第十五話
ジェイク達が辿り着いたファルネアという街は、とある神様を祭っていた。
大昔、戦により壊滅寸前だったファルネアに天から翼を生やした天使が降臨した。天使は、降臨するとすぐに人々の傷を癒し、微精霊が消えかかっていた大地を復活させたのだ。
人々の光となり、生きる活力を与えた。
天使は、復興寸前に天へと帰っていったそうだ。自分の名前を告げて。
「……これが、天使なのに神様と祭り上げられているファルネアの像か」
「すごいですよね。私、天使なんて見たことがありません。本当にこんな翼が生えているんでしょうか?」
ジェイクとユーカは広場の中心とも言える場所に設置されている像を見上げていた。
そう、この街の名前ファルネアこそが天から降臨した天使の名前。ファルネアの人々は、天使としてではなく神様として祭り上げている。
「神様だったら、俺はアルス様を見ているけど……」
「そういえば、ジェイクさんは本物の神様に出会っていたんですよね。すごいなぁ。私も一度でもいいから会ってみたいです」
ユーカの願いは叶えられないだろう。
なぜなら、この世界にはアルスは存在していない。百年前のアルスが説明していた通り、アルスが存在していたという記憶は残っているようだ。
「ジェイクさん! アルス様と実際に会ったということは、どういう性格をしていたとかそういうのを知っているんですよね!」
「まあ、だいたいは」
明らかに、興味津々な瞳で見てくるユーカ。
わからないことを純粋に知りたがる心というものを彼女は持っている。ジェイクは、どう説明したらいいかと考えた。
「やっぱり、高貴なオーラを放っていて、喋り方もすごく偉そうな感じだったんですか!」
「……俺もそこまで喋ったわけじゃないからな。まず言えることは」
「言えることは?」
「神様だったとしても、案外俺達と変わらないってことかな」
目の前にいるのが神様だと思い、ジェイクは緊張していた。
だが、アルスはまるで友人のような感じの口調で話しかけてきた。格好もそうだが、神様と言うだけで案外自分達とあまり変わらないのだろう、と。
「へぇ……そうなんですか。なんだか、ますます直接会って話してみたくなりました! 連絡先とか貰っていないんですか?」
マジフォンを取り出し、首を傾げるユーカ。
この世界では、マジフォンとマジフォンで遠く離れた者に文字を送る事ができるようだ。マジフォンに、直接文章を書き送り手を選ぶ。
どこに居ても、送れるらしくこの街に到着した時もラヴィから連絡がきたようだ。
開発者の説明によると、マジフォンの搭載されている魔石から魔力文字というものを作成。送る文章が書けたら送信というボタンを押すとその者に送られるそうだ。
送り手は、魔石に触れることで登録され、登録した者にしか送れない。
そして、魔石の魔力がなくなれば書くことができないので、小まめに魔力を補充しなくてはならない。
魔力の補充は、自分の魔力で補充できるが。補充専用の魔機が販売されているとのこと。
「残念ながら、俺はマジフォンを持っていないし。アルス様もおそらく持っていない。だから連絡先は持っていないってことだ」
「あ、そういえばそうでした。というか、ジェイクさん! 今後のことを考えて、マジフォンを買っちゃいましょうよ!」
「マジフォンをか……。ちなみに、マジフォンは簡単に手をつけられる値段なのか?」
はっきり言って、ここに来るまで魔物と戦い金は得られた。さらに、素材も換金し宿代や食事代もそれなりに得た。
ついでに言うと、あの三人組は指名手配をされていたらしく捕まえた報酬としてさらに金を入手。
が、高性能なマジフォンはかなり値打ちする代物だろうとジェイクは推測した。
「えっと。一番安いのでも…………うーんと………六万ユリスぐらい、だったような」
「六万ユリスか……」
それはかなり厳しい値段だ。
今ある全財産は、七万ユリス。この七万のうち五万は三人組を捕まえた報酬。
そこから、宿代や食事代。次の旅に必要な道具などを買うことを考えると……。
「一番安いものは、私のように魔法を使う機能はなくてですね。文通機能しかないんです。まそれでも、六万もするので、やっぱり高いですよねぇ」
「ちなみに、ユーカが持っているマジフォンはいくらぐらいしたんだ?」
文通機能だけで六万もする代物だ。
魔法を使う機能が搭載されていることから相当な値段はするだろうと容易に予想できる。
「実はこれ、お姉ちゃんからの贈り物なんです」
「姉がいたのか」
「はい。姉は、私より二つ年上で今は帝都で人々を守るため学園に通っているんです。私みたいに、ほとんど戦闘経験がなくて、無謀に魔物と戦う妹とは違って。ちゃんと戦闘技術を学ぶために通っているんですよ」
えへへ、と苦笑いするユーカ。
冒険者のほとんどは、未知な冒険へと旅立つため戦闘訓練などを積まずに魔物と戦っていた。が、それはジェイクの時代。
今の時代は、あまり無謀な者達はいないだろう……おそらくだが。目の前に、その一人が居るためいないとは言い切れない。
冒険者をするなら無謀なぐらいがいい、と多くの冒険者は語っていた。そのほうが、緊張感がありスリルが味わえると。
「姉の贈り物だとしても、値段ぐらいはわかるんじゃないか?」
「えっとですね。確か」
「さっき見てきたけど、十万ぐらいはしていたわよ」
「メアリス。どうしてこっちに?」
ファルネアに到着し、ハルナとネムを襲った三人組を警備兵に渡した後、報酬の十万を山分けし分かれたのだ。元々次の街までという話だったため、メアリスは傘を差し優雅に去っていった。
そんなメアリスが、ユーカの背後に立っている。
「それがね。ここは私には眩し過ぎるの。だから、どこか落ち着ける場所はないかと探し回っていたら……あなた達を見つけたってわけ」
「やっぱりメアリスも私達と一緒に居たかったんだね! 嬉しいなぁ」
「そうねぇ。あなた達と居ると、闇の素晴らしさを世界中に広めることができそうだから。ふふ、ねえジェイク」
「―――はっ!? も、もしかしてジェイクさんという伝説を利用するつもりじゃ……!?」
メアリスのジェイクに向けた熱い視線に、ユーカは察する。ジェイク=オルフィスという伝説。一緒に旅をしていれば自然と注目が集まることだろう。
そこで、自分の闇属性を見せつけその素晴らしさを教え込む。
「さあ。どうでしょうね。ところで、ジェイク。マジフォンを買うつもりなのかしら?」
「……今はまだいいかな。旅をしていれば自然とまた金も貯まるだろうし。十分な貯蔵ができたら買うことにする」
「そうですかぁ、残念です。ジェイクさんとも文通仲間になりたかったんですが。ラヴィもジェイクさんと文通仲間になったら絶対毎日のように送ってくれますよ!」
嬉しいことだが、それはそれで色々と対処が大変そうだ。
「ちなみに、私はマジフォンを持っているわよ。しかも、最新機種」
ふふんっと、自慢するように漆黒のマジフォンを取り出した。ユーカのものとは、少し形が違うようだ。ユーカの丸みを帯びているが、メアリスのは四角い形となっている。
大きさも、メアリスのほうがコンパクトで小さな手にしっかりと収まっている。
「ええ!? 最新機種って一ヶ月前に出てすぐ売り切れたって言う……」
「そうよ。魔法と文通はもちろんのこと。他にもさまざまな機能が搭載されていて、とても便利よ」
「う、羨ましい……! あ、いや。そうじゃなくて。メアリス! そういうことなら、お互い登録しようよ!」
最新のものを見せ付けられ羨ましがっていたユーカだったが、すぐに気持ちを切り替えマジフォンをメアリスに向ける。
「しょうがないわねぇ。本来なら、闇の素晴らしさをわかっている相手しか登録をしないのだけど……特別に登録してあげるわ」
互いに、マジフォンに搭載されている魔石に触れ登録。
ユーカは自分のマジフォンを見詰め、嬉しそうに微笑んだ。
「えへへ。実は、メアリスで登録人数三人目だったりして」
「ということは、あなたって……友達少なかったのかしら?」
「ち、違うんだよ! マジフォンを持ったのが最近で、すぐに旅に出たから登録してないだけで。友達は……いるよ!」
明らかに、妙な間空いたような気がしたが気のせいだろうか。焦るユーカを見て、メアリスは意地悪そうに笑いマジフォンを操作し始める。
しばらくすると、マジフォンから音が響く。
どうやら、さっそく何かを送ったようだ。
「……よろしくね。ぼっちちゃん。って! ぼっちじゃないよ! ちゃんと友達いるから!! というか、目の前に居るんだから直接言ってよ! そっちのほうが早いし。魔力を消費せずに済むし」
「これは、文通仲間になった証みたいなものよ。それに、これぐらいの短い文章ならさほど魔力は消費しないから安心しなさい。なにせ、最新機種だから!」
「う、羨ましいー!!」
ジェイクは、二人のやり取りを見て微笑ましく見詰めている。
だが、忘れてはいけない。
三人が居る場所は、この街で信仰しているファルネアの像の前だということを。我らが神の前で何を騒いでいるんだ、という住民の視線が突き刺さってくる。
このままだとまずいと思ったジェイクはユーカを何とか落ち着かせつつ、その場から離れていく。
まだ到着したばかりで、目立つと色々と動きづらくなってしまう。
宿もまだ探せていない。
今後は、場所を考えて会話をしなければ。こういう信仰する神がいて、住民の信仰心が高いところは経験から何かと問題が起こりやすい。
何も起こらなければいいが……。
最初は会話ができる、という設定にしよう思っていましたが。メールのほうが設定を考えやすかったのでそっちにしました。
値段のほうは、これぐらいかな? とあまり考えずに決めましたね。
やはり、設定というものを考えるのは楽しいんですが。同時にすごく大変ですね……。