第三十一話
「で? 大丈夫なの、あなた」
「ああ。今は、なんともない。それよりも、思っていた以上に採取に時間がかかったな」
薬草採取に時間がかかってしまい、マリエッタ達を待たせてしまっている思いジェイクは急いで温泉宿に帰ろうとする。
「それにしても、よく飛んでくる魔物だったわね」
「そうだな。この辺りには【ブラッチ】の巣があるのかもしれない」
あれから、何度も【ジグル草】を採取している途中で弾丸のように襲ってきたブラッチ。ざっと数えただけでも八体は倒した。
ブラッチは、大きな木の上に巣を作る。
そして、巣に近づいた者を容赦なく襲い血を吸う。茂みに隠れ襲ってくるのは、食事の時だけ。食事以外の時は巣でずっと暮らしている。
「確か、巣はこういう大きな木の上に作るのよね」
丁度この辺りでは一番大きな木を発見。
メアリスは傘をくるくると回しながら近づいていく。
「ああ。その通りだが」
「……」
ドゴン!
無言で、傘を豪快に目の前の木へとスイング。
数秒後、大量のブラッチがメアリス目掛け襲い掛かってくる。だが、針山のように突き出てきた闇に貫かれメアリスへ届く前に全員串刺しになって四散。
「容赦ないな、お前」
「これで、少しは安心して森を抜けられるでしょ? さあ、行くわよ」
食うか食われるかの世界。
魔物達も生きるために人などを襲い、人間達も生きるために魔物を倒す。メアリスの言うとおり、これでこの森でブラッチに襲われる心配はなくなった。
(巣がひとつだった場合だけどな……)
メアリスは知っているのかどうかはわからないが、ブラッチの巣はひとつや二つで収まらない。どこかに他の巣があるかもしれない。
それを全て潰していくのは、かなり時間がかかる。そのため、今はジグル草を急いでマリエッタに渡すため森を抜けるのが良い。
「ジェイク。あれ」
数分後、森を抜けてしばらく移動したところで誰かが戦闘をしているところを目撃した。
「……あれは、マリエッタとライラ。それに」
ユーカが、一人で二メートルはある巨漢と戦っている。
素早い動きで、的確に大剣へと魔法を放っていた。
狙いは……大剣の破壊か? もし巨漢自身を倒すのであるなら背後に回りこんで攻撃をするなどの方法があるはず。
それをしないで真正面から魔法を放っていると言うことはそうなのだろう。
「急ぐぞ、メアリス!」
水の壁を作り、巨漢の真横へと回りこみ魔法を放った。
光の球が豪快に弾ける魔法。
あれは……光属性の魔法だ。
「あの子……いつの間に光属性魔法なんて」
闇属性使いとしては、なんともいえない気持ちになったメアリスだったが最後の一撃だったのか。ユーカはもう動けない状態にあった。
「沈めぇ!!!」
振り下ろされる大剣。
ジェイクは、一気に加速し鞘から剣を抜いた。
「な、何だ貴様は!」
「―――ジェイク、さん?」
間一髪のところで、間に合ったジェイク。
状況を把握するのは容易だった。
おそらく、こいつらはマリエッタの力を狙う者達。ジェイク達が薬草採取に出てからそう遅くない時間に襲撃。
三人で戦っていたが、ユーカが一人で勇敢に戦った理由は……巨漢が持つ大剣。刀身を見れば、何かの術式が刻まれていた。
今は、亀裂が入り術は発動しないようになっているが。
「ふん。数は増えようとこちらの優勢には変わりない」
「あら? 言っておくけど、私達は相当強いわよ。それに、ただの鉄の塊となった武器で勝てると思っているのかしら」
メアリスも、大剣に刻まれているのが術式だということには気づいているようだ。
「無論だ。俺達ライザム魔法騎士団の剣は決して折れん! 者ども! 一斉にかかれぇ!!」
『おおお!!!』
「魔法騎士団、ね。だったら、受けきって見せなさい! 私の闇を!!」
折りたたんだ傘をおもむろに天へと投げ捨てるメアリス。
突撃してくる騎士団の頭上で、開き闇が溢れ出す。
「光を貫く、闇の雨よ! 《ダーク・レイン》!!!」
傘へと降り注ぐのは、闇の雨。
防御壁を咄嗟に張り、防ごうとするも容易く貫き騎士団を襲う。
「ぐああっ!? なんだこれは……!」
「あぁ……!? 闇が……闇が……!?」
「体が……意識が……!」
半数以上の騎士達が闇に食われ、地に伏せる。
助かった騎士達は、目の前で倒れていく仲間達を見て先ほどの勢いがなくなってしまったようだ。
そして、ゆらゆらと戻ってくる傘をメアリスは優雅にキャッチし怪しく笑う。
「なーんだ、呆気なく終わっちゃったわね」
「くっ! まさか、光属性使いの次は闇属性使いと戦うことになるとは……!」
「言っておくが容赦はしない!!」
残り半数の騎士達へと風を纏いし剣を振り払う。
「《風円斬》!!」
「うわあっ!?」
「ら、ライザム様ぁ!?」
まるで嵐。
吹き荒れる風の渦により騎士達は軽々と吹き飛び、ライザムをも襲う。
「ぐうぅッ!?」
魔力を放出することで、なんとか身を守ったライザムだったがもはや部下達は全滅。残っているのは、己のみとなってしまった。
「さあ、まだ終わりじゃない。かかってこい!」
「今なら、心地良い闇の世界への招待券もついてくるわよ?」
片やまだ余力を残しているジェイク達。
片や部下を全て倒され、ユーカ達との戦いで消耗しているライザム。この状況は、素人が見てもどちらが優勢なのかは一目瞭然。
「もう諦めなさい、ライザム。あなたに勝ち目はないわ」
「そうですね。それと、マリエッタさんから奪った魔導書も返して頂けるとありがたいです」
そこに、マリエッタとライラが加わる。
状況は更に不利になっている。普通ならば、ここで諦めるはずなのだが……ライザムは違った。こんな不利な状況下でも不適な笑みを作っている。
「なにか秘策がありそうね」
「くっくっく……これは使うまいと思っていたが、仕方あるまい! 是が非でも、術式の解読法を吐いて貰うぞ! マリエッタぁ!!!」
高らかに咆哮し、ライザムはひび割れた大剣を放り投げた。
何をするんだ? と思った刹那。
「ふん!」
「がっ!? ら、ライザム……様?」
もう立つ力も残っていない部下の首を鷲掴みにする。
「俺の力となれ……!」
「がああああっ!?」
「そ、そんな……仲間を……!?」
部下達の悲痛な叫びが木霊し、体内から溢れ出るエネルギーがライザムへと吸い込まれていく。かろうじて意識があった部下達も完全に気を失ってしまう。
いや、あれは最悪……。
「ふはははは!! まだだまだ足りぬわ!!」
「お、おやめください! ライザム様!」
「その力は……!」
「なぁに。俺の体の心配はいらん。あいつの言いなりなっているみたいで気に食わんが……使える力は使わんとなぁ!!」
次々に部下達の生命エネルギーを吸い取っていくライザム。このままでは、全員の生命エネルギーが吸い取られてしまう。
「やめろ!!」
四人目を吸い取ろうと手を伸ばしたところで、ジェイクの剣がそれを止める。剣が壁となり、一瞬動きが止まったライザムに渾身蹴りを叩き込む。
だがしかし、ライザムは吹き飛びながらも触れることなく、生命エネルギーを吸い取っていく。
「ああ……ああぁっ!?」
「たすけ……て……」
次々に倒れていく男達を見て、マリエッタは怒りの声を張り上げる。
「ライザム! あなた、そこまで堕ちたっていうの!!」
「堕ちた? 違うな。俺は……昇華するんだよぉ!!!」
ゆらりと立ち上がったライザムから溢れ出る生命エネルギー。鎧は砕け、体が今よりも二倍以上膨れ上がっていく。
肌は黒く、二本の角が生え、体中には見たことのない紋様が刻まれている。もはや、彼の姿は……人間ではない。
「な、なんですかあれ……!」
「おそらく、生命エネルギーを吸い取ることで、それを自分の力に転換したのでしょう」
と、メアリスは冷静に説明しながら、この力がジェイクの使っている力に似ていると思った。違うと言えば、ジェイクは体などが大きくなることなく髪の毛の色が変わったり、内包する力が大きくなる。
しかし、ライザムの場合は化け物なってしまっている。
「さあ、どうするの? ジェイク」
「決まってる。どんな理由があれ、仲間を道具のように使う奴を……許してはおけない」
「……あたしもよ。ライザムは、横暴な奴だったけど昔からの知り合いだったわ。それが、ここまで堕ちてしまったなんて」
ジェイク達の隣に並び、マリエッタは悲しそうな表情で呟く。
だが、すぐに決心をした強い意志を感じる表情に変わる。
「昔馴染みとして、決着をつけてやらないとね」
「決着をつける? 今の俺に勝てると思っているのか!! マリエッタぁ!!」
咆哮するだけで、空気が揺れた。
ユーカとライラは、その力の波動に押されそうになる。だが、マリエッタは怯むことなく化け物と化したライザムに叫ぶ。
「当然よ! 良い機会だから、見せてあげるわ! あなたが、知りたかった……光属性のオリジナル魔法を!!!」
今ある魔力の全てを集束していくマリエッタ。
足元から、頭上から複雑な術式が刻まれた魔法陣が展開。今よりも、もっとマリエッタの姿が薄くなっていく。
「マリエッタさん!?」
「大丈夫よ。これぐらいしないと、今のライザムには勝てなさそうだからね。……ジェイクさん。多分、トドメはさせないから……お願い、できるかしら?」
「……任せろ」
「いいだろう! こい!! 今の俺には、上級魔法ですら効かぬわ!!」
一呼吸入れ、マリエッタは唱える。
「我に輝け! 天に輝け! 全てを浄化せし、光明よ!! 我が名は、マリエッタ=エレサーク。汝に、捧げよう……糧たる魔力を!」
もうちょっとマシな呪文を考えたかったのですが、考えれば考えるほど難しくなってしまったので……。
考えるのは楽しいですが、実際文字に表すとうーんって感じになります。




