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第七十二話

ちょっと短めです。

新作のほうも同時に投稿しました。

「まったくもう。ローグさんったらそれでも凄腕の殺し屋ですか~? 女の子一人殺せないなんて」

「うるせぇよ。俺は、何の罪のない奴の命は奪わねぇ主義なんだって。何度も言っているだろうが」


 空から地上へと降りてきたフランは、ねっとりとした喋りでローグを笑う。

 ローグは、とてもめんどくさそうに頭を書いている。

 本当にフランなのか? ジェイクは、目の前の現実に少し戸惑っている。最後にフランと会ったのは、あの謎の遺跡。


 結局まともな挨拶も出来ずに別れてしまった。

 ネロからは大体の事情は聞いていたが、これは予想以上に変わっている。あの無垢で子供のような笑顔が、今では邪悪なオーラを纏い、面妖なものとなっている。


「あ、ジェイクくーん!」


 ローグから視線を外し、ジェイクを捉えたフランは先ほどまでの雰囲気から一変。あの時と変わらない無垢な笑顔で駆け寄ってくる。

 一瞬、身構えてしまったがあまりにも殺気がないのでそのまま。


「むふぅん!!」

「おっとと……」


 飛びついてきたフランを簡単に受け入れてしまった。しばらく、ジェイクの胸の中に顔を埋めてから顔を上げる。


「お久しぶりだねぇ、ジェイクくん。元気にしてたぁ? あの時は、ちゃんとしたお別れの挨拶ができなかったからねぇ。心配しちゃった?」

「もちろんだ。ネロから大体の事情は聞いていたんだが……本当にフラン、なんだよな」

「あったりまえだよー。何を言っているの? ジェイクくん。そりゃ、ちょっと身なりは変わったけどもさ~。ねーねー、興奮しちゃう? 今の私を見て」


 飼い猫のように擦り寄ってくるフラン。

 フラン……なのだが。最初に出会った頃よりも、素直というか。甘えん坊になっているというか。確かに、変わっている。

 何か、枷が外れたかのように前よりも気持ちをはっきりと口から出せるようになっている。

 にこにことジェイクの返答を待っていたが、すぐに視線を別の方向へと向けた。


「とーこーろーでー。あれから少しでもわたしを倒せるぐらい強くなったのかな? お兄ちゃん」


 視線は、兄であるネロへと向けられた。


「当然だよ、というか、それはこっちの台詞だよ、フラン」

「お兄ちゃんこそ、何を言っているのかなぁ。あの時は、殺せなかったんじゃなくて……あえて殺さなかったんだよ。なんでかわかるかな~?」


 ふわっとまるで羽が生えているかのように宙をくるりと舞い、距離を取ったフラン。

 何もないところから、黒き刃を取り出しにやっと笑う。


「この力になれるためにね。もう完全にこの力には慣れてきたんだぁ。だから、お兄ちゃんをさっそく殺そうと思っていたんだけど~。ちょっと遊びたくなっちゃってね~」

「そこで、ローグに何の罪のないエミリアの殺し依頼を出したってこと?」

「そーだよー。ちなみに最初からローグさんは乗り気じゃなかったんだけどね。ただ、お兄ちゃんと久しぶりに会えるって言ったら素直に聞いてくれたんだ」


 そういうフランだったが、ローグは機嫌が悪そうに舌打ちをしてフランの前に立つ。


「よく言うぜ。あれは完全に脅しだったじゃねぇか。人の部下を皆殺しにするって殺気だっていたのを俺は忘れていねぇぜ?」

「あははは!! だって、そうでもしないとローグさん動かないじゃん。で? ローグさん。どうして武器をわたしに向けているんですか? 反抗ですか? やるんですか? わたしと」


 フランは、笑顔だが殺気立っている。

 それは、ローグがフランへと武器を向けているからだ。


「ネロ。そして、ジェイク。お前達はいけ。俺はけじめをつける」

「だったら、僕も一緒にやるよ。ずっとこの時を待ち望んでいたんだから」

「だめだ。お前はあのお嬢ちゃんのところへ行け。どうせ、こいつのことだ。俺以外の殺し屋を仕向けているはずだ」

「ありゃりゃ。ばれていたんだ。でもー……そうはさせないよ!!」


 作戦がばれたことで、フランは動き出す。

 黒き刃を振り下ろすと、それは突如しとして消える。

 刹那。

 ローグの影から刃は現れた。


「ちっ!?」


 ギリギリのところで、刃を弾き返し、フランとの距離を詰めていく。


「早く行くんだ! こいつの狙いは、ここでお前達を足止めして学園を混乱させるつもりだ。敵は……まだいる!!」

「ぺらぺらとおしゃべりが過ぎますよ!!」

「ぐあっ!?」


 黒きオーラを纏い、強烈な蹴りを横っ腹に叩き込む。だが、ローグは退くことはなかった。すぐに体勢を立て直してフランへと果敢に挑み続ける。


「……行くぞ、ネロ」

「ジェイク?」

「俺達は、エミリアの護衛だ。そして、学園にはまだ生徒達が残っている。もし、他に敵がいるんだとしたら誰かが止めなくちゃならない」


 ジェイクの言葉に、ネロは俯きローグとフランのことを見る。


「わかったよ。僕も今は冒険者だ。依頼はしっかりとやり遂げないと」

「ああ。ローグ! ここは頼んだぞ!」

「任せろ!!」

「逃がさない!!」


 ジェイク達が立ち去ろうとしたのを阻止せんと、また影から出現する刃を振り下ろす。

 狙いはネロ。

 だが、反応できない攻撃じゃなかった。


「はっ!!」


 一刀両断。

 簡単に黒き刃を切り裂き、ネロは一度フランを見てからジェイクと共に立ち去っていく。そして、ローグと二人っきりになったところで、武器を下ろす。


「あーあ。もっとお兄ちゃんとやりたかったのになぁ」

「変わりに俺が遊んでやるよ。ネロの親友の俺がな」

「……しょうがないなぁ。いいよ、遊んであげる。でもね」


 武器を突然空へと投げるフラン。

 いったい何をするつもりだ? ローグは警戒心を高め身構える。武器は、空中でくるくると回りだし、形を崩した。

 どんどん広がっていく黒く得たいの知れない力。


「死んじゃうよ? はっきり言って」


 景色が染まっていく。

 黒く……黒く染まっていく。フランとローグの周りを包み込むように広がっていくそれは、まるで生きているかのように蠢いていた。

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