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第一話

「……ここは」


 目を開けると、緑豊かな原っぱに寝転がっていた。

 鎧も剣もなく、簡易なシャツとズボンのまま。

 ジェイクは、しばらくぼーっと空を見上げている。今のジェイクは理解している。もう自分は死んでいるということを。

 つまり、今自分がいるところは現実世界ではない。


「よっ! 目が覚めたか、人間」

「……その声は、まさかアルス様?」

「その通り!」


 聞き覚えのある声に、ジェイクは身を起す。

 振り返った先にいたのは、二十代後半ぐらいの金髪の男。黒いスーツに身を包みゆっくりジェイクに近づいてい来る。

 彼の名前はアルス。

 ジェイクが生きていた世界を管理している神様であり、レベル99になって金色の蚊を倒すという試練を与えた張本人でもある。


「見ていたぜ。お前がレベル100になる瞬間をな」


 隣の座ったアルスは、にっと笑う。


「……ですが、俺は死んでしまいました。レベル100になったとしても死んでしまってはなんの意味もありません」


 本来なら、大喜びしているところだがジェイクは現実を受け止めている。レベル100になったことは嬉しい。だが、自分はもう死んでいる。

 これでは何の意味もない。


「意味ならあるさ」

「え?」


 落ち込んでいるジェイクに、アルスは告げる。


「お前は、希望を信じて、そして人間達の希望となるため諦めなかった。その姿を俺はずっと見ていたから。お前がどんなに苦労してきたかも、わかっている」

「……」


 そう言われると恥ずかしくなってくる。

 さすがは神様。

 自分の世界の者達のことをよく見ている。


「正直な。俺も世界の管理者をやっているが、種族の壁って言うものがどこの世界であろうとある。乗り越えようとする奴は多くいたが、成功した奴は数えるほどしかいない。……ふっ。その中の一人はお前だよ」


 ぽんっと背中を叩くアルス。

 ジェイクも知っている。世界というものは、自分が知らないほど存在している。アルスは、世界の管理者として色んな世界を見てきたのだろう。


「んでな? 他の神々と俺は賭けをしたんだ」

「か、賭け?」

「ああ。もし、俺が管理している世界の人間。つまりお前だ。そいつがレベル100に到達することができるかどうか。俺は当然できるほうに賭けた。他の神々は、できないほうに賭けたがな」


 まさか、自分の知らないところで賭け事の対象になっていたとは。

 ジェイクは、神々の世界がどうなっているのかますます気になってしまった。


「そんで、賭けは俺が勝った! お前が見事レベル100になったからな」

「勝った場合は、なにかあるんですか?」


 賭け事をしたとは言ったが、賞品などが何かを言っていない。賭け事には、金やら賞品やら色々とあるが大抵は金だ。

 金欲しさに賭け事をする者達が多い。

 だが、神々の間では金など不要だろう。


「俺が、頑張った人間に褒美をやること。それが賭け事の賞品だったんだ」

「褒美って……え?」

「立場上直接自分の世界の者達に神から力を与えるのは禁じられているんだ。けど、それを一度だけ許されることになった。そこでだ。俺は、お前に新たな命を与えようと思っている」

「新たな命って……生き返れるんですか!?」


 こんなに嬉しいことはない。

 ……だけど、いくつか気になることがある。


「あっ、でも。レベルとかはさすがに…1からやり直し、ですよね」


 生き返られたとしても、さすがにいきなりレベル100というのは難しい話だろう。かなり苦労したことだが……仕方ないかもしれない。


「いや、レベルはそのまま100で生き返れるぞ? しかも、お前の全盛期まで若返るというのもセットでな!」

「ええええ!? そ、そんなことをして大丈夫なのですか?」


 もう八十を越える老人だというのに声を荒げてしまう。

 ってあれ? なんか声が若いような……と、ジェイクは自分の顔をぺたぺたと触っていく。


「ま、まさかもう」

「ああ。丁度、十八歳ぐらいか? 後は生き返るだけだ。心の準備、できてるか?」


 アルスがどこからともなく手鏡を差し出し、今のジェイクの顔を映した。

 それを見て驚愕。

 本当に、十代の頃の自分が映っていた。ずっと髭面の老人の姿を見てきたから若返った自分をこうして見るのは新鮮で仕方ない。


「……アルス様。俺は、生き返ったら何をすれば」


 レベル100でさらに若返って生き返る。

 嬉しいことだが、正直生き返って何をすればいいのかわからない。レベル100になったぞと言えばいいのか? だが、今の自分を見て本人だとわかってくれるだろうか。


「何をしてもいい。お前の人生だ。俺は見守る存在。今回だけは、お前のファンになった神として力を貸してやるが。その後は、お前が決めろ。……生き返らせておいて無責任だと思うがな」

「……いえ。そんなことはないです。なんだかんだで、色々と未練がありましたから。レベルを上げることだけを考えて、生きることを楽しまなかったですから。まず生き返ったら、歳相応の楽しみというものを満喫したいと思います!!」


 もうレベル上げに必死にならなくてもいい。

 これからは、今まで楽しめなかった分、思いっきり楽しむことにしたジェイクは、満面な笑顔をアルスに向ける。


「そうしろ。今後のお前の活躍にも期待している。さあ、いけ! 四人目のレベル100よ! 新たな人生、十分にエンジョイしてこい!!」

「はい!!」


 アルスが手をかざすと、ジェイクの足元に光の陣が出現する。

 一瞬にして体を包み込んだ光により、ジェイクは……レベル100のまま生き返る。


「――――ん。……えっと、ここはどこだ?」


 ジェイクが目を開けるとそこは、見知らぬ街並みが広がる公園。

 一人ベンチに座っていたジェイクは、その場から立ち上がり周りを見渡した後、街の中を探索し始めた。

 レンガで造られた家から、素材がわからない家。

 人々が着用している服もどこか自分が知っているものとは違うように感じる。なによりも気になるのは、人々が持っている小さな箱。

 あれはいったいなんなのだろうか?


「お。情報紙じゃないか」


 しばらく探索をしていると、見知ったものを発見し手に取った。情報紙は、色んな国の情報などを纏めたもので、ジェイクもレベルを上げている最中に通りかかった街などでは必ずと言って買っては読んでいた。もしかしたら、唯一の楽しみだったかもしれない。


「へえ……変わった情報が多いな。……ん?」


 情報紙を読んでいると、端っこに記されている西暦が目に入る。


「う、嘘だろ……じゃあ、今って!?」


 ジェイクは目を疑ってしまった。

 なぜならそこに記されていたのは、自分が生きていた時代から……百年が経った西暦だったのだから。

続きは明日になります。

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