「ああ。だから、気にするなって。お前は、全力で魔法を魔物に唱えればいいんだ。やばくなったら、俺が全力でフォローしてやるから。パーティーを組んだ仲間同士。助け合っていこうぜ」
ぐっと親指を立てへへっと笑う。
「…………うぅ」
「お、おい。なんでそこで泣くんだ?」
黙ってジェイクを見詰めていたと思いきや、いきなり涙が溢れ出すユーカ。経験が豊富なジェイクだが、女子に対しての経験はほとんどない。
いきなり泣き出したユーカに対し、どう接すればいいかわらず慌ててしまう。
「だっで……だっで……そんなやざじいごとばをかげでくれだひど初めてで……! わだじ……わだじ……!」
「よ、よーしよし。そんなにつらかったんだぁ、よく堪えた。えらいぞ」
「づらがっだ……づらがったでず……!」
まるで、子供を慰めるかのように頭を撫でるジェイク。実際のところ年齢的には、孫みたいな存在になるのだろうが。
ジェイクは、妻も子供もいないので不慣れながらもユーカを全力で慰める。
「落ち着いた、か?」
「……ふぁい」
「えーっと、とりあえず一発魔法を唱えてスッキリしよう! 俺が魔物をおびき寄せるから。そうすれば、レベルが上がるかもしれない!」
「れ、レベルが上がれば魔力も増える……そうすれば魔法の使用回数も!」
「ああ、増える! さあ、いくぞユーカ!」
「はい!!」
その後、ゼリームを五匹ほどおびき寄せタイミングよくユーカのフレアが炸裂した。そして、丁度レベルが上がりユーカの魔力量も増えたが……やはり、使用回数が増えるほどは。
しばらく自分の魔力量を眺めていたユーカ。
ジェイクは、どう声をかければいいか考えている。
「……これから」
「ユーカ?」
マジフォンから目を離しユーカは呟く。
「これからです。私、諦めません! 前向きに生きていきます! ジェイクさんと一緒ならなんだかやれそうな気がしてきました!」
「お、おう。そうか。それは、よかった」
「あ! そうだ! ジェイクさん。記念に写真を撮りましょう!」
「写真?」
聞いたことがない単語だ。
ユーカは、ジェイクの隣に並ぶとマジフォンを天高くかざす。
「ほら! ジェイクさんもっとくっ付いて!」
「こ、こうか?」
勢いがあるユーカに押され、彼女とくっ付く。
そして。
「激写!」
「うおっ!?」
カシャッという音に驚くジェイク。
いったい何が起こったんだ? と笑顔でユーカが見せてきたマジフォンには……自分とユーカが。ユーカは満面な笑顔だが、ジェイクは驚いた顔をしている。
「これが、写真。へぇ……」
「えへへ。パーティー結成記念ってところですね。ジェイクさん! これからもよろしくお願いします!」
やはり、百年後の世界は驚くことばかり。
ジェイクにとってはエンジョイできそうなほど、楽しい世界だ。