第四十四話
ゼインが挑戦者タイタスにつけた×印にどんな意味があるのか。そして、同じ【魔機使い】として聞きたいことがあるユーカは闘技場内を探し回っていた。
まだそう遠くないところにいるはずだ。
闘技場内は、ぐるっと円状にできており観戦用の飲み物や食べ物を販売している店や武器、防具などを売っている店もある。
チャンピオンの試合が終わったからと言って闘技場全ての戦いが終わったわけではない。まだ、他にも戦いは残っているため挑戦者や観客などが次の戦いの時間まで会話をしている姿が見受けられる。
この中に、ゼインの姿は……。
「うーん、どこにもいないなぁ」
ゼインが去っていた方向へとやってきたのだが、どこにも姿がない。
やはり、もう帰ってしまったのだろうか。
ジェイクやメアリスを置いてきてしまったので、ここは戻ったほうがいいのか。そう思った矢先、闘技場外の一本の柱。
その陰にゼインの姿があった。
「見つけた!」
戻る前にひとつでも何かを聞きたい。近づいていくと、何か柱に手をつき猫背になっている。何かあったのだろうか?
「あのぉ、ゼインさんですよね?」
驚かせないように静かに呼びかける。
「―――っ!? だ、誰……!? ……おほん! 誰だ、貴様は」
一瞬、甲高い声が出ていたが、ゼインはすぐにメガネの位置を直しながらあの冷静な声でユーカを見る。やはり、驚かせてしまったのだろうか。
それほど大きな声を出した覚えはない。
「私、ユーカ=エルクラークって言います! ゼインさんと同じ魔機使いです!」
「ほう。魔機使いか」
「まだ、レベル13のひよっこですが。私なりに頑張っています」
「そうか。魔機使いは、他の職とは違いレベルでスキルを覚えることができない。ゆえに、金に頼りスキルだけは立派なものを覚え、低レベルな者も多いが、貴様はどうやら違うようだな。その強気意思を感じる瞳。いい目をしている」
魔機使いとしても先輩であり、闘技場のチャンピオンでもあるゼインに褒められたことでユーカは素直に嬉しさが体中を駆け巡った。
「あ、あの! ゼインさんに聞きたいことがあるんですけど」
気分が高揚しながらもユーカはゼインを探していた理由を忘れずにいた。最初の接触具合は良好だ。これならばスムーズに会話が進むだろう。
「なんだ?」
「さっき挑戦者の鎧につけていた×印って何か意味があるんですか?」
あぁ、あれかと前置きをした後、小さく笑いながら答えてくれた。
「あれは、俺が闘技場内で戦うのに相応しくないと思った時につける印だ。さっきの奴は、油断だのとくだらない言い訳をするような奴だったからな。ここは神聖な戦いの場。確かに、金目的で挑戦する者も多いし、戦いを見世物にするなんて悪趣味だのという者もいる。だが……」
柱に背を預け、ゼインは青空を見上げながら目を瞑る。おそらく、闘技場から聞こえる観客の歓声を効いているのだろう。
もう次の試合が始まっているようだ。
「どんなやり方であれ、俺は皆の希望になっている。観ている者達に、俺がチャンピオンであり続けるだけで勇気を与えられている。初代がそうだったように……」
「皆の希望に……」
それを聞いた時、ユーカはジェイクを思い浮かべた。ジェイクも、人間達の希望となるために最初のレベル100となった。
どんなやり方であれ、皆に勇気や元気を与えられるのであれば……ゼインも同じことを思い、行動している。自分にも、そんなことができる日が来るのだろうか。
まだまだ未熟な自分が、誰かの希望になれる日が……。
「おーい! ユーカ!」
「あ! ジェイクさん! メアリス! こっち! こっち!!」
「ジェイク?」
闘技場内で自分のことを探していたジェイクを呼び込む。ユーカを見つけたジェイクとメアリスは、ゼインの存在にも気づき少し驚いた表情をした。
「チャンピオンを見つけたのか」
「はい! それで、気になっていたこともわかっちゃいました!」
「よかったわね。私はてっきり見つからずに戻ってくると思っていたのに」
「ユーカが世話になった。俺は、ジェイク=オルフィスだ。冒険者をしている」
「同じく冒険者のメアリスよ」
軽い自己紹介をすると、ゼインは真剣に考える素振りを見せる。
「ジェイク=オルフィス……まさか、本物? いやだが彼は」
「ゼインさん。信じられないかもしれませんが、ここに居るのは本物のジェイク=オルフィスさんですよ。なんと! 転生者なんです!!」
すごいでしょ! と言わんばかりにゼインへと教える。それを聞いたゼインは、さらに考え込み小さく頷く。
「そうか転生者か……」
「今は、十代の姿になっているが中身は八十代のじいさんだ」
「転生者っていう存在は本当に驚かされることが多いわね」
「え? ジェイクさん以外の転生者にあったことがあるの?」
「まあ、少しね」
ユーカにとっては、メアリスの経験の豊富さに驚かされることばかりだ。実際、メアリスは何者なんだろうと真剣に考えてしまう。
「……急用を思い出した。俺はここで失礼させてもらう」
「あ、はい。質問に答えてくれてありがとうございました!」
背中を見せたまま小さく手を挙げ、早足で去っていく。そんなゼインを見て、メアリスは目を細めた。
「彼の魔力の波動……不自然な動きをしていたわね」
「そうなのか?」
「ええ。緊張しているんだけど、嬉しい気持ちがある。そんな感じかしらね」
「そ、そんなことがわかるんだ」
またまたメアリスの力に驚かされるユーカ。魔力の波動など、ユーカにとっては全然感じ取ることができない。
いや、そんなものがあること自体知らなかった。
「あなたも成長すればいずれわかるわ。……成長すればね」
「成長してわかるものなのかなぁ……というか、どこ見て言ってるの!?」
メアリスの視線の先が自分の胸だとわかり、むっとした表情で声を上げる。
「どこって、あなたの胸かしら」
「せ、成長するもん! まだ十五歳だから成長途中だから!! それに、小さくないから。平均的だから! で、ですよね? ジェイクさん!!」
と、急に話を振られたジェイクは目を丸くし頬を掻く。
「あ、いやそう言われてもなぁ……」
どう答えたらいいか迷っていると、第三者の声が聞こえる。
「さすがのジェイク=オルフィスでも、そういう関係には慣れていないようだね」
「あら、ネロじゃない。また会ったわね」
やっ、とカイオルに到着してから分かれた黒髪ツインテールの元男の少女ネロが手を挙げる。
「ど、どうしたんだ?」
助かったとばかりに、ネロに話しかけるジェイク。明らかに動揺しているジェイクを見てネロは小さく笑った。
「用事が済んだから、これからどうしようかなぁって考えながら歩いていたんだけど。自然と君たちのところに来ちゃったみたいなんだ」
「そうだったのか。じゃあ、これから俺達と一緒にカイオルを探索するか?」
「うん、もちろん。そのつもりで来ちゃったわけだしね」
夕方までまだ時間はある。
チャンピオン戦が思っていたよりも早く終わったため、まだまだ探索する自由時間は余っていた。結局、四人で探索をすることに。
が、人数は多いほうが楽しくなるというもの。
「決まりだな。行きたいところは」
「はい! お腹空きました!!」
完全に、胸の話を無視されたがユーカ自身もこれ以上追求すると悲しくなってくるのがわかったようで気持ちを切り替え、会話に参加した。
元気とく挙手をし、空腹であることを告げる。
「それは同感ね。今は、お昼を過ぎたところかしら」
「時間的にも良い感じだね。何を食べようか?」
「そうだなぁ……」
これだけ広い街だ。食べれる店も相当あるに違いない。案内図でざっと確認しただけでもファルネアよりも多いと記憶している。
移動しつつ、そして実際に店を見ながら考えた結果。
肉料理がおいしい店に決まった。
闘技場で熱い戦いを見て、気分も高揚しているだけあって血肉に飢えていた……というのは違うが、安くそして量が多いという理由もある。
大食いのネロがいることも考慮したうえでの決定なのだ。四人仲良く、席につき肉は自分で焼いて食べるシステム。
皆、おいしく焼肉を平らげた。