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第四十話

 ネロと早い再会をしたメアリスは、温泉にゆっくり浸かり世界でも数が少ないと言われている『サウナ』なるものを体験していた。

 熱した石を何個も積み重ね、密閉した部屋の中でただひたすらに汗を流す。ほとんどのものが慣れないサウナにすぐダウンして五分も経たずに出てきてしまうが、メアリスとネロは平然としていた。

 現在、サウナに入り五分は確実に経っている。


「まったく、行くなら行くで直接挨拶してくれればよかったのに」

「ごめん。僕も色々とやることがあってさ。それに、メアリスはさっさと宿屋に向かっていったじゃないか」

「まあそうね。でも、あなたの用事って銭湯に来ることだったのかしら?」


 体中から汗が流れ落ちる。

 ここに入る前にも注意書きがあった。熱中症で倒れてしまうおそられがあるため、危険と感じたらすぐに出ることと書かれていた。

 メアリスもネロも全然平気というわけではない。

 やはり密閉された部屋の中で、熱が籠もっていると息苦しい。だが、これはかなり効果的だ。異世界人からの提案で作られたサウナ。

 体中から汗を流すことで、血行を良くしたり、肌の艶を良くしたりと色んな効果があるようだ。


「違うよ。用事を済ませてから、ちょっと汗を掻いたからここに来ただけ」

「……その用事っていうのは、何なのかはさすがに話してはくれないわよね?」

「うん、残念だけど。秘密ってことで」


 ネロが殺し屋だということは知っている。

 もしかすれば、そっち関係の用事なのかもしれない。だが、この街に来たばかりのネロが依頼をされ、それを済ませ銭湯に来る。

 あまりにも短い。

 それとも、予めカイオルで誰かを殺してくれと依頼をされていたのかもしれない。


(まあ、深く突っ込むと厄介なことになりそうだし。今は、止めておきましょうか)

「どうしたの? メアリス」

「なんでもないわ。それにしても、いい具合に汗が流れるわねサウナは」


 注意書きには、長くても十分くらいが妥当だと書いてあった。あまり汗を流しすぎると、体中の水分がなくなり脱水症状などになることがあるため我慢大会のようなことは控えるようにとのことだ。

 サウナに入ってから、もうすぐ十分。

 チラッとネロを見ると、大量の汗を流しているため肌に艶が出てきているように見える。元男とは思えないほどのバランスの良いスタイル。

 この場にユーカが居たとしたら、また胸がどうとかなんだと言い出しそうだ。


「だね。そろそろ十分になるけど。どうする? メアリス」

「どうするって、我慢大会でもしたいの?」

「あははは。さすがに、そんなことはしないよ。僕もメアリスも、体を休めるために銭湯に来てるのに。我慢大会なんてしたら、余計疲れちゃうでしょ?」


 メアリスとしてはまだまだ余裕がある。

 だが、ネロの言うとおり、休むために来ているのに脱水症状や熱中症などで倒れてしまったら元も子もない。


「それじゃ、もうちょっとしたら上がりましょうか」

「上がったら、冷たい飲み物をだね。あ、そういえばジェイクとユーカは今何をしてるの?」

「そうね……今頃は、二人仲良く買い物を楽しんでいるんじゃないかしら」


 目に入りそうな汗を払い、天井を見上げる。




★・・・・・




 戦いの聖地と言われているカイオルの武器屋は、多くの戦士達が訪れる名店。戦士達は、ここで武器を揃え闘技場で戦う者が多い。

 今まで使い慣れている武器を信じて使う者も少なくはないようだが。やはり、より強い武器を求めてこの店、武器屋バルゴルドに訪れるそうだ。


「ここがバルゴルドか……名店だけあって、雰囲気から違うな」

「中にも、すごくギラギラな目をした人が多いですね」


 皆、戦いに備え、武器を見定めていた。

 その表情と目はすでに戦いのフィールドに立っているかのようだ。剣から槍、斧や投げナイフといったさまざまな武器が並んでいる。


「いらっしゃい」


 店に入ると、すぐに店員の声が聞こえる。外からも感じ取れた戦士達のオーラは、中に入ったらより一層肌で感じ取れる。


「こ、これは騒いじゃいけない雰囲気ですね……」

「武器を持って騒げば、色々と危ない奴に見えるからな」

「そ、そういう意味で言ったんじゃないんですが……」


 明らかに、店の中の圧に押されているユーカ。それをわかったうえで、ジェイクは冗談で和らげようとしたのだが、失敗したようだ。


「買い物だ。肩の力を抜いて、気軽にいれば良いんだ。襲ってくる連中なんていない。ここには、武器を見定めにきているだけ。戦うなら……相応の場所でやるはずだからな」


 ジェイクは、ぽんっとユーカの背中を押し堂々と店の中にある武器を見ていく。これからの旅を考えると今までどおりの剣ではまたすぐにダメになってしまう。

 やはり、ここは耐久力の高い武器を選ぶべきか。

 それとも、今まで手に入れた素材で武器を新調するか……。


「あんた、ちょっといいか?」

「ん? 俺のことか?」


 武器を見ていると、レジに居た左目を眼帯で隠していた男が話しかけてくる。


「そうだ。あんた、見た目の割には相当腕のたつ冒険者みたいだな」

「そんなことがわかるんですか?」


 確かに、ジェイクの今の装備は転生してから変わっていない。ほとんど初心者が装備するようなものばかりだ。

 今までは、ジェイク自身の実力があったからこそ装備が弱くても戦ってこれた。普通ならば、ジェイクを知らない者から見れば弱い相手と思うのも無理はないはず。

 それを一瞬で見極めた店員。

 ユーカは、驚きを隠せないでいる。


「おう、俺にはわかるんだぜお嬢ちゃん。伊達に戦いの聖地で武器屋の店員をやっているわけじゃねぇからな。ここには多くの猛者どもが集まってくる。皆、戦いを求め戦てぇっていう暴れん坊ばかりだ。そんな奴らを見て、相手にしていると自然とわかってきちまうのさ。体から発するオーラ。そして、体つきや顔つき、店に入ってきた時の落ち着きようから……あんたは相当な実力者だってな」


 どうよ! と自慢げに笑う。

 自分の実力を見抜いた店員の男。彼も、ジェイクから見てかなりの実力者だと感じ取れる。


「さすが、カイオルの武器屋店員だな」

「まあな。俺の名は、ゴルドゥだ。こう見えて、俺も結構な実力を持った冒険者だったんだ。今は、怪我で戦えなくなったから武器屋の店員をやってるが……どうだ? 注文があればお前さんには武器を作ってやるぜ。今じゃ、鍛冶屋として名が知れてるからな」

「どうしますか? ジェイクさん」


 見ただけでジェイクの実力を見抜いた男だ。作る武器も相当なものが出来上がるに違いない。だが、問題は今ある手持ちの素材で、どれほどの武器を作れるかということだ。

 今のところ一番武器としていい素材は【キリキツネ】の素材。

 ネロは、武器の素材としてはかなりのものだと言ってはいたが……。


「……あんた、ジェイクって名前なのか?」

「ああ」

「フルネームは?」

「ジェイク=オルフィスだ」


 ジェイクのフルネームを聞いてから、ゴルドゥの顔つきが明らかに変わった。いつものパターンなら、伝説のと思われるのだろうが。


「……そうか。おい! フィック! しばらく店番を頼む!!」

「は、はい!」


 他の客人に武器の説明をしていた若い店員に、店番を頼むように伝えたゴルドゥは店の奥を指差す。


「ちょっと俺についてきな」

「……わかった」

「お嬢ちゃんもついてきていいぜ」

「は、はい。それじゃ、お言葉に甘えて」


 ゴルドゥの後ろをついていき、店の奥へとどんどん進んでいくジェイク達。途中にあった鍛冶場を通り過ぎ、辿り着いたのは武器庫。

 大きな扉の奥には、ここで作られた武器が種別順に並べられていた。まさか、ここから武器を選べと言うのか? そう思ったジェイクだったが、違った。


 武器庫のさらに奥に何か雰囲気のある鉄の扉がある。

 ゴルドゥはそこの錠を解除し、語りだす。


「今から九十年ぐらい前の話だ。俺の親父がとある山脈地帯で武器を見つけたんだ」

「山脈地帯……?」


 ジェイクの脳裏には自分が金色の蚊を倒し、レベル100になり……死した場所が浮かぶ。


「その武器は、かなり妙なものでな。術式の鞘っていうのかね。そんなもので、守られていて刃が露にならねぇ剣なんだ」


 重い鉄の扉がゆっくりと開く。

 近くにあった電気のスイッチを押し、真っ暗だった部屋が照らされる。ど真ん中。部屋のど真ん中に、とある剣が飾られていた。


「あれは……!」


 その剣を見た瞬間、ジェイクは目を見開いた。

 忘れもしない。

 自分が、死ぬまで使っていた半身のような剣。


「あんたが、本物のジェイク=オルフィスだってんなら……あの剣の術式を解けるはずだ。ありゃ、持ち主を待って誰にも使われまいとしてるんじゃねぇかって死んだ親父言っていた。俺は、武器がそんな意思を持つようなことがあるかって言ってやったんだが……」


 無言のままジェイクは、剣に近づいていく。

 ユーカは、その後ろ姿をただただ見守っているだけだった。今は、自分が口出しなどをできるような雰囲気ではない。


「大切に使われたものには意思が宿るっていうのが、親父の口癖みてぇなものだったの思い出してよ。今になって、そうなんじゃねぇかって思ったんだ」

「……」


 ゴルドゥが言うように、ちゃんとした鞘ではなく、術式が刃に絡まっているかのように刻まれている。 持ち主を待っていた。


(ここは、パラレルワールドだ。こいつも、本当の俺の剣じゃないかもしれない。もしかしたら、の俺の剣)


 ジェイクの死ぬ間際に使っていた剣は、とある遺跡から見つけたため確かに普通の剣ではない。が、意思があるというのは何十年も使っていたが、感じなかった。

 だが、この剣がパラレルワールドが作り出したもし意思がある剣だったらという代物であるのなら……そして、本当にジェイクを待っていたというのであれば。


「……待たせたな。相棒」


 柄をぎゅっと握り締め、その剣を受け入れる。

 刹那。

 ガラスが割れたかのように、術式が弾け、その美しき刀身が露になった……。

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