第四十二話
闘技場とは、基本的に三つの難易度が課せられている。
一番難易度が低い初級。
その上の中級。
最後に上級の三つだ。初級は、まだ頑張れば初心者でもクリアできるほどの難易度。しかし、中級までになると難しさが増していく。
どの難易度も、挑戦者同士が戦うが時々闘技場側で用意された戦士達と戦うこともある。初級では、出てくることはないが中級からは違う。
全五戦中必ず一度は出てくることになっている。闘技場の挑戦者を迎え撃つために用意された戦士というだけあって、その強さは桁違いとのこと。
そして、その難関を切り抜け全三つの難易度をクリアすることができた者だけがチャンピオンへと挑戦することを許される。
が、チャンピオンも挑戦権を得た者を毎日のように相手をするわけではない。チャンピオンに挑戦できる日にちは決まっているのだ。
もしくは、チャンピオンの気分次第ということもあるようで挑戦権を得てもかなり待たされることもしばしば……。そんなチャンピオン戦が猛すぐ行われようとしている。
カイオルに居る人々も活気に溢れていた。
「凄い人だかりですね。それほどチャンピオンさんの人気がすごいってことなんでしょうか?」
無事に席を取ることができたジェイク達は、飲み物を片手に今か今かと戦いの幕開けを待っている観客達に混ざっていた。
座っている席は、チャンピオンが出てくるであろう門が見える位置。何段もあるうちの丁度真ん中の席という中々良い席を取ることができたのだ。
「聞いた話じゃ、チャンピオンの座を取ってから八年も守ってきているって話だ。歴代のチャンピオンでは今のところ二番目に長い防衛をしているらしい」
「一番は誰なんですか?」
「初代、かしら?」
「ああ。初代チャンピオンは十五年も防衛をしていたんだ」
「十五年も!?」
闘技場はジェイクが生きていた時代から存在していた。
いや、ジェイクが生まれる前からあったと言われている。冒険者になった頃には、もう初代チャンピオンは王座を二代目に渡しており、どうなっていたのかは詳しくはわからなかった。
「しかも、初代が二代目に王座を譲ったのは負けたからじゃない。二代目のチャンピオンとの戦いを最後に自ら王座を譲ったんだ。二代目の実力を買ってな」
「詳しいな、そこの少年」
ジェイクの隣の席。そこに座っていた白髪が目立つおそらく六十代ほどの男が話しかけてきた。
「まあ、興味はあったからな」
「いいねぇ。俺は、生まれも育ちもここカイオルのゲンってんだ。しかも、闘技場が大好きでな。特にチャンピオン戦は一度も見逃したことがねぇんだよ」
「そ、それはすごいですね。あ、私ユーカって言います」
「ジェイクだ」
「メアリスよ。で? 闘技場にお詳しいおじ様。現チャンピオンはどんな人なのしら?」
ここに来る前に買ったミックスジュースをストローで飲み、問いかけるメアリス。おじ様と言われて若干嬉しそうに照れつつゲンは語っていく。
「今のチャンピオンは中々おもしれぇ奴でな。チャンピオンになった時は、何歳だったと思う?」
「えーっと……十五歳とか?」
ユーカが真面目に予想をするが、ゲンから語られる真実は衝撃的だった。
「残念! 今のチャンピオン、ゼイン=レイヴァードはなんと! 九歳でチャンピオンの座についたんだ!」
「きゅ、九歳!?」
「まあ、闘技場に挑戦するのに年齢は関係ないからね。とはいえ、その年頃の子はこんな命がけの戦いの場よりも学校や公園とかで楽しく過ごしているのが一般的だけど」
もちろん例外もいる。
例えば、ジェイクの場合はその時の歳だと学校に通いながら冒険者になるために戦いの訓練に明け暮れていた。
「いやぁ、あの時は驚いた。多くの屈強な体つきをしている大人達の中にまだ小さな子供が混ざっていたんだからな。戦いを望む者なら誰の挑戦でも受け付けるって言うのが闘技場だったんだが……子供が挑戦するのはあの時が初めてだったな」
今までの歴史の中でも、闘技場に挑戦したい最少年齢は十四歳。
九歳というのは、かなり目立ったはずだ。
その子供がチャンピオンになり八年も経っているということは、今は十七歳と立派に成長していることだろう。
「よほど強いんでしょうね、そのゼインっていうチャンピオン」
「あったりめぇよ! おそらくあいつは、歴代のチャンピオンの中でも初代に近い強さを持っていると俺は思うね」
《お待たせしました! ただいまより、チャンピオン戦を開始したいと思います!!》
待ち時間に話しているとようやく試合が開始されるようだ。
どこからともなく響き渡る男の声。
これは、声を増量させることができる魔機らしくこの広々とした闘技場で歓声に負けないほどの声だ。
「お、始まるみてぇだな。よーく見ておけよ。ゼインの勇姿を!」
「……」
「い、いったいどんな人なんでしょう」
ジェイクを含めユーカ、メアリスの三人はチャンピオンの姿を見るのは初めてだ。九歳にして今のチャンピオンになり八年も防衛するほどの強さを持つ男。
今のところはこれぐらいの情報しかない。
《まずは、挑戦者! 先日上級をクリアし見事挑戦権を獲得した戦士! タイタス=オーガンの登場です!!》
歓声の中まず現れたのは、挑戦者。
ジェイク達が座っている席にある扉から現れた屈強な体つきの男。獲物は背丈と同じぐらい大きな大剣。全身を鎧で守っており、防御もかなりのものと見た。
「奴は、その大柄な体と大剣で多くの敵を薙ぎ払い最短で挑戦権を得た男なんだ」
「見るからに、力任せな戦い方をしそうね」
「あんな人と戦ったことはありますけど……やっぱり改めてみると怖いですね……」
タイタスは、歓声に応える様に笑顔で大剣をかざす。
《さあ、続きまして! 現チャンピオン! 九歳という驚きの若さで王座を取った男! ゼイン=レイヴァードの登場です!!》
タイタス以上の大きな歓声が湧く。
重い鉄の扉が開かれ、ゆっくりと姿を現すチャンピオン。ユーカに緊張が走っている。目を見開きゼインの姿を……目にした。
「あれが……ゼインさん?」
「あら、結構どこにでも居そうな感じね」
現れたのは、ジェイクと同じぐらいの身長の男。
身に着けている防具は……いや、防具か? 見る限りでは防具というよりも普段着のように見える。そして獲物だが、右手に持っているのは明らかにマジフォンだ。
どうやらユーカと同じ【魔機使い】であることがわかる。
《お前がゼインか。思っていたよりも弱そうだな》
フィールド内の声も響き渡る。これは、フィールド内にある魔機のおかげだろう。試合前のチャンピオンと挑戦者の会話を楽しむための。
《貴様も、他の奴と同じ反応をするのか。……つまらないな》
《なにぃ?》
ゼインはめがねの位置くいっと直し、タイタスを挑発する。
「……あいつ。間違いなく強い」
「見た目に騙されるなってやつね。明らかに、タイタスって男は油断しているわ」
あの余裕。そして言葉。
本当に実力があるからこそ生まれるものだ。
《さあ、両者共に開幕からものすごいにらみ合いです! これは準備が良いと見てよろしいですか!》
《ああ。もちろんだ。こんなひょろっちぃ奴一撃で沈めてやる》
《俺も構わない。いつも通り、王座を防衛してみせる》
《わかりました! では、始めましょう! ルールはいたってシンプル! 相手を気絶させるか降参させれば試合終了です!!》
とは言うが、命を落とすこともある。そのことは、挑戦する前の受付で知らされていること。闘技場に挑戦する者達は、文字通り命をかけている。
「ゼイン!! 今日も、熱い戦いを見せてくれー!!」
《チャンピオンゼイン対挑戦者タイタス! 試合―――開始!!!》
戦いのゴングが闘技場内に鳴り響いた。