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第三十三話

「ごめんね、ジェイクさん。戦い終わったばかりなのに、労働なんてさせて」

「気にするな。これだけ荒らされていたら、二人じゃ明日まで間に合わないだろ? それに、旅に出る前にもう一度ここの温泉に浸かっていきたいからな」


 ライザム達との戦闘の後、荒らされた温泉宿を片付け、破損しているところを直している。なんとか最小限に抑えたようだが、脱衣所の棚や籠が切り裂かれていたり、ドアが破壊されたりと。

 魔力による補強なども積極的に使い、順調に作業は進んでいく。


「でもよかったわ。今日来るのが、ジェイクさん達だけで。もし、他のお客さん達が来ていたらどうなっていたことか……」

「せっかく体を休めるために来たのに、戦いに巻き込まれたら大変だもんな」

「私達はその大変な目にあった身なんだけどね」


 女湯の清掃を終えたユーカ達が戻ってきた。

 汚れてもいいように、宿にあった真っ白なシャツと半ズボンに着替えて。メアリスとしては、白い服を着るというのは闇属性使いとしてはいやらしいが、なんだかんだで似合っているとジェイクは感じた。

 デッキブラシを手に、額の汗をタオルで拭う。


「巻き込まれるのはなんだか慣れちゃったから、どうってことないよ!」

「あなたも少しはたくましくなったわね」

「でしょ? 私はちゃんと成長しているんだから!」


 ジェイク達がいない間、ユーカが自ら一人で戦うことを決意したのをマリエッタから聞いた。あれだけの強者に一泡拭かせた。

 勝てはしなかったが、それだけでも十分成長している。

 更にこれからのユーカの成長が楽しみになったジェイクだった。


「そっちは終わったみたいね。こっちも丁度終わったから、今から新しいお湯を入れるわ」

「あ、ジェイクさん。男湯のほうはもう終わっていますので、お先に入ってください」

「いいのか?」

「ええもちろん。ささ、ごゆっくり浸かってきてちょうだい」

「お、おう」


 半ば強引に入れと言われたような感じだったが、ジェイクはマリエッタの好意に甘え、先に温泉に浸かることにした。

 服を脱ぎ、籠に入れ真っ白なタオルを持っていざ温泉へ。

 外に出ると、すでに太陽が沈みかけている。茜色に染まっている空を見上げながら、ジェイクは体を洗い髪の毛を洗い、すっきりしたところで新しい効能に変わっている湯へと浸かる。


「……ふう。これが『ジグル草』と魔法によって作られた薬剤を入れた温泉か。これは確かに、体が芯から温まるな」


 色は真っ白と変わっていないように見えるが、最初に入った時よりも体を包み込む熱のようなものがどことなく違っている。

 そして、湯からは心が落ち着くような花の香りが―――ん?


「ふふふ」

「……どうしたんだ? マリエッタ」


 またあの時と同じだ。

 気づけば、岩陰に隠れて不気味に笑っているマリエッタ。ジェイクに見つかったところで、マリエッタは近寄っていき、また笑う。


「ジェイクさん。あたし達は、お互い人間としての幸せを掴むことなく死んだ仲間」

「あ、ああ」

「でも、ジェイクさんは生きていて、あたしは幽霊」

「……」


 徐々に顔を近づけながら、淡々と喋るマリエッタ。

 喋る度に、近づく度に不気味さが増していく。


「ジェイクさん……人間と幽霊で、子供はできると思うかしら?」

「い、いや、俺にはさっぱりわからないな」

「そうよね。でも、あたしは幽霊でも実体化できる。だから考えたの。もしかしたら、実体化をすることで男性と交われば……子供ができるんじゃないかって!」


 人間と幽霊の間に子供ができたというのは、聞いたことがない。そもそも、幽霊は実体を持たないので生きている人間に触れることすらできない。

 しかし、マリエッタは実体化ができる。

 実体化できるということは、生きているものとも触れ合える。


「た、確かにそういう可能性はあるかもしれないが……」

「でしょ? でしょ!? もし子供が生まれれば、半分人間で半分幽霊の新種族が誕生するんじゃないかしら! ジェイクさん……さあ、あたしと一緒に幸せを掴みましょう……!」


 もはや暴走状態。

 今まで我慢してきたことが、一気に爆発したかのようにマリエッタの眼光は鋭く、息が荒い。謎の威圧感に押されてしまうジェイク。

 どうすればいい! と思った刹那。


「そうはさせません!!」

「ゆ、ユーカ!?」


 壊れるんじゃないかと思われるほどの強さで戸を開け現れたのは、タオルを体に巻いたユーカ。その後ろからは平然と裸で洗い場に向かっていくメアリスとライラがいた。


「あら。意外と早かったわね」

「突然いなくなったから、もしやと思いましたが……やっぱりジェイクさんを襲おうとしていたんですね!」

「ライラ。髪の毛洗ってくれるかしら」

「はーい、お任せあれー」


 一人マリエッタに挑んでいく姿勢を見せているユーカ。メアリスとライラは、完璧にこっちに加わろうとはしていない。


「襲おうとなんてしていないわ。今からしようとしていたのは、新種族の誕生の儀よ!」

「なにが誕生の儀ですか! 私でも、マリエッタさんから溢れ出る腐のオーラがビンビン伝わってきましたよ! だめです、絶対だめです! ジェイクさんは私達とこれからも一緒に旅をするんですから!」


 温泉に駆け込み、ジェイクの腕を引いてマリエッタから離そうとする。

 しかし、マリエッタも黙ってみているわけがない。

 自分の体を実体化させ、空いている右腕を掴んだ。


「離して下さい! ジェイクさんは渡しません!!」

「いいじゃない。ただあたしは、幸せが欲しいだけなのよ……!」

「幸せが欲しくても無理やりなんてダメに決まっています! ジェイクさんだって、そう思いますよね?」

「そう……だな。確かに、無理やりはよくないと思う」


 少なくとも、ジェイクはお互いに好きということを理解したうえで付き合い、そして子供を作りたいと思っている。

 恋愛経験のないジェイクにとっては、当たり前のようなことしか言えないが。


「そういうのは余裕がある人だから言えるのよ。あたしは……あたしは幽霊なの! 可能性がないに等しいのよ! だから無理やりだっていいじゃない!」

「ふう……周りがうるさいけど、やっぱり温泉はいいわね」

「ですねー」


 その後も、女の戦いは続いた。

 ジェイクはどうしたらいいのかわからず、ただただユーカとマリエッタの間で困惑していただけ。

 とはいえ、さすがに長く続いたことでユーカは意識が朦朧とし、マリエッタは実体化の維持ができなくなり、女の戦いは決着がつかぬまま終わった。

はい。というわけで第三章はこれで終わりです。

次回は、第四章。

新キャラはもちろんのこと、新展開も盛りだくさん! ……は言いすぎですね。

皆さんの意表をつくような展開にしたいなーとは思っています。それでは、また次回!!

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