第二十四話
第三章の開幕です。
開幕はちょっと短め。
青空、そして白い雲はどこまでも冒険者達を見守っている。もちろん、冒険者達も青空と白い雲を見上げ旅をしているという実感を抱く。
何十年、何百年経とうともそれは変わらない。
「むむむ……深いですね」
「なにがだ?」
「冒険者になろう! というものを読んでいるんですけど。「青空と白い雲は、冒険者達の永遠の友」とここに書かれているんです。いやぁ、実に深い言葉です」
ファルネアから旅立ち三日が経った。
ジェイク達は、休憩のため川の近くで腰を落ち着かせていた。長い平原を二日間歩き、現在は森の中を移動中。
川も近くにあり、道も通りやすく手入れがされている。木漏れ日が差し込み、川の流れを眺めながら水筒に入った水で喉を潤す。
「そんなものを買っていたのね。本屋で熱心に何かを見ていると思ったら」
丁度いい岩に布を敷き、優雅に紅茶を嗜むメアリス。
ジェイクと別行動をしている時に、買った本なのだろう。簡単に言えば、冒険者になったのはいいが何をどうしたらいいのかわからない。
そんな者のために、基礎的な知識と本を書いた著者の一言などが書かれている本。
著者もどうやら冒険者らしく、実際にどんな旅をしたかなどの体験談も載っている。冒険者として、旅をしては本を書きこれから冒険者になる後輩達を応援するという目的らしい。
「でも、私にとってはかなり役立ちます! 実践での努力も大事ですが、こういう本を読んでの努力もしたほうが立派な冒険者になれると思うんだ! 騙されたと思って、メアリスも読んでみて!!」
と、勧めるも。
「騙されるのならいいわ。それに、私は初心者じゃないもの」
「だよねー。この中じゃ、初心者なのは私だけだしねぇ……ははは」
あれから、ユーカは努力を続けた。
その成果もあり、ファルネアではレベル8止まりだったが今ではレベル10に到達。やっと二桁になれたことでユーカ自身も大喜びをしていた。
全職業共通なのだが、レベル10になればスキルを習得する。どの職業もスキル習得レベルはバラバラ。だが、唯一共通しているのはレベル10になった時。
だが、ユーカの【魔機使い】はレベルを上げてもスキルを習得しない。その代わりに、魔力量がいつもより格段に上がっていた。
魔機使いは、魔法使いと同様で魔力が命の職業。
それに、ユーカの場合は固有スキルで攻撃魔法の威力、消費量が二倍になるというものがあるため魔力量が上がったのは嬉しいことだ。
「誰だって最初は初心者だったさ。俺だって、最初の頃はよく魔物に苦戦していたんだぞ?」
「え!? ジェイクさんがですか!?」
「そ、そんなに驚くことか?」
ジェイクも、最初から強かったわけじゃない。
冒険者になりたての頃は、地道に【ゼリーム】を倒したりして経験値や金を稼いでいた。もう何十年も前の話だが。
「あ、てことはメアリスも?」
チラッと、紅茶を飲み干したメアリスに視線を向けるユーカ。
「私は、最初から強かったわよ。闇の力があれば、大抵の魔物は倒せたわね」
自分の水筒から空になったカップに紅茶注ぎながら自慢するように言う。人によっては、最初からそれなりに強さを持っている者も居る。
メアリスはその部類に入っているのだろう。
「むー。私も、他の人に持っていないものがあるんだけどなぁ……凄いんだけど使いにくいからなぁ……」
自分の【ステータスカード】に書かれている固有スキルを見詰めため息を吐く。個性があるというのはいいことだ。
固有スキルは、誰しもが持っているわけじゃない。
それゆえに、固有スキルは強力なものが多い。
が、ユーカのように頭を悩ませるものも少なくはないと聞く。
「そう落ち込むな。個性があるっていうのはいいことだ」
「そうですけどぉ……あれ?」
「どうした?」
ユーカがふと視線を川の方へと向けると、何かが流れているのが見えた。ジェイクも釣られて、川の方へと視線を向ける。
「なにか流れてきていませんか?」
「……人だ」
「人ね」
何気なく、メアリスも視線を向けていたらしくユーカ以外にはすでに何が流れてきているのか目視できていた。
冷静に、人が流れていると呟いたがハッと事の重大さに気づきジェイクとユーカは勢い良く立ち上がる。
「人ぉっ!?」
「おい! 大丈夫か!?」
ジェイクはすぐに流れてきた人を助ける。
服が濡れようとも関係なく。
ユーカはすぐに近くにある木の枝などを集め『着火機』で火を点ける。着火機とは、火打石とは違いボタンひとつで火を点けられる便利な道具だ。
「とりあえず、服を脱がせて体を拭かないと」
このままでは風をひいてしまう。ジェイクは、冷静に呟き服に手をかける。
が、すぐにユーカに止められた。
「ちょ、ちょっと待ってください! その子、女の子ですよ!?」
「……すまん。後は任せた」
川から人が流れてくると言う体験したことのないことに遭遇し、内心ジェイクも慌てていたようだ。服にかけていた手を止め、静かに立ち上がりユーカに任せる。
「あ、ジェイクさん。こっち向かないでくださいね」
「念のために、壁を作っておこうかしら」
ジェイクもそこまで変態ではない。
見るなと言われば、背中を向け見ないようにする。しかし、メアリスはジェイクの周りに闇の壁を作り光さえも遮断した。
「お、おい! さすがに、これはやり過ぎだろ!?」
「念のためよ。あなただって男なんだから。油断しちゃだめってこと」
「……」
こうして、川から流れてきた少女の服を脱がし体を拭いて、さらに代えの服を着せるまでジェイクは一人闇の中でずっと待っていた。