第二十五話
今回も短めです。
「……太陽が、眩しいな」
体を拭き終わり、着替えも済んだところでジェイクはやっと暗闇の中から開放された。どこを見渡しても、光がなく完全な闇の中で五分は確実に居た。
「すみません! お待たせしてしまって」
「どう? 闇の中は、心地よかったでしょ?」
助けた少女は、どうやら目を覚ましているようだ。
ユーカの代えの服を着て、温められたコーヒーをちびちびと飲んでいる。明るい翡翠色の長い髪の毛は、ポニーテールに束ねれていたが、今は完全に髪を下ろしている。
コーヒーがまだ熱かったのか、あつっと小さく声を上げた。
年齢的には、ユーカよりも下か同じぐらいと見るが、彼女はどうやらエルフ族らしい。エルフや龍人などは、見た目と年齢が一致しないことで有名だ。
ジェイクの知る限りでは、メアリスぐらいの少女だったとしても百歳以上ということが多い。
「正直、俺は光のほうがいいかもしれん……」
「あら残念。まあ、長い付き合いになりそうだし。次第に好きになってもらうわよ」
別に嫌いではない。
だが、ずっと暗いところに閉じ込められ、太陽の光を浴びるとこうも安心した気持ちになった。暗く、狭い場所にずっと居ると不安な気持ちになると言われていたが、本当かもしれない。
「あのー」
メアリスの言葉に苦笑していると、助けたエルフの少女が声をかけてくる。
「どうしたんだ?」
「助けていただきありがとうございます。いやぁ、自分でもどうして川で気絶していたのかさっぱりなんです。うーん、でもなんだかおでこが痛いんですよねぇ……」
そう言って、自分の額を擦る少女。
よく見ると、赤くなっているのがわかる。もしかすると、何かが額に思いっきりぶつかり彼女はそのまま気絶。
そして川に落ちてそのまま……。
「あ、そうそう。名前を名乗っていませんでしたね。ライラって言います。見ての通り、エルフ族です。でも、まだそこまで長生きしていないので色々と知るため一人旅の途中です」
「俺は、ジェイクだ。それでこっちがユーカ、メアリスだ」
「よろしくね、ライラ!」
「よろしく」
簡単な自己紹介を済ませたところで、ライラから色々と事情などを聞くためジェイク達は焚き火の周りに座り込む。
「それで、ライラ。気絶する前のことは何も思い出せないのか?」
「そーですねぇ……水筒の中身が空になったので川の水を汲もうと近づいたところまでは覚えています」
「その後、何か襲われたってことは?」
ライラの額を見る限り、襲われたと考えるのが妥当なところ。もしかするれば転んで打ち付けた……という考えもある。
しかし、それだと打ち所が悪ければ額から血を流すこともある。ライラの額は、赤くなっているだけで血が流れてはいない。
「襲われた……襲われた……」
考えつつ、カップに入ったコーヒーを再び口にする。
「あつっ……!」
まだ熱いようだ。
「結構猫舌なのね」
「えへへ。結構な猫舌なんです、はい」
照れたように、小さく舌を出したところで「あっ」と何かを思い出したように声を漏らす。
「そういえば、水を汲もうと川に近づいたら」
「近づいたら?」
「向こう側の茂みから何か丸っこい物体が、飛び出してきたような……気がします」
何とか思い出したようだが、まだ曖昧だった。
丸っこい物体。
それが水を汲もうとしていたライラに当たりそのまま気絶。川に落ちて、そのまま流されたということか。
「その丸っこい物体は、何なんだろうね」
「さあ? 誰かがボール遊びでもしていたんじゃない?」
「じゃあ、当たったのはボールってことですかね?」
こんな森の中でボール遊びをするというのは、考えられない。もしジェイク達が今居るような障害物がないところならば、可能だが。
ライラの話では茂みから飛び出してきたという。
もしかしたら、生き物だったかもしれない。
「茂みから飛び出してきたのが魔物だったなら茂みには注意をしておかないとな。俺達も、もしかすたら襲われるかもしれない」
「でも、この程度で済んだのだから簡単に跳ね除けられるんじゃない?」
確かに、気絶するほど当たった割にはそれほどダメージはないように見える。ぶつかってきたものが、柔らかかった? それとも運良くダメージを最小限に抑えられたか……。
「だと思うが、油断はできない。森などの草木に囲まれた場所を移動する時は、突然現れるかもしれない魔物や動物達に注意をしたほうがいい」
旅人や冒険者達は、茂みなどから突然飛び出してきた魔物などにやられることが多い。茂みなどに身を潜め獲物を狩るのを待っている。
油断はできない。
案外、危険性がなさそうな魔物ほど何かを持っていることが多い。通常の【ゼリーム】だと油断して、わざとダメージを受けた冒険者が体が麻痺により動かなくなったと言う話がある。
相手の神経を麻痺させ、徐々に溶かして栄養分にする。
ゼリームに良く似ているが、色合いが通常のゼリームよりも薄く一見ではわかり難い。それが【パララゼリーム】という魔物だ。
一撃の攻撃力は通常のゼリームと同じぐらいだが、相手を麻痺させる効果を持っており非常に危険な魔物の一体。
草原や森などの自然が多い場所に生息しているため、森で突然襲われることがあるかもしれない。
「はい! 注意して進みましょう!」
「なんだが、ジェイクさんって見た目の割りに言動が大人びていますよねー。もしかして、私と同じエルフとか?」
「いや、俺は普通の人間だ」
「彼は、転生者なのよ。実際の年齢的にはおじいちゃんってところね」
間違ってはいないが、実際におじいちゃんと言われると苦笑いしかできない。
「ほえー。そうだったんですかぁ。人は見た目で判断しちゃだめだって言いますけど。すごいですねぇ」
「エルフ族がそれを言っちゃうの?」
「えへへ、ですよねー。あ、そうです。助けてくれたお礼に、この先にあるいい所へ案内しますよ」
「いい所?」
この先には確か……。
「この先には、旅の疲れを癒すための温泉宿があるんです。それほど大きくはないんですけど、そこの露天風呂は旅で疲れた体によく効くんですよ」
「へぇ、そんなところがあったの。それは是非行ってみたいわね」
「私も行きたいです! ジェイクさんは?」
女子二人のすごく行きたいという目の輝きに、ジェイクは首を横に振ることはできない。それにこの先には山がある。そこを越えていかなければならないので体を癒すということには賛成だ。
「もちろん、俺も行く。ライラ。案内頼めるか?」
「了解ですー。でもその前に」
「その前に?」
「コーヒーを飲み干してからで……あつっ!」
結構な時間が経ったので、少しは温くなっているはずなのだが……本当に相当な猫舌のようだ。