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第三十七話

「またやられたか」


 旅人が休むために建てられた小屋。

 その中には、見るに耐えない光景が広がっている。屈強な体つきをしたバンダナの男が、その光景を目の当たりにした後、そっとドアを閉める。

 そして、すぐに後ろに控えている蒼髪の少女に話しかけた。


「おい、フラン! 俺達の仲間を殺っているのお前の兄貴に間違いないんだな?」

「そのはずよ、レックス。微かにだけど、お兄ちゃんが使う力が残留しているから」


 フランは、小屋に残っている微かな力は自分の兄のものだと言う。が、レックスの横にいた部下の一人がフランの言い分に疑問の言葉を投げる。


「け、けどよ。俺が見た時は、明らかに女だったぜ? 黒髪で細長い剣を持っているって言うお前の情報には当てはまっていたけどよ。お前の兄貴は、ツインテールなのか?」


 どうやら、ここにいる部下は小屋の中でやられた仲間達と行動を共にしていたらしいが一人用を足しに行っていたので、殺されることはなかったようなのだ。

 その時に、異様な殺気と仲間達の叫び声につい茂みに隠れ様子を見ていたところ……出てきたのは黒髪ツインテールの少女だったという。


「まさか。確かに、お兄ちゃんは女顔で髪の毛も多少は長かったけどツインテールにはしていなかった。昔からよく女の子だって間違われることもあったけどね」

「間違えるってレベルじゃねぇぞ、ありゃ。だって、胸! 胸があったんだ。しかも、お前のちいせぇ胸とは比べ物にならないぐらいおお―――いでぇっ!?」


 ジェスチャーまでし、大きい胸があったと表現していた男の腕をフランは折れるんじゃないかというほどに捻る。

 どす黒い笑みを浮かべ、耳元で囁いた。


「誰の胸が、なんだって? ヨウスケ」

「すみません! すみません!! もう言いませんから、離してぇ!?」


 必死の謝罪に、フランは力を抜き背中を蹴り飛ばす。

 顔面から地面に突っ込んだ男は小さい悲鳴を上げる。


「まったく。男はどうして胸の大きさに拘るわけ? あんなの大きいと動くのに邪魔なだけじゃん。私は、あんなもの全然! 欲しくないわ」

「……欲しいって思ってるくせに」

「なにか、言った?」

「いえ! なんでもないっす!!」


 仲間達のどうでもいいやり取りを見て、レックスは眉を顰めるもすぐに姿を現した男に視線を向ける。

 布で口周りを隠し、背中には円を描くように剣が収まった鞘を背負っている。


「おお、バジルか。どうだった?」

「この先の平原にて、標的を発見した。しかし、我々が追いつく頃にはその先にある街に到着するやもしれん」

「上出来だ。居場所さえはっきりしていれば、後はどうとでもなる」


 やっと見つけたぜ! と拳を鳴らす。


「だが、ひとつ問題が」

「なんだ、問題って」

「私の年齢はいくつでしょう!」

「そっちの問題!?」

「標的の周りに、只ならぬ力を持った連中が同行していた。特に、剣士の男と傘を持った女は油断をしていると確実にやられる」


 フランのボケを軽くスルーしたバジル。しかし、めげることなくヨウスケにだけ「で? いくつだと思う?」と言い続けている。

 対しヨウスケは「じゅ、十七?」と真面目に答えるも不正解だったらしく蹴り飛ばされた。


「ほう。てめぇがそこまで言う連中ってことは、本物なんだろうな。けど、それでも俺は止まらねぇ。誰の命令か知らねぇが、俺達に喧嘩を売ったからには容赦はしねぇ」

「久しぶりだなぁ、お兄ちゃんと会うのは……。私達は、命を奪うために生まれてきた一族なのに。今でもお兄ちゃんは、殺すのに理由がいるとかわけのわからないこと、言っちゃうのかなぁ」


 青空を見上げ、フランは不気味に笑い、横切った野生のウサギを……容赦なく切り裂いた。




★・・・・・




 星が空に輝く静かな夜。

 ネロを加え、旅をして二日が経った。


「長かったが、明日にはカイオルの街に到着するはずだ」

「カイオルといえば、有名なのはやっぱり闘技場よね」


 カイオルは、闘技場が目当てで集まってくる者達が多い。闘技場で戦いを求める者。闘技場で戦いを観戦する者。

 闘技場を建設したことで、カイオルはかなりの賑わいを誇っている。


「闘技場かぁ。戦うのは、ちょっと無理だけど。見るだけなら興味があるなぁ」

「今のあなただったら、結構戦えるんじゃない?」


 カップに入った紅茶を口にしながらメアリスは言うが、ユーカは思いっきり首を横に振る。


「無理無理! 魔機使いって言っても魔法メインでしかもレベルはまだ12だよ? 挑戦するなら、もっと経験を積んでレベルも上げないと……」

「確かに、魔法メインで挑む奴は少ないだろうな」

「でも、案外度胸のある人とかは低レベルでも構わず挑戦しちゃうかも!」


 と、厚い肉が挟まったサンドウィッチに齧り付くネロ。

 闘技場とは、戦いを求める者ならレベルが低かったりしても挑戦を受け付けている。ただし、それ相応の覚悟がなければならない。

 闘技場で戦う者達は、純粋に強者と戦いたいと思っている者もいれば、賞金目当てで挑戦しに来ている者もいる。

 各々目的は違えど、戦うからには本気。

 命をかける覚悟で挑んでいる。


「ジェイクさんはどうですか? ジェイクさんなら優勝とかしちゃうんじゃないですか!」


 なんと言っても、レベルが100。戦いの経験もそこいらにいる冒険者達とは比べ物にならない。ユーカは、期待の眼差しでジェイクを見詰めている。

 が、ジェイクはそうだなぁっと乗り気ではない反応だ。


「闘技場で優勝すれば、賞金も手に入るわ。これからの旅のために、資金は多いほうが良いんじゃない? こういう大食らいとかにまた出会うかもしれないし」


 大き目のサンドウィッチをぺろっと平らげてしまったネロを見るメアリス。視線に気づいたネロは、口元についたソースを舐めた後えへへっと笑う。


「闘技場は、初級から上級まであるんだっけか?」

「そうだよ。後、その初級、中級、上級の三つを優勝することで闘技場のチャンピオンに挑戦できる資格を得られるって聞いたかな」


 今までは、レベルを上げるために戦いを続けてきた。

 対人戦は適度にやっていたが、闘技場のような場所で戦うことはまったくない。そもそも、その頃は闘技場にはまったく興味がなかった。

 人間の希望の星となろうとしているのに、人間同士で争うのはおかしいとジェイクは避けていたのだ。


「カイオルは、闘技場以外になにかあるの?」

「そうだねぇ。大銭湯とかがあるって言われてるよ。戦いで疲れた戦士達を癒すため~とかで建てられたらしいけど。その銭湯目当てで来る人も多いんだって」


 その話を聞き、ジェイクとしてはそちらのほうに行きたいと思ってしまった。やはり、旅をし続けていると自然に癒しを求めてしまう辺り、充実した冒険ができている証拠なのだろう。


 闘技場か、温泉か。

 そして、忘れてはいけない剣の新調。

 せっかく、剣に丁度いい素材を手に入れたのだ。闘技場に挑戦するにも、武器がボロボロではかっこもつかないし戦い続けられない。

 もしかすれば、武器屋でこれだ! と思う剣に出会えるかもしれない。そう考えると、最初に武器屋へ行くのもいいかもしれない。

 カイオルに到着してから、どこに行こうかと悩み続けたジェイクであった。

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