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第三十話

総文字数十万突破です。

というわけで、今回はいつもより長くなっています。

 温泉宿から離れた森の中。

 ジェイクはライラと出会ったところで薬草を採っている。『ジグル草』ならば、ジェイクも鍋などに入れて食べたことがある。

 特徴も熟知している。ジグル草は、よく水辺に生えていることが多い。ライラが流れていた川の上流。ジェイクとメアリスは今そこでジグル草を探していた。


「薬草採りねぇ……この辺りに生えているのは、普通の草なの?」


 薬草に関して初心者のメアリスは、そこら辺に生えているのが普通の草に見えてしまう。だが、ジェイクはしゃがんでいるメアリスの隣に並びひとつずつ指を差して説明していく。


「この葉が丸まっているのは、あの時も説明した『アルナ草』だ。で、こっちのやけに葉がギザギザしているのは『キリ草』だ。キリ草は、見た目の通り触れただけで肌が切れてしまう危険な薬草だ。よく子供なんかが森で無邪気に遊んでいるとこいつに傷つけられてしまうんだ」

「へえ、こんな危険なものも薬草なのね」


 見た目は、ノコギリのような薬草。

 だが、見た目に反してキリ草はとても役立つ薬草のひとつでもある。

 主に、風邪薬などに使われることが多い。ただ、よく磨り潰さないと口に含んだ時口内などを傷つけてしまうかもしれないので、扱いには注意をしなくちゃならない。


「そうだな。薬草にも色々な姿形があって、色んな効果がある。俺も、全ての薬草を覚えているわけじゃないから、この辺りにはまだまだ知らない薬草があるかもしれない。けど、今はジグル草を探すのが先決だ」

「その肝心のジグル草は、どんな見た目なの?」


 そうだなぁ……とジェイクは、傍にあった木の棒を使い地面にジグル草の絵を描いていく。


「こんな感じだ。ちなみに、葉の周りは赤く染まっている」

「……なんとなくわかるけど。わざわざ、絵で描くことなかったんじゃない?」


 出来上がった絵は、なんとなくわかるぐらいの出来栄えだ。メアリスの容赦のない言葉に、ジェイクは苦笑い。

 ジグル草は、葉の周りが赤く染まっていて、葉と葉が螺旋状になっているのが特徴的な薬草だ。

 緑ばかりのこの辺りに赤い草があれば、それがジグル草と判断していいだろう。


「そんなわけで、指定された数は二十だ。一人十個ずつ採取するぞ」

「了解よ」


 早く採取して、温泉宿に戻らなければ。

 自分達が採取する薬草がなければ、温泉に効能を与えられない。まだ明日までは時間はあるとはいえ、こういうのは早めに済ませるのに越したことはない。


「さて、ジグル草ジグル草っと」


 絵を描いた場所から少し移動したところで、さっそく三つほど生えている場所を発見。持ってきた袋に詰めようと手を伸ばした……刹那。


「ぐっ……!?」


 突然の眩暈。

 視界が歪み、膝から崩れるジェイク。


「ちょっと、どうしたの?」


 近くで採取をしていたメアリスが、ジェイクの異変に気づき近くに寄っていく。


「……すまん。いきなり、眩暈が」

「ちゃんと温泉に浸かったの? レベル100になったとしてもあなたは人間よ。疲れないはずがないわ」

「ははは……ちゃんと体を休めたはずなんだけどな」


 だが、いったい何が起こったんだ。

 今までこんなことはなかったというのに。それに……気のせいか異様なまでに何かを欲している感覚に襲われる。

 それがいったい何なのかはまだわらない。わかっているのだろうが、それが何なのかわからないというなんとも気持ちが悪い……。


「少し、休んでなさい。私が代わりに採取しておくから」


 そう言って、ジェイクが採取するはずだったジグル草を代わりに採取していくメアリス。

 と、その時だった。

 近くの茂みがガサガサっと音を響かせたと思いきや、何かが弾丸のように飛び出してくる。メアリスは、当然のように反応し傘で叩き落そうとするも。


「ジェイク?」


 ジェイクが、右手を伸ばし飛び出してきた何かを鷲掴みにする。

 そして。


「……ッ!」

「あなた何を……」

「―――え?」


 メアリスの声にハッと我に返ったジェイクは、自分の右手にいるものを確認した。全ての血を吸われたかのようにカラカラに干乾びた【ブラッチ】という魔物。

 ボールのような見た目をしている魔物で、通称吸血玉と言われている。森に入ってきた人間や動物などに張り付き血を吸う魔物。

 おそらく、ライラもブラッチに襲われたが運良く血を吸われることなくそのまま気絶して流されたのだろう。


「それ、あなたの【吸血剣士】っていう職業のスキルよね?」

「あ、ああ。……だがスキルを使った感覚がない」

「無意識にってことね。でも、なんだか顔色は良くなったように見えるわ」


 その通りだ。

 無意識だったとはいえ、血を吸い取ってから気分が良くなったように感じる。何が起こったのかは、この際後で考えることにしよう。

 今は、ジグル草を採取する。


「よし。採取に戻るぞ」

「ええ」


 その後、採取をしている中。ジェイクはずっと、自分に起こった無意識な行動のことが気になって仕方なかった。




☆・・・・・




「くっ! なんて素早い小娘なんだ!」

「これでも、まだ本気を出していないんですよ? マリエッタさんっ」

「神々しく弾けよ! 《フォトン》!!」

「ぐああ!?」


 あれ以上、温泉を汚すわけにもいかないとユーカ達は温泉宿の外に敵を誘導させ戦っていた。動きの素早いライラが、接近戦でかく乱しつつユーカとマリエッタが魔法で確実に仕留める。

 二本の短剣を手に、ライラは敵の攻撃を回避しつつ場合によっては受け流し攻撃の隙を作ろうとしていた。


「す、すごい。ライラってあんなに強かったんだ……」

「おかげで、魔法が当てやすいでしょ? 今よ、ユーカ!」

「はい! 《フレア》!!」

「ぐおっ!? な、なんだこのフレアは。初級魔法だというのに、この威力……!」


 彼等は知らない。

 ユーカの固有スキルにより、初級魔法だろうと中級魔法と同等な威力になっているということを。だが、連発ができないゆえにタイミングを計って一気に複数を巻き込めるように狙う。


「ええい! 何をしている! たかが幽霊と小娘二人に!」

「たかが、じゃないわ。これでも、あなた達を一人で追い詰めた魔法使いなのよ? 幽霊になったと言っても、まだまだ負けないわ!」


 ふっと笑い、魔法をライザムの部下達に放つ。


「……いいだろう。ならば、俺自ら貴様らの相手をしてやる!!」


 部下達をすり抜け、ライザムはライラへと大剣を振るう。が、そんな大降りでは当たりはしない。ライラは部下達の時と同様にひらりと避けて見せた。


「わっ!?」


 しかし、完璧に避けたはずのライラの肌に切り傷が刻まれる。


「我が剣は、風の刃を巻き起こす。いくら避けようとも、風の刃が貴様を切り裂くのだ。さあ、者ども! 反撃だ! 俺に続けぇ!!」

『おおおお!!』


 ライザムの一撃とその一声で、部下達は勢いを取り戻したかのように声を張り上げ突撃してくる。ライラも攻撃を避け、ユーカ達に攻撃の隙を与えようとするも。


「ふんっ!!」

「くうっ……!」


 ライザムの巻き起こす風の刃で動きが止められる。その隙を狙い、複数の刃がライラを襲う。


「ライラ!!」


 間一髪のところでマリエッタの魔法がライラを救う。とはいえ、ライザムのあの攻撃をどうにかしない限りライラはまともに戦えない。

 ちらっとユーカはマリエッタに視線を向ける。まだ余裕そうな表情をしているが最初より体が更に薄くなっているように見えた。

 自分よりも、魔法を連発しているせいもあり魔力の消費が激しいのだ。

 戦いが始まって十分は経っている。


(ジェイクさん……メアリス……)


 助けてほしい。そう思った。


(……ううん、違う)


 だが、簡単に諦めちゃダメだ。ユーカはまだ魔法を二回しか放っていない。最初の頃より、レベルは上がり魔力だってかなり上がっている。

 まだまだ余裕がある。


「マリエッタさん。私が、あの剣をどうにかして見せます」

「ユーカ?」


 ライザムが振るうあの大剣を破壊すれば、また通常通りの連携ができる。そのために、まだ余裕がある自分が大剣を破壊しようと考えた。

 初級魔法とはいえ、固有スキル【魔攻の王】により威力は二倍になっている。いくら、特殊な剣だと言っても何度も当てれば破壊できるはず。


「ユーカさん、危ないですよ。一人で突っ込むのは」


 ライザム達から一度距離を取り、体が傷だらけになりながらもユーカの心配をしてくれるライラ。


「ライラだって、そんなにボロボロになってまで戦ってくれたんだから。私だって、誰かのために役立ちたい。もう守られるだけは……いやっ!」

「……わかったわ。だったら、そんなあなたにプレゼントよ。ライラ」

「これって……」


 マリエッタに言われ、ライラがユーカに渡したのは。


「まだ落ちぬか。だが、それも時間の問題。さあ、奴らはもう虫の息だ! 一気に攻め落とせ!!」

「させない!!」

「ぬっ!」


 我先にと突撃していくライザムだったが、真っ直ぐ飛んできた火球により阻まれる。容易く大剣で弾き飛ばし、放った本人……ユーカを睨む。

 たった一人で前に出ている。

 先ほどまで、前に出ていたライラはユーカの後ろで傷を癒していた。


「ほう、小娘。たった一人で俺達に挑む気か?」

「そうだよ」

「ふはははははっ!! 魔法使いがたった一人で突撃してくるとはな」

「笑っていられるのも……今のうち!」


 迷いなく真っ直ぐ駆け出すユーカ。

 本来ならば、魔法使いはあまり一人で接近戦を行うような職業ではない。だが、ユーカは違う。普通の魔法使いとは違うところがある。

 それは……。


「いいだろう。俺の一撃にて粉砕してくれる!!」

「《アース》!!」


 詠唱なしの魔法。

 瞬時に魔法を使えるという利点を生かし、ユーカは的確にライザムを狙う。

 放たれた大地のつぶて。

 しかし、それさえも大剣により弾かれる。


「甘い。甘い甘い! 初級魔法で、この俺を止められると思っているのか!」


 弾かれる。だけど、それでいい。

 狙いは、ライザムを倒すことじゃない。

 確実に……正確に狙う。


「フレア!!」


 もう一撃。

 だが、弾かれる。


「諦めの悪い小娘だ」

「そうだよ。私は……諦めが悪いの!!」


 タイミングを見計らい、もう一撃フレアを放つ。

 ライザムは、魔法を弾きながら突撃してくる。


「これで終わりだ! 小娘!!」


 間近にきて、ユーカはライザムの大剣の状態を確認した。

 そして、にっと笑い《アクア》を地面に放つ。


「目晦ましのつもりか!」


 水の壁となりユーカの姿を隠したが、すぐにそれは切り裂かれる。


「どこへ行った!」

「ここだぁ!!!」


 ライザムの真横。

 マジフォンからは眩い光が放出されている。ユーカの目の前には、今まで魔法を弾いてくれた大剣。最後の一撃は、マリエッタから受け取った……光属性魔法フォトンを叩き込む。


「ぐおっ!? なんだ、今の威力は……ぬっ!?」


 豪快に弾けた光の球の威力に押されたライザムは、自分の大剣に起こった異変に気づく。


「馬鹿な……俺の大剣に亀裂だと!」


 マリエッタに教えて貰った。

 大剣が風の刃を起せるのは、大剣に術式が刻まれているからだと。つまり、術式を崩せばもう大剣からは風の刃を起すことは……できない。

 作戦が成功し、ユーカはよし! とガッツポーズを取る。 


「小娘がぁ……初級魔法如きで、俺の剣に傷をつけるとは。やってくれたなぁっ!!」


 しかし、魔力が底を尽き無理な動きをしたせいで体力の限界。もう、まともに動ける状態じゃない。ライラが助けに行こうと駆け出すも部下達に阻まれる。


「沈めぇ!!!」

「うっ!?」


 やられる! そう思い、目を瞑った。


「な、何だ貴様は!」

「―――ジェイク、さん?」

「よく頑張ったな、ユーカ。偉いぞ。そして……遅れて悪かった。思ったより、ジグル草が離れた場所に生えていて採取するのに手間取ってしまったんだ」

「まったく……同じところに密集していなさいよって思ったわね」

「メアリス……!」


 ユーカを守るように大剣を受け止めたジェイク。左手にはしっかりとジグル草を入れた袋が、握られていた。

 メアリスも、同様に袋を手にはあっとため息を吐いている。

 二人の姿を見て、ユーカは緊張の糸が切れたかのようにその場に座り込む。


「さあ、反撃の時間だ。いくぞ、メアリス」

「そうね。準備運動程度には丁度いい相手かもね」


 近寄ってきたライラにジグル草が入った袋を渡し、ジェイクとメアリスはライザム達を睨んだ。

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