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第四十三話

 試合開始のゴングと共に、動いたのはタイタスだった。

 その巨体は真っ直ぐゼインを目指し前進。片手で大剣を振り上げる。


「すぐに終わらせてやる!!」


 迷いなき一太刀。

 振り下ろされた大剣は、完璧にゼインを捉えた。まったく動かないゼインに対し、タイタスは勝った! と笑う。


「……単調過ぎる」


 小さく呟きゼインは最小限の動きで横にズレ簡単に攻撃を回避して見せた。


「なに!?」

「貴様のような奴がどうしてここまで勝ち残れたのかわからないな。挑戦者が弱かったのか、それとも運がよほど良かったのか……まあ、これなら前に戦った奴のほうがまだマシだったな」


 ふうっとため息を模しながら、マジフォンに魔力を込める。すると、刃と化した魔力がゼインの手に握られた。まずい! と察したタイタスはすぐに大剣を地面から引き抜き攻撃される前にもう一度攻撃を仕掛けた。


「遅い……!」


 まるで刀身を滑らせるように受け流し、ゼインは距離を詰めた。


「ハッ!!」

「ぐうっ!?」


 容赦のない一閃。

 魔力の刃がタイタスの鎧を切り裂いた。その細身からは考えられないほどの力のある振り。そこから生み出された衝撃波によりタイタスは吹き飛ばされる。


「鎧の耐久力に救われたか。やはり、運がいい奴だな」


 尻餅をついているタイタスは、冷徹な瞳で見詰めてくるゼインを見た後自分の鎧を確認した。かなりの耐久力があるであろう鎧が容易に切り裂かれている。 

 ゼインが持っている武器は魔力により作られた刃。

 魔力刃とは、魔力を外に放出させ剣の形に固定させる技術が必要だ。本来魔力とは、スキルと使う場合の糧だ。

 その力自体を剣として扱うということは、魔力消費も激しい。よほどの魔力量と魔力コントロールがなければできない芸当だ。


「くっ! ひょろっちぃメガネだと思って油断していたぜ」


 まだ戦える。タイタスはゼインから目を離すことなく立ち上がった。


「油断していた? 貴様は、この闘技場で戦う戦士のはずだ。油断など許されるはずがない。そんなくだらない言い訳をするのであれば、貴様はこの場に立つ資格などない」


 ここは、戦いを求める戦士達が命がけで戦う場。

 油断など許されるはずがない。

 ゼインは、明らかに不機嫌になっている。それほど、この闘技場で戦うことを誇りに思っているのだろう。


「資格がねぇだと? てめぇ、チャンピオンだからって調子に乗ってんじゃねぇのか? 資格があるから、ここに立ってんだろうが! 俺は!!」

「だったら、見せてみろ。貴様にその資格があるかどうかを」

「言われるまでもねぇ!!」


 ゼインの挑発に、タイタスは駆け出す。もう油断はしない。目の前に居る相手を叩き潰す。そのために、大剣を振り下ろした。

 が、簡単には当たってくれない。

 また最小限の動きだけで攻撃を回避。


「これだけじゃねぇ!!」


 最初とは違う。回避した方向から回し蹴りを食らわせようとタイタスの丸太のような足が迫ってくる。


「なるほど。多少は頭を使ったようだな。だが」


 それでも、ゼインに一撃を与えることはできなかった。

 とんっと後ろへと下がり、魔力刃を構える。


「馬鹿が! 距離を開けたら届くはずがねぇだろうが!」


 後方へと跳んだせいで、タイタスとの距離が遠くなってしまっている。魔力刃の長さはせいぜい一メートル半ぐらい。

 タイタスとの距離は三メートル以上離れている。これでは、魔法や飛び道具でない限り届くはずがないとタイタスは笑った。


「何度も言わせるな。油断をするものに、ここで戦う資格は―――ない!!」


 刹那。

 魔力刃が一気に伸びた。


「なにっ!?」


 迫り来る魔力刃を防ごうと咄嗟に大剣を盾にするが……防ぎきれなかった。大剣を切り裂き、そのままタイタス本人をも切り裂く。


「ぐああああっ!?」

「貴様も……×だな」


 最初の一撃と先ほどの一撃が重なり、まるでクロス……いや×印をつけられたかのようだ。タイタスは口から血を吐き完璧に気を失った。

 最後のメガネの位置を直し、静かに立ち去っていくゼイン。


《決まったぁ!! 挑戦者タイタス! チャンピオンに一撃も与えられずノックアウト!! やはりチャンピオンは強かった! 果たしてゼインを倒すことができる戦士は出てくるのでしょうか!!》


 湧きあがる歓声の中、一度も振り返ることなくゼインは姿を消す。その後、倒れたタイタスの治療をするため救護班がその巨体を何とかタンカで運んでいった。




★・・・・・




「あれが……チャンピオンゼインか」

「すごかったですね。一撃も食らわずに倒してしまうなんて」

「相手が単調過ぎたっていうのもあると思うけど……実力は本物のようね」

「だろ? だろ? かー!! やっぱり、ゼインの戦いっぷりは気持ちがいいぜ! 闘技場で戦う者としての覚悟! 強者の余裕! 今日も、いい試合だった!!」


 隣でゲンが喜んでいる中、ジェイクはゼインの戦いっぷりを思い出していた。ユーカと同様に【魔機使い】だということはわかっていた。

 が、スキルを一度も使わずに魔力刃だけでタイタスを倒してしまうほどの実力。

 マジフォンは、魔力をコントロールするうえでかなり使い勝手のいい杖と言われている。詠唱をすることなく魔法を唱えられるのも、マジフォンのおかげだ。


「メアリス」

「なにかしら?」

「お前だったら、魔力刃をどれくらいの強度、そして長さにできる?」

「……そうね。私だったら、長さなら今のよりも長くはできそうだけど。強度まではわからないわね。元々私は魔力刃なんて作ったことないから」


 魔法使いとしてかなりの実力者であるメアリスでも、難しいはずの魔力刃。あの動きを見る限り、格闘技などもかなりの実力があるだろう。


「そういえば、気になったんですけど。ゼインさんが相手選手につけたあの×印ってなにか意味があるんでしょうか?」

「さあ、なんだろうな。ただ偶然にできたとも見えるが」

「ゲンさんだったらなにか……あれ?」


 闘技場のスペシャリストであるゲンに聞こうと思ったユーカだったが、すでにゲンの姿はなかった。他の観客もゼインの試合を観れたことで満足したように立ち去っていくのがちらほらと見受けられる。


「もう帰っちゃったみたいね」

「そんなぁ……」

「まあまあ、そう落ち込むなって。まだカイオルには滞在するんだ。知る機会はまだある」


 それに、ゲンだけではなく他にも詳しい人達がいるはずだ。カイオルに滞在している間に知っている者に出会えるかもしれない。


「気になるなら、本人に直接聞いてみればいいんじゃない?」

「本人に?」

「ええ。試合が終わって丁度暇でもしているんじゃないかしら?」

「どうだろうな。だが、ゼインもこの街の住民だ。もしかしたらばったり会うかもしれないな」


 その時は、ジェイクも個人的に聞きたい事がある。


「そういうことなら、今行けば間に合うかもしれませんね!」

「まさか……今会いに行くつもりか?」

「はい! 私はかなり好奇心旺盛なんです! それに同じ魔機使いとして色々と教えて貰いたいこともありますから!」


 よっしゃー! と元気よく立ち上がり観客席から立ち去っていくユーカ。残されたジェイクとメアリスは、目を合わせる。


「いつも以上に元気ね。あなた、何か言った?」

「まあ……言ったかなぁ。と、とりあえず追うぞ。ユーカを一人にするわけにはいかない」

「はいはい」

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