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エピソード・ジェイク

ちょっとした過去の話。

ジェイクがまだレベル上げに奮闘していた頃の話をちょっとだけ書きました。



 ジェイク=オルフィスは剣を振るう。

 ただ無心に剣を振るい、魔物を倒していく。使い古された鎧とマント。だが、剣だけは新品のように綺麗な刀身をしている。


 今年で、八十歳を迎えたジェイク。

 八十もなると体に限界がくるものだが、ジェイクはそれでも戦い続けている。旅の途中で、立ち寄る村や街などで自分と同じぐらいの老人を見ても、大体が私服に身を包み平和な暮らしをしている。


 畑を耕したり、猫と戯れたり、孫と買い物をしたり。

 だが、ジェイクにはそんなことをする余裕がない。

 なぜなら、レベル上げをしなくてはならないからだ。


 強くなりたいから? 違う。

 この世界にレベルというシステムがあるがゆえに。そして、種族という壁があるがゆえに人間はエルフや獣人など簡単にレベルを上げるのを見て、自信をなくしている。


 いくらレベルを必死に上げたとしても生まれもっての能力の差というものがあり、簡単に越えてくる。だから、人間の冒険者は徐々に数が少なくなっていき、街に籠もるようになってしまった。

 それが幸せなのかもしれない。

 わざわざ危険な魔物達に挑んで身を削り、レベルを上げる必要がどこにある? 確かに、魔物を倒せば金も手に入る。

 レベルが上がれば身体能力も上がる。だが、生きていくだけなら……普通に働いていれば良い。


「……暗くなってきたな。野宿する場所を探すとするか」


 剣を鞘に収め、太陽が沈みかけている空を見詰めジェイクは野宿の準備を進める。丁度、水辺が近い広い空間を見つけた。

 荷物を降ろし、途中で拾ってきた木の枝を摘んで火打石で点火。

 水辺で汲んできた水を小さい鍋に居れお湯になるのを座って待つ。


(……八十になり、今のレベルは97。もう少しだ。もう少しで)


 徐々に煮えたぎってくる水を見詰めながらジェイクは思い出している。昔は一緒に冒険をしていた者達に向かって自分はレベル100にみせると宣言した数十年前のことを。

 昔は楽しかった。

 仲間と一緒に冒険をして、魔物を倒して落ちた素材を売って金にして。その金で、おいしいものを食べて。

 それが今では……。


「ん? 誰だ」


 こちらに近づいてくる気配を感じ取ったジェイクは剣の柄に手を添える。


「ま、待ってください! 野盗とかそういう者じゃありません!」

「……」

「親子?」


 姿を見せたのは、二十代後半ぐらいの男とまだ十歳にも満たない容姿をした女の子。二人とも紺色の髪の毛で、ローブを羽織っている。

 男のほうは一応剣を装備しているということは、同じ冒険者か? ジェイクは、剣から手を離すも警戒を解かず二人を見詰める。


「僕達は、旅をしている親子です。僕の名前は、アラン。そして娘のエリです。実は、野宿をしようと思っていたのですが。たまたま灯りを見つけたものですから」

「……なるほど」

「ほら、カナ。ご挨拶を」


 アランの後ろに隠れていた娘カナは、おずおずと姿を現し小さく会釈をする。


「はじめまして、おじいちゃん。わたし、カナっていうの。よろしくね」


 挨拶を終えると、カナはジェイクの反応を伺っている。

 純粋無垢。

 そんな眼差しを向けられ、ジェイクは警戒を解きカナの頭を撫でる。


「俺は、ジェイクだ。よろしくな、カナ」

「うん!」


 ジェイクの優しい笑みに、カナは満面の笑顔を向けた。

 その後、アランとカナの親子を加え夕食をとった。作ったのは、作りなれている鶏肉のスープ。それに加え、アランがパンを分けてくれた。

 ありがたく貰い、いつもより楽しい夕食の時間が過ぎていく。


「眠ってしまったか」

「はい。ジェイクさんが作ったスープがとてもおいしかったんですよ」

「そう言って貰えるのは素直に嬉しい。なにせ、ずっと一人旅をしていたからな。誰かに料理を作ったのは今日が初めてだ」


 ずっと、レベルを上げるために旅をしてきた。

 仲間と旅をしていた頃は、料理などせずにパンにハムなどを挟んでサンドウィッチにしたり。街で買ってきたものをそのまま食べたり。

 時には、狩りをして何も味付けをせず丸焼きにしたり。


「そうだったんですか。それにしても、ずっと一人旅なんてすごいですね。何か目的とかがあるんですか?」

「……レベル上げだ。俺は、人間で初のレベル100になるためずっと魔物と戦い続けていた」

「レベル100って……今、レベルは?」

「97だ」

「きゅ、97!?」


 つい驚きのあまり大声を上げてしまったアランだったが、すぐに口を塞ぎ眠っているカナの様子を伺う。どうやら、起きてはいないようだ。


「すごいじゃないですか。後もう少しでレベル100ってことですよね」

「だが、そのもう少しが長い。レベル97になってからもう半年以上は魔物と戦っている」

「……やっぱり、そう簡単にはいかないってことなんですね」


 そう、簡単にはレベルが上がらない。

 だとしても諦めるわけには行かない。ここまで来たんだ。最後まで……。


「すごいなぁ、ジェイクさんは。僕なんて、まだレベルが20で全然足元にも及ばない。それに、僕はこの子とずっと居られればそれで良いって思っているんです」


 すやすやと眠っているカナの髪を撫で、アランは語る。


「ならどうして旅をしている?」

「……実家に帰る途中なんです。僕の妻は、カナがまだ赤ちゃんだった頃に亡くなって。それからというもの男で一人で育てていたんですが。最近になって母親が一緒に暮らさないか? って手紙を送ってきたんです」

「それで実家に、か」

「はい。祖父祖母も一緒ならカナも寂しくないだろうって。……ジェイクさんの家族や仲間は今はどうしているんですか?」


 アランの質問にジェイクは、故郷のことを思い出す。

 最初に冒険者になると言って出て行って、最後に帰ったのはもう何十年も前。歳から考えるともう……。


「家族はもういないかもしれない。俺は、とんだ親不孝者だ。家族のことを忘れて、ずっとレベルを上げるために戦っていたんだからな」


 仲間達も、もう自分のことなど忘れているだろう。

 レベル100になると宣言してから、いったいどれだけ経ったことか。


「ジェイクさん……」

「……だから」

「え?」


 夜空に輝く星を見詰め、ジェイクは呟いた。


「もし次に生を受けた時は。今度こそ家族を大事にして。もう一度冒険者になって……仲間達と楽しく旅を、してみたいな……」


 人間族の希望の星とならんと奮闘している老剣士のささやかな願い。その表情はまるで、少年のように見えてしまうほど、穏やかなものだった。

 そして、ジェイクの願いに応えるかのように、夜空の星が……流れ落ちる。

次回から本編に戻ります。

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