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第二十一話

 現在、ファルネアで起こっている奇妙な事件。

 人々が突然、凶暴化し暴れるという不可解な事件に関して、ジェイク達は任務として派遣されてきたカイル達から説明を受けている。

 周りにはカイル達以外の人影はなく、落ち着いた様子で話し出す。


「まず、僕達はこのファルネアで一週間前ほど前から起こっているという不可解な事件があると聞き丁度ファルネアへと赴く商人と共にここまでやってきました」


 あの現象が一週間前からあったという事実に驚くもジェイクは冷静にカイルの話に耳を傾ける。


「この現象は最初は、それほどひどくはなかったようなんです。目も赤くなく、ただ暴力的になっただけで我々帝都の騎士団に要請することもないと判断したと聞きました。ですが、ここ二日の間で急変。先ほどのように狂喜乱舞し多くの怪我人を出しているんです」


 二日前ということは、ジェイク達がこのファルネアに丁度到着した頃。

 そして、カイル達が山岳地帯で魔物に襲われていた。

 ……偶然、と思いたいところだが。


「それで、どうしてああなったのかの原因はわかったのか?」

「はい。先ほど、僕が解除の呪文を唱えたのを覚えていますか?」


 暴れていた女性へと唱えたあの術だ。

 もちろん、ジェイクも現場に居合わせているので知っている。が、ユーカだけはその場にいなかったので首を傾げていた。


「あの術で彼らは眠るように静まった。そこから考えると、誰かが彼らに凶暴化させる術をかけていることは明白。そして、あの様子から考えるとまだ術者はこの街に……います」

「やっぱり、術にかけられていたのね」


 メアリスもカイルと同じ答えに行き着いていた。あの変わりようは、明らかに普通ではないことはジェイクもわかっていた。

 術者が意図的にあのような凶暴化させる術をかけている。

 だとしたら、何が目的なのか。

 ただ人を暴れさせているだけと言うのは違う。人々を暴れさせることで、何かをしようとしている可能性がある。


「その術者は……まだ見つかってはいないんですよね?」

「いえ、どんな人物なのか聞き込みの成果もありわかりました」

「おお! それで、術者はいったいどんな人なんですか!」

「情報によれば、やたらとテンションが高く、性別は女性。そして、声をかける時に必ず―――」

「やっほー! 天空から舞い降りた悪戯天使! エルフェリアちゃんでーす!!」


 カイルが説明をしていると、やたらテンションが高い声が響き渡る。


「……あのように自己紹介を」

「てことは、あの子が犯人なのか?」


 全員声が聞こえた方向へと一斉に顔を向けると、髭を生やした三十代ほどの男性に声をかけている派手な格好をした少女を発見した。

 桃色の長い髪の毛はツインテールに束ねられており、身に纏っている服も髪の毛と同じ桃色を主色とした色合いで、装飾が多い。

 腰部分を見ると、光の翼のようなものが小さいが生えている。


「目立ちすぎです! あまりにも目立ち過ぎていて、逆に怪しくないと思えてしまいます!」


 犯罪を実行するのに、派手な行動や格好をするとは思えない。ユーカはそう思っているのだろう。ジェイクやこの場に居る全員も同意意見だが。

 エルフェリアと名乗っている少女は、どこからともなくチョコのようなものを出現させ男性ににじり寄る。


「ねえ、おじさん。溜まっているんでしょ? 我慢しているんでしょ? だめだよー、我慢は体に毒だって知らないの?」

「な、なんのことだ?」

「むふふ。しらばっくれちゃって~。私にはわかっているんだよ。おじさんが、溜め込んでいる……鬱憤。大分溜まっちゃってるよ~。ほらほら~、このチョコを食べちゃえばその鬱憤もすかー! と晴れるよ!」


 明らかに、怪し過ぎる。

 ジェイクは、カイルと視線を合わせ頷く。そして次の瞬間、二人は飛び出しエルフェリアという少女との距離を詰めた。

 気配を感じたのか、エルフェリアは可愛らしく首を傾げながら振り向く。男は、何がなんだかわけがわからないという状態でその場に固まっていた。


「失礼します。僕は、帝都アルヴァラント皇焔騎士団近衛隊所属カイル=イノセリアです。エルフェリアさん、でしたね? 少し事情をお聞きしたいのですが」

「なになにー? エルフェリアちゃんの可愛さについてかなぁ?」


 これから質問されることをわかっていないのか。それともわかっていて、余裕のある受け答えをしているのか……。


「一週間前ほどから、ここファルネアの人々が突然暴力的になるという現象が起こっています。そこで、聞き込みをしたところ多くの人々があなたを目撃していると証言しているんです」

「えー? それって、私が犯人だって疑っているってこと?」

「端的に言えばそうね。どうなの?」


 と、メアリスが問うとエルフェリアは満面の笑顔で答えた。


「あったりー! 今回の事件はこのエルフェリアちゃんが犯人でーす!!」


 あっさり自分が犯人だと認めた。

 こんなにもあっさり認めるとは思っていなかったジェイクとカイルは、より表情を険しくする。


「あ、でもー。私はただ導いただけなんだよ~? だから、それほど悪くはないと思うの。むしろ、人々を苦しみから解放しているから良いことをしていると思うな~。さすがエルフェリアちゃん!! って、褒めてくれても良いぐらいなんだよ?」

「この子、まったく反省する気はないようね」


 メアリスのここまでのうんざりとして表情は初めて見た気がする。カイルは、ふうっと、眉を顰めながら後ろに控えている騎士達に指示をする。


「まったく良いことではありません。苦しみから解放をするというであれば、精神や人体に負担がかからない方法を取るべきです。あれでは、余計に苦しみが増すだけ。あなたがやっていることは立派な犯罪です。それも術で人々の心を縛り、支配するという重罪。言い逃れはできません。……これから、あなたを帝都に連行します」


 カイルの指示に、騎士達がエルフェリアを拘束しようと近づくも彼女はひらりと回避しむっとした表情に変わっていた。


「やーだよ! 人々を苦しみから解放するためにちょっと術を使っただけじゃん。子供の悪戯心だと思って見逃してもいいじゃーん!!」

「子供って……明らかに、私と同じぐらいに見えるんだけど」

「ざーんねん! こう見えて私は、生まれてまだ五年しか経っていないのだー!」


 えっへん! とユーカよりも豊かに実っている胸を張るエルフェリア。それを聞いたユーカは唖然として声も出ない状態。

 が、すぐにハッと我に返り、反論する。


「で、デタラメですよ! どう見ても、十五歳はいっています!! あんな……あんな大きな体と胸で五歳なんて……ね! ジェイクさん!?」

「ど、どうだろうな。俺みたいな例もあるし……」


 必死にそうですよね!? と訴えかけてくるユーカに自分のような存在を考慮すると肯定することが難しくなってくる。

 そこへ、助け舟を出すようにメアリスが呟いた。


「それに彼女……人間じゃないみたいだし」

「え? あ、そういえば自分で天使だって言っていたような……」


 腰の辺りにも小さいながらも光の翼が生えていた。


「そうなの! まだ小さいけど、天使の羽だって生えているんだよー。エルフェリアちゃんのチャームポイント!!」

「……天使であるならば、尚更です。帝都には天より加護を授かった聖女様が居ます。あなたの罪を、聖女様が正してくれる。今度は立派な天使として、正しく人々を苦しみから解放できるように。さあ、我々と共に帝都へ行きましょう」


 カイルが手を差し伸べるも、エルフェリアはそっぽを向き更に距離を取る。


「べー! だ。誰が、人間なんかと一緒に行くもんか! 私は、縛られるっていうのが大っ嫌いなの! あんまりしつこいと……こうしちゃうんだから!」


 男に食べさせようとしていたチョコのような食べ物を近くを通りかかった人々に投げ捨てた。

 なにをする気だ? と思った瞬間。

 チョコは体の中に吸い込まれていき、人々は苦しみだす。


「本当はもうちょっと遊びたかったんだけど。邪魔をしてくる人達が居るから仕方ないよねぇ。さあ、やっちゃえ! 鬱憤爆発!!」


 楽しそうにエルフェリアが叫ぶと体内にチョコが入り込んだ人々が突如として、体は一回りも大きくなり人狼と化した。


「な、なんだこれは!?」

「人が……魔物に? いや、これは」

「これが本当に天使の力なのか? いや、考えている暇はない、か。カイル! 周りに被害が出る前に、無力化するぞ!」

「わかりました。お任せください!」


 数は、五。

 逃げ出すでもなく、こちらを標的として狙っている。だが、それは好都合。


「これは悪戯ってレベルじゃないですよ!」

「ほら、つべこべ言わずあなたも働きなさい。囮になるぐらいはできるでしょ?」

「囮は無理! わ、私だって少しは強くなったんだから戦力にはなるよ! いくぞー!!」

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