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第三十六話

 黒髪ツインテールの少女ネロと出会ったジェイク達。

 食料を落とし、このまま一人にしておくのは可哀想だとこれから向かう街まで一緒に行動することになった。

 次の街までは最低でも三日はかかる。金はあるようだが、この辺りいったいには店がない。運がよければ商人達に出会えるかもしれないが……。


 街で店を開いている商人もいれば、旅をしながら商品を売っている商人もいる。いくら旅の支度をしっかりしていたとしても、旅にトラブルはつきもの。

 ネロのように気づかないうちに食料などを落とす事だってある。

 そんな困っている冒険者達を助けるのが、旅の商人。金を払えば、食料や食器などを売ってくれる。もちろん、一人で旅をしているわけじゃない。

 護衛などを雇ったり、中には商人でありながら冒険者でもある者だっている。

 馬車で移動しているため、在庫もそれなりにある。


 とはいえ、旅の商人は全国を回っているため、会えない時は会えない。会えたら、迷わず食料などの補充をしたほうがいい。


「ごめんね。食べ物をごちそうになったうえに、次の街まで同行させてもらちゃって」

「冒険者は助け合いだ。それに、あのまま放置して飢え死にするんじゃないかって気になってしょうがないからな」

「ジェイクは優しいね。さすが、伝説の冒険者!」

「ははは。それ、褒めてるのか?」

「もちろんだよ。そうだ! 一度、僕と手合わせしてもらえないかな? ジェイクの実力を体で感じたいんだ」

「ああ、構わないぞ」

「ありがとう」


 すっかり打ち解けたように、笑顔で話し合う二人。そんな二人を、ユーカとメアリスは後ろから見詰めている。

 メアリスは、いつものように傘を差し、のんびりとした雰囲気で歩いているが……ユーカは違った。


「むー。やっぱり、元が男だけあってジェイクさんとすぐに仲良くなってるね」

「とはいえ、今は女子よ。彼も男だから、意外と元が男だったとしても関係なく可愛い女子って見ているんじゃないかしら」


 ネロから打ち解けられた真実。

 今は、誰が見ても美少女なのだが、元は男だという。そして、どうしてネロが男から女に変わってしまったのか。

 数十分前のネロの言葉を思い出すユーカ。

 元が男だと言うことにも驚いたが……ネロ自身の正体と仕事の内容にも衝撃を受けた。


『どうして、女に?』

『すごく簡単なんだ。仕事でね。ある魔法使いを殺すことになったんだ。で、仕事に失敗して、その魔法使いから術を受けた。それが……性別変換魔法』

『えっと。仕事で殺すって……ネロは何をしている人なの?』

『殺し屋、だよ。あ、でも大丈夫。僕は、依頼を受けない限りは無闇に人は殺さないから。それが僕達の掟のひとつなんだ。まあ、殺意を持って襲い掛かってきたなら……容赦はできないけどね』


 あの時のネロの目。

 そして、体から溢れ出た異質なオーラ。まだ素人なユーカにもはっきりと感じ取れた。ネロは……本物の殺し屋だ。


「あの子の目的は、男に戻ること。つまり、術をかけた魔法使いを殺すことってことね」

「……あんなに明るくて、親しみやすい子なのに。人は見かけによらないって言うけど。ネロが良い例だって思うな」


 今も、ジェイクの【ステータスカード】を見て、子供のように驚いている姿が目に入る。


「というか、くっ付きすぎじゃない? あれ」

「ええそうね。もう、二人に間にほとんど隙間がないってぐらい近いわね」


 別にネロは、ジェイクに好意があり近づいているわけではないのだろうが、まだ会って間もないはずなのに、距離は近すぎる。


「ちょっと混ざってこようかしら」

「え?」


 お先にーと言わんばかりに、ジェイクの左隣にメアリスは並ぶ。


「どうした? メアリス」

「別に。なんだか楽しそうだから、私も混ぜてもらおうかなーって思っただけよ」

「僕は構わないよ。君にも、聞きたい事があるから」

「あら。それじゃあ、遠慮なく会話に参加させて貰うわね」


 と言いつつ、後ろにまだいるユーカをチラッと見る。あなたも来なさいと言っているようにユーカには見えた。

 このままでは、自分だけが仲間はずれ。

 そういうのは素直に寂しい。

 でも、いったいどこに行けばいいのだろうか? ジェイクの右隣はネロがいて、左隣にはメアリスがいる。

 いや、悩む必要はない。兎に角、会話に参加しないと。


「……魔物か」

「しかも、随分と強そうね」


 ユーカが悩んでいると魔物の出現にジェイク達が立ち止まる。現れたのは、キツネのような細長い獣。だが腕には剣のように鋭い刃がついていた。

 目は赤く、明らかにこちらを威嚇している。

 数は、二。ジェイクも見たことがない新種の魔物だ。


「【キリキツネ】だね。草原などによく出る魔物で、その腕にある刃で獲物を細かく切り裂き栄養分にするんだ。ちなみに、キリキツネが落とす素材から作られる武器は結構切れ味が良いらしいよ」

「へぇ。それはいい情報を聞いたな。そろそろ新しい剣にしようって思っていたところなんだ」


 鞘から抜いた剣の刃は相当刃こぼれをしていた。

 元々転生した時に装備していた普通の両刃剣。ジェイクの激しい戦いにこれまで耐えてきたが、やはり限界がきている。

 次の街に到着したら、剣を新調しようかと考えていたところだった。そして、目の前には剣を作るのに丁度いい素材を落とす魔物がいる。

 これは……是が非でも素材を落としてもらわないと。


「そういうことなら、僕にやらせて。食べ物を分けてくれたお礼ってことで」


 ジェイクの前に立ち、ネロは剣を構える。


「大丈夫なの?」

「もちろん。僕に任せて!」


 くんっと、身を屈ませ弾かれたかのように二匹のキリキツネへと駆ける。

 そして。


「はい。これで終わり」

「え? さっき攻撃した、の?」


 ユーカには、ただキリキツネの間を通り過ぎただけに見えた。が、剣を鞘に収める音が聞こえたと思いきや……キリキツネが四散。

 青白い経験値はネロに吸い込まれ、その場には二つの素材が落ちる。


「……ああ。俺も、完全には見えなかったが確かに斬った」

「殺し屋っていうのは、嘘じゃないみたいね」

「おーい! 運良く、二つも落ちたよー!」


 素材を持って、元気に戻ってくるネロを見てメアリスは珍しく額から汗を流した。ジェイクですら、完全には見えなかった攻撃。

 何撃が見れば、慣れてくるはずだが……戦場ではそうも言ってられない。

 彼女が敵じゃなくてよかったと、内心で安堵する。

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