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第二十七話

みじ(ry

「おぉ、真っ白な温泉か」


 服を脱ぎ、タオル一枚を持って露天風呂にやってきたジェイク。

 引き戸を開け、視界に入った真っ白な温泉に声を漏らす。


「……誰もいないのか」


 脱衣所にも誰もいなかったが、温泉内にもジェイク以外の入浴者の姿は見当たらない。タイミングよく、人がいない時にやってきたのかもしれないが。

 まずは、体と髪の毛を洗うため洗い場へと向かう。その途中、男湯と女湯を仕切る板が目に入る。


 何か特別な力を感じ取れる。

 おそらく、受付にあった籠と似たような術がかけられているのかもしれない。ジェイクは、魔法のことに関してはそこまで詳しくないのでなんとも言えないが……。


 気になるところだが、あの先は女湯。

 いつまでも見ていないで、さっさと温泉に浸かろう。体と髪の毛を、洗い髪の毛の水分をタオルで拭き取ったところでさっそく温泉へと向かう。


 浸かる前に、手でどれほど熱いのか確認。

 少し熱め、と言ったところか。

 確認を終え、ジェイクは足のつま先からゆっくりと真っ白な湯に浸かっていく。


「ふう。やはり、温泉は何年経とうが変わらないなぁ」


 死ぬ前も、ジェイクは旅の途中何度も温泉に浸かっていた。魔物と戦い続けていると疲れが溜まっていくのは、どんな種族と言えど共通。

 年を重ねていくにつれて、ジェイクは疲労が溜まりやすくなっていた。


 それを癒してくれたのが、温泉。

 旅先々で、色んな温泉に浸かったものだ。が、温泉に浸かっていたのはあくまで疲労を回復させるための手段の一つとしてだった。

 今のように、ゆっくりと温泉を楽しむことはなかったのだ。

 こうして、何も考えずに温泉に浸かっていると徐々に気持ちを落ち着いていく。


「……」


 青い空、白い雲を見上げながら温泉に浸かる。

 周りには自分以外誰もいないという最高に落ち着ける空間。女湯のユーカ達も、今頃は温泉を楽しんでいることだろう。


「ん?」


 ふと、何かの気配に気づく。

 誰かが……見詰めている。

 いったい誰が? 入った時は誰もいないことは確認済みだった。気配は突然現れた。ただただ、ジェイクをじっと観察するように見詰めている。


 何をするでもなく、本当にただ見詰めているだけ。

 敵意はない。

 ないが……突き刺さるような視線が気になってしょうがない。


「……くふっ」


 笑った。

 何がおかしいのかわからないが、笑い声が聞こえた。ユーカやメアリス、ライラの声ではない。


「あふっ……ふふふっ……」


 気のせいか、高揚しているかのような声音だ。

 もはや声が聞こえてるせいで、隠れている意味がない。ジェイクは、眉を顰めながらゆっくりと振り向いた。


「……誰だ?」


 岩陰に隠れていたのは、二十代ぐらいの女性だった。

 真っ白な長い前髪で、右目が隠れており、外とはいえ湯の熱によりそれなりに熱いというのに全身真っ白な服を纏っている。

 きらりと光る赤い左目で、笑いながらジェイクを見詰めている。


 だが、もっと注目すべきところは……なぜか体が半透明なのだ。

 そう……まるで、幽霊かのように。


「あ、あたしのこと見えてるの?」


 どうやら自分の姿が見えていることに、驚いているようだ。ジェイクとしては、岩陰に隠れて怪しい笑いをしている半透明な女性に驚いているのだが。


「まあ、見えてるな」

「……え、えーっと……その……」


 もはや見えているから隠れる必要がないと判断したのか。歩くのではなくすーっと浮いてジェイクの傍に近寄ってくる。

 そして、ジェイクの目の前で止まりそのまま湯へと入っていく。


「熱くないのか?」

「あたし、幽霊なので」


 どうやら本当に幽霊らしい。

 幽霊とこうして会話をするのは初めての経験だ。


「それで俺に何か用だったのか? えーっと」

「マリエッタ=エレサーク。魔法使いで薬剤師。そして……ここの宿主をやってるの」




☆・・・・・




「え? 死んでいるって……ど、どういうことなの?」


 ライラからの衝撃的な事実を教えられたユーカは、思わずライラの詰め寄る。


「それはですねー。簡単に説明すると、ここの宿主は一年前に殺されちゃったんですよ。ここの宿主であるマリエッタさんは、偉大な魔法使いでもありますから。だから、その力を狙う悪い人達が多いんですよ」

「マリエッタ……それってマリエッタ=エレサークのことかしら?」


 マリエッタという名前を聞いたメアリスの表情が変わった。

 ユーカもそこまで出掛かっているのだが、どうにも思い出せない。


「その通りです。世界でもっとも光属性魔法に長けた魔法使いです」

「なるほどね。白が好きって言うのも頷けるわ」

「白好き……マリエッタ……魔法使い…………あっ! 思い出した! 知り合いの魔法使いの子がよく話していた人だ!」


 マリエッタ=エレサーク。

 世界でも、五本の指に入るほどの魔法使いであり、光属性に長けている。本人も、白や光が大好きで髪の毛も身に纏っている服も白で染まっているのだ。

 世界を旅しながら、同じ魔法使い達に光属性のよさなどについて特別授業をしている。


「闇属性使いとしては、もっとも会いたくない天敵よ」

「そんな有名人が、まさか温泉宿を経営しているなんて……それに」


 ライラの言うことが真実であるのなら……。


「ねえ、どうしてライラはマリエッタさんについて詳しいの?」

「もちろん、本人から聞いたからです」

「―――え? 本人って……マリエッタさんはもう」


 死んでいるはずなのに。

 その言葉を発言しようとしたが、メアリスが感じた気配。そして、先ほどの話。そこから導き出される答えは……。


「今、ユーカさんが思っていることは正解です。今、男湯にはマリエッタさんがいるんです」

「ジェイクは、もう入浴している頃よね」

「……いやいや。大丈夫だよ。ジェイクさんだったら、例え幽霊が相手でも負けないから!」


 一瞬、不安が横切ったがジェイクなら大丈夫だとユーカは確信する。


「どうですかねぇ。もしかすると、別の意味でジェイクさんは危ないかもしれませんよ?」

「別に意味って……どういうこと?」

「マリエッタさんは、今年で三十一歳なんです。見た目的には、二十代ぐらいなんですけど。光属性のよさを広めるために長い旅をし続けたせいで、結婚ということを忘れてしまっていたんです」

「……つまり、男に飢えているってこと?」

「その通りでーす。温泉宿を建てたのも、好みの男性を探すためーとか言っていましたね」


 さらに衝撃の事実を知ったユーカは、仕切りの奥にいるジェイクが心配になってしまった。今頃、マリエッタはジェイクに接近しているはず。

 ジェイクなら大丈夫……と思っていたが、すごく不安になってしまった。

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