第四十一話
「よかったですね。いい武器が見つかって」
「……ああ」
武器屋バルゴルドから出てきた、ジェイクは鞘に納まった新しい武器を見詰め微笑む。元は、自分の武器だたから新しいというのはおかしいところだが、今の自分は一度死に生まれ変わった。
同じジェイク=オルフィスだったとしても、今のジェイク=オルフィスとしては新しい剣と言ってもいいだろう。
「しかも、元はジェイクさんのだからってタダでゲットできましたもんね」
これは、商品じゃない。それに、そいつは元々お前の剣だ。金はいらねぇよ。
武器屋の店員ゴルドゥが、笑顔でくれた。
武器がタダで手に入ったことにより、元々使うはずだった金が残りこれからの買い物などに回せそうだ。
「それにしても、変わった剣ですね。刃の部分に隙間があるなんて」
「あぁ、あれか。あれは……」
正直、ジェイク自身にもわかっていなかった。遺跡で見つけた当時は、専門家に調べてもらったことがあったが……どういう意図であんな作りをしているのかはわからず仕舞い。
敵を切るだけならば、なんの問題もなかった。
あんな隙間が空いているため、魔物の血などが入ったりしないか心配もしたが入る気配はない。
そうして使っている間に、ジェイクは普通の丈夫で切れ味のある武器として扱ってきた。そんな武器が、術式により所有者を待っていたりしたことからやはり普通の剣ではないことを改めて認識したが。
「正直俺にもわからないんだ」
「そうなんですか?」
「わからないことだらけだが……こいつは良い剣だ。俺の無茶な戦いに何十年も付き合って刃こぼれすらしないからな」
「そ、それはすごいですね。でも、それはジェイクさんの手入れが良いからじゃないですか?」
そんなことはない。
手入れは確かに、やっていたが武器屋などでやるような本格的な手入れはしていない。そのせいもあってこの剣に出会うまでは、何本も剣を壊していた。
「……さあ、どうなんだろうな」
鞘の上から剣を撫で、よしっと前に進む。
「次は、ユーカの買い物だ。俺は、スキルチップを見るのは初めてだから色々教えてくれるか?」
「もちろんです! とは言っても、まだ私もそこまで詳しくないんですけどね、あはは」
武器屋バルゴルドの正面。
そこに魔道具屋エメラルがある。ユーカの求めるスキルチップはもちろんのこと、回復アイテムやダンジョンなどに役立つ道具などさまざまな魔道具が売られている。
「てっきりスキルチップも魔機の部類に入っていると思っていたが、違うんだな」
「いらっしゃいませー!」
からんからんっとベルの音と店員の声が響く。
魔道具屋の中は、先ほどの武器屋とは違い女子も多く楽しそうな買い物雰囲気が広がっている。
「まあ確かに、マジフォンも魔機なのでスキルチップも魔機のひとつではあるんですが。魔法を閉じ込めている道具とも言えるので、魔道具屋でも販売しているんですよ」
「一応、魔機専門店はあるんだよな?」
「ですね。魔機専門店へ行けば、もっと色んなスキルチップが販売しているはずですが……やはり専門店というだけあって高めのものが多いんですよねぇ」
真っ直ぐスキルチップ売り場に向かうジェイク達。
ここに売られているのは、初級から中級のスキルチップ。おそらく、上級ともなれば専門店に行かない限り販売されていないのだろう。
「あ、これ可愛いスキルだと思わない?」
「いいね! これ買って今日のパーティーに使おうよ!」
ユーカと同じぐらいの少女達が戦闘向けではないスキルチップを選びレジへと向かっていく。ユーカと最初に出会った時に知ったが、遊び心もあるスキルが今では多く存在している。
少女達が立ち去った後、ユーカはおぉっと声を漏らしながらスキルチップを見詰めた。
「私が旅をしている間に、スキルチップが結構増えていたんだ……あっ、このウサギ耳を生やすやつとかメアリスにつけたら可愛いかも。こっちの尻尾を生やすやつとかも」
旅を始めてから、ユーカはこういうスキルチップを使うことはなくなった。別に忘れていたわけではないようだ。
ただ、余裕がなかったのだろう。
自分はまだまだ弱い。早く戦いにも慣れて、レベルも上げなくちゃと。
「それが欲しいのか?」
ジェイクは横から聞くと、ユーカはハッと我に返り咳払いをして魔法のスキルチップのコーナーへと移動していく。
「さ、さあどれにしましょうかねぇ」
今日は、魔法のスキルチップを買いに来たんだと離れていくユーカを見てジェイクはウサギ耳を生やすスキルチップを手に取った。
「ジェイクさん?」
「武器代が浮いたからな」
「で、ですがそんな……悪いですよ!」
「ユーカ。確かに、強くなろうとするのは悪いことじゃない。けど、お前はまだ若いんだ。年頃の女の子らしいことをしても俺は良いって思ってる」
無理をして、欲しいものを避ける必要はない。
そんな無茶をしてしまえば、人生損してしまう。ジェイク自身がそうだったように……。そんなことに、一緒に旅をする仲間にさせたくない。
「ユーカも、楽しく旅をしたいだろ?」
「は、はい」
「というわけだ。これからは、自分に素直になって欲しいものは我慢せず買っても良いんだ。まあ、所持金のことを考えてだがな」
「……はい!」
これでいい。悩める若者を導いていくのが、年長者としての役目。それに、個人的には口に出さないがメアリスがウサギ耳を生やしたらどんな反応をするか気になる。
「さて、後は魔法のスキルチップだ。……何を買うか決まったか?」
今のユーカならば中級魔法のスキルを使いこなせるはずだ。魔力量や固有スキルのことを考えると、中級魔法をひとつでも覚えることでユーカを更に成長させるに違いない。
しかし、初級魔法を極めると言うのもひとつの道だ。
初級魔法と言っても、地水火風の四大属性の他にも光、闇を初めとした多属性がある。《フレア》の他にも《バーン》という火属性の初級魔法があるように属性別に初級魔法だけでも多くの種類がある。
「……ジェイクさん」
「ん?」
「私、決めました!」
決意ある瞳で、ユーカが選んだのは……。
★・・・・・
「ありがとうございましたー!」
買い物を終えたジェイク達は、まだ時間があることを確認しどうしようかと考えていた。
まだメアリスも銭湯にいるか、もう出て一人で街を探索しているかのどちらか。
このまま街を探索していれば、合流できるかもしれない。
「いい買い物ができましたね! 早くこのスキルをメアリスに使ってみたいです!」
「じゃあ、このまま街探索をするか? もしかしたら、メアリスとばったり会うかもしれないからな」
目的のものとジェイクからスキルチップを買ってもらったことでユーカのテンションは上がっていた。
目に見えて、元気が溢れている。
「あ、待ってください。メアリスと会う前に、マジフォンにスキルを入れておかないと」
「私のことを呼んだかしら?」
袋からスキルチップを出した刹那、メアリスが登場。くすっと小さく笑いながら傘をくるっと回していた。
「もう銭湯はいいのか?」
「ええ。街探索をしようと思ったのだけど、一緒に居た子から楽しそうな情報を貰ってね」
「一緒に居た子って?」
マジフォンにスキルチップを入れながら、メアリスに問いかけるユーカ。
「ネロよ。……ふふ」
「な、なに?」
ユーカの体を見て意味深な笑いをするメアリスだったが、なんでもないわと言い話を戻した。
「実はね。今、闘技場のほうでチャンピオンへの挑戦権を得た人がいるらしくてね。その試合が一時間後に始まるらしいのよ」
「チャンピオン戦か……なるほど。それは楽しそうだな」
「でしょ? せっかくだから時間まで少し街探索をして、それから観戦にいかないって誘いに来たのよ」
戦いの聖地。そして、多くの猛者が集う闘技場の頂点。
どんな者なのか、気になる。
それに、せっかく戦いの聖地に来ているのに闘技場に行かないのは損をしてしまうだろう。
「わかった。それじゃ、街探索をしながら闘技場に行くか」
「決まりね。それで……あなたは何をしよとしてるの?」
これからの予定が決まったところで、マジフォンをメアリスに向けているユーカを見る。その目は、とてもキラキラとしていた。
「メアリス! ウサギは好き?」
「ウサギ? ええ、まあ好きよ」
「なら、ウサギ耳を生やそう!!」
「どうしてそんな発想になるのよ。というか、魔力の無駄遣いはやめなさい」
「もうおそーい!!」
メアリスの忠告を無視し、魔力を込めウサギ耳を生やすスキルを発動させた。そんなユーカに対し、メアリスはため息を漏らしながら傘を前に突き出す。
すると……見事にウサギ耳が生えた―――傘に。
「あら? 中々可愛いわね」
「確かに可愛いけど、そっちじゃないよー!!」
メアリスにウサギ耳を生やすのは、簡単ではなかった。