第七十一話
長らくお待たせしました。
続きです。
「はあ!!」
「ユーカ!! エミリアとアリサを頼む!!」
「は、はい!!」
切りかかる殺し屋ローグの攻撃を、ジェイクは一振りの剣で防ぎきりながらユーカに二人の守りを頼むと叫ぶ。
さすがは殺し屋。
ネロと共に仕事をしていただけはある。軽い身のこなしと、こちらから攻撃を与えないように素早く攻撃を次々に繰り返している。
だが……。
「そこだぁ!!」
「おっと。危ない危ない。さっきのは当たるところだった」
こちらも、伊達に戦ってきたわけではない。
なによりも今は……神の加護と仲間がいる。
「ローグ。お前はどうして、エミリアの命を狙う!」
「ネロの聞かなかったか? 殺し屋が依頼内容を話すと思うか?」
確かにその通りだ。
殺し屋とは依頼者からの依頼を必ず遂行する。そして、依頼内容は必ず他人には公開することはない。彼等は裏の住人。
冒険者や騎士とはやり方は違えど、平和のために殺しをしている。だが……今回に限っては違う。
エミリアの命を狙う理由がわからない。
身代金目的? だったら、殺し屋は動かないはずだ。ネロの話通りならば、殺し屋は確かに金のために殺しをしている者達もいる。
しかし、目の前にいるローグは違う。
ネロが信頼を寄せる相手。
そんな者が、金だけでなんの罪もない少女の命を狙うとは思えない。
「考えているな。どうして、俺がその少女の命を狙っているのかって」
「……」
「だが、考えても無駄だ。俺は殺し屋。狙った命は……逃さない!!」
一瞬のうちに姿を消す。
どこから攻めてくる? いや、これは。
「ユーカ!! 後ろだ!!」
「くっ! 《フレア・ウォール》!!」
ローグの目的はあくまでエミリアの命。
ジェイクと真正面からいつまでも戦っているとは限らない。その予想通りに、ローグはエミリアを背後から狙っていた。
間一髪のところで、ユーカの炎の壁が刃を弾いた。
「魔機使いか……また厄介な。だが!」
「速い……!」
炎の壁を避け、がら空きの真横から攻めるローグ。
ユーカは反応しきれず、魔法を唱えることができなかった。
「経験の差がありすぎる!!」
「させないわよ!!」
「やらせるか!!」
それを防いだのはジェイク……そして、エミリアだった。
「ほほう。これは、勇敢なお嬢さんだ」
「なめないでよね! あたしは」
チラッと、隣にいるジェイクを見て一瞬恥ずかしそうにするもすぐに表情を引き締める。
「あたしは、将来ジェイク=オルフィスのような立派な冒険者になるんだから! あんたなんか負けてなんていられないのよ!!」
突然自分の名前が出てきたことでジェイクは驚くもすぐに小さく微笑みエミリアの肩に手を置く。
「そうか。じゃあ、その夢を壊さないように頑張らなくちゃな」
「もちろんよ。あんな奴さっさと倒しちゃいなさい」
「ああ!」
「ふん。いい具合に盛り上がってきたじゃないか。だが、俺はそう簡単には倒せないぞ?」
不適に微笑み残りの剣を抜き放った。それを最初の二本の剣の柄に取り付けた。
「これ以上時間をかけると依頼者に怒られるんでな。本気の本気でいかせてもらうぜ」
「ああ。そうしてくれると助かる。俺も、この姿に戻る前までマナを大量に消費してしまったからな」
「そうか。それはいいことを聞いた。じゃあ……」
ダン! と床を力強く踏み駆け抜ける。
今までとは比べ物にならないぐらいの突撃力だ。しかし、今のジェイクはエミリアの期待に応えなくてはならない。
その一心で、ジェイクは戦う。
自分を目標としてくれる後輩冒険者のために。
「もらった!」
「そういう言葉は!」
ガキン! 真下からの攻撃をジェイクは容易に剣で防いで見せた。
「決まらないものだ!!」
「だったら!!」
剣と剣のぶつかり合いは、より激しくなっていく。
それは、激しい風圧を生むほどに。
ユーカ達は、ただただ二人の戦いを呆然と見ていることしかできない。あの中に、一歩でも踏み出せばこちらがどうにかなってしまいそうだ。
「何度もジェイクさんの戦いは見てきたけど……今回のもすごく激しい」
「あ、あの体育館壊れたりしませんよね?」
「だ、大丈夫だと、思うけど……」
アリサの言葉にはエミリアも心配になってくる。
なぜなら、二人が本気を出し始めてから体育館が地震が起きた時のように振動しているからだ。
「じぇ、ジェイクさん! このままじゃ体育館が壊れてしまいます!!」
「そうか……なら!!」
「ぐああっ!?」
ローグが入ってきた出入り口。
そこはまだ開いている。そこをうまく狙ってジェイクはローグを蹴る。見事に、ローグは体育館の外へと吹き飛んだ。
「これで大丈夫だ。ユーカ! 今の内にエミリア達を安全なところへ!」
「はい!! 二人とも、こっち!!」
「あんた! さっさとあんな殺し屋倒しちゃいなさいよ!!」
「が、頑張ってくださいね! ジェイクさん!!」
「ああ」
ユーカがエミリア達を体育館の別の出入り口から脱出させたのを見てジェイクはローグを追い体育館を出た。
丁度木に三本ほどぶつかって止まったようだ。
「いってぇな……お前。本当に人間か?」
背中を押さえながらふらりと立ち上がるローグにジェイクは剣の切っ先を突きつけながら小さく笑う。
「もちろんだ。ただ、一度死んでいるけどな」
「転生者って奴か……」
「なんでだ」
「ん?」
「なんで、お前。エミリア達を追おうとしない」
多少ジェイクからの攻撃でダメージを負っていたとしても、これほどの実力者だ。すぐ体勢を立て直して殺しの対象であるエミリアを追うはずだ。
しかし、追おうとしない。
「それは、お前の攻撃が」
「いや、違うな。どうしてかわからないが、お前はこの殺しに本気じゃないような気がするんだ」
「へぇ……そう思うのか」
「なんとな、だよ。言葉ではエミリアを殺すと言っていたが。向けられた殺気は、エミリアじゃなくてただの脅しのように感じたんだ」
ジェイクの言葉にローグは目を見開く。
そして。
「くっくっく……そうかそうか。そう思うか……その通りだ。俺は、今回の殺しにあまり乗り気じゃない」
高らかに笑いローグは語る。
自分がどうして今回の殺しに乗り気じゃないのかを。
「今回の殺しは、何の罪もない未来ある少女を殺せとの依頼だった。他の頭の狂った連中なら喜んでやるかもだが、俺は違う。俺は理由もなく人の命は奪わない」
「いいのか? 依頼の内容は話さないのが殺し屋じゃなかったのか」
「そっちから聞いてきたんだろ? それに、どう考えてもあのお嬢さんの命は奪えそうにない。お前のような優秀な護衛がいるからな。それに……」
「ジェイク!!」
ネロだ。
ネロが一人ジェイク達のところへ駆けつけてくれた。
「メアリスは?」
「ユーカ達のほうに行ったよ。もしものためにね。僕は……」
すでに戦う意思がなくなったローグをネロは見詰めた。
同じ殺し屋として。
共に戦った共として、ネロは一歩前に出てローグへと伝えるべきことを伝えた。
「ローグ。君が、こんな意味のない依頼を受けるなんてって思っていたけど……やっぱり乗り気じゃなかったんだね」
「当たり前だ。正直、適当に誤魔化そうかと思ったが。護衛をしているその男が強くてな。依頼を忘れて戦いに集中してしまった」
「まったく。本当に君らしくないね。適当に誤魔化すなんて生まれて初めて聞いたよ、君の口から」
お互いに笑い、先ほどまでの緊迫した空気が嘘のように穏やかなものへとなっていた。
ジェイクも自然と剣を収め、二人を見守る。
もうローグからは殺意というものがない。
「はっはっは。さぁて、俺はこれで失礼する。……奴に見つかったら事だからな」
「奴?」
「なんでもねぇよ」
「―――なんでもなくはないよねぇ、ローグさ~ん」
殺気!? それも空から感じる。
そしてこの聞き覚えのある声。
忘れるはずがない。
この声は……。
「ふ、フラン……!」
「ちっ。思ったより早かったな」
どういう原理なのか。
禍々しく輝く黒き物体に腰掛け、空中に浮いているネロの妹であるフラン。最初出会った頃とは、雰囲気が全然違っていた。
体中に何かの紋章のようなものが刻まれており、感じられる魔力が段違いだ。
これと同時に新作も投稿しました。
よろしければそちらも!