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第七十話

「それじゃ、お願い! この埋め合わせはちゃんとするから!!」

「別に気にしなくて良いよ」


 時は、放課後。

 夕日は沈むかけ、ジェイクの姿は残り十数分ほどで戻ろうとしている頃。アリサが、用事がある友人に代わり体育館倉庫の片付けをすることになった。

 一人じゃ大変だということで、エミリアも手伝うことに。

 エミリアが手伝うのであるならジェイク達も当然一緒に。


「まったく、アリサもお人よしよね」

「えへへ。そういうエミリアちゃんも、だよ」

「それもそうね」


 くすくすと笑い遭いながら作業を進め、十分ほどが経ち倉庫の片づけが終わった。


「さて……俺の体もそろそろ戻る頃だな」


 体育館の窓から差し込む夕日の光で照らされるマナ。

 それを見詰めながらジェイクは、しみじみと呟く。


「ジェイクさん。お体のほうは大丈夫ですか?」

「さすがに、疲れてきたかな……数時間もずっと体からマナが抜け続ければ、当たり前だけど」


 少しずつとはいえ、よく堪えたと思っている。


「ようやく元に戻るのね。約束、覚えているわよね?」

「もちろんだ。だけど、元の姿に戻ってもすぐには無理だ。さすがに疲れているからな」

「ええ、構わないわ。万全なあんたとやりたいから」

「それは助かる」


 さて、用事も済んだことだし帰るとしよう。

 そう思った刹那。

 複数の気配を感じ取る。


「アリサ!」


 それがアリサに近づいていることに気づいた時には遅かった。口元を隠した一人の男が、アリサを拘束しジェイク達から距離を取る。


「ぐっ!」

「エミリア!!」


 油断していた。

 いや、ずっと警戒はしていたはずだった……元の姿に戻るという安心、マナが体から大量に抜けて集中力が切れ掛かっていた。

 その二つが重なり、そこを狙われた。


「くっくっく。ようやく隙を見せてくれたな。ガキの割には隙がなくて苦労したぜ」

「二人を放しなさい!!」


 マジフォンを構え、男達に訴えかける。

 が、男達は素直には従わない。


「お前達! ローグって男の部下なんだろ! 人質を取るようなことをローグが望んでいるのか!?」

「あぁ、もちろん望んでいるとも」

「そこから動くな。さもないとこの娘の命はねぇ」


 不気味に笑い、短剣を喉元に近づける。


「す、すみません。また足を引っ張ってしまって……」

「気にしちゃだめよ、アリサ! こんな奴ら、すぐに二人がやっつけてくれるわ!」


 自分のせいで……と泣いているアリサにエミリアは捕まりながらも元気付けるように叫ぶ。しかし、男達は容赦がなかった。


「うるさせぇぞ」

「いつっ……!」

「エミリアちゃん!?」


 ナイフで、エミリアの頬を傷つける。

 さほど大きな傷ではないが、ユーカもこれは下手には動けないとマジフォンを下げた。


「おいおい。殺すならもっとふかぁい傷をつけたほうがいいぜ?」

「俺は、ちくちくじみぃに攻めていくのが好きなんだよっ」

「……」


 ジェイクはなんとかこの状況を打破しようとエミリアとアリサに目線を送る。目を瞑り、もう一度視線を送った、

 それがどう伝わったのかはわからないが……二人は静かに頷く。

 今の状態だと、いつもの力は出し切れないがやるしかない。

 自分は、護衛として役目を果たさなければならない。


「ユーカ……」

「……はい」


 チャンスは一瞬。

 相手も素人じゃない。失敗すれば、二人がどうなるかわからない。


「《フォトン》!!」


 魔機使いの長所である、無詠唱の魔法。

 その中の光属性の魔法により、まずは目晦ましをする。


「くっ!?」

「目晦ましか!?」

「いまだ!!」

「はい!」

「この……!」


 一瞬の隙を狙って、エミリアとアリサが勇気ある攻撃にて男達の拘束を解いた。

 距離的には、ユーカがアリサ。

 ジェイクはエミリアを助けに駆ける。事前に目を瞑っていた四人は、男達よりも軽快に動くことができ無事に合流。


「ユーカさん!」

「アリサちゃん! もう大丈夫だよ!」

「味なマネをしてくれる!!」

「なっ……!?」


 残ったエミリアへ向け、十人はいるであろう男達が刃を構え襲ってきた。

 体が重い。

 いつもより動かない。

 エミリアと接触することはできるがそこからは……。


「エミリア!!」

「え、ちょっ!?」


 半ば無理やりにエミリアを引き寄せユーカのところへと突き飛ばす。

 これでエミリアは救えた。

 男達の勢いは止まらず、ジェイクに向け一斉に襲い掛かってくる。


「死ねぇ!!」

「ジェイクさん!!!」


 複数の刃が、ジェイクを襲った。

 静寂に包まれ、ユーカ達もまるで時が止まったかのように動かずにいた。


「ど、どうなったのよ……ちょっと……返事しなさいよ!!」


 叫ぶエミリア。

 男達に囲まれ、ジェイクの姿が見えない。ただ唯一見えたのは……床に落ちる血の雫。それも、少量ではない。

 血溜まりができるほどの血の雫が落ちていた。


「ふっ」


 男の一人が笑う。

 そして。


「ごはっ……!」

「なんだと……」

「ば、馬鹿な……」


 男達は倒れた。

 糸が切れた人形のように一斉に床に崩れ落ちる。そこに、立っていたのは……金髪長身の男。


「ふう、危機一髪だったな」

「ジェイクさん!?」

「ああ、俺だ。ギリギリだったが、元の姿に戻ることが出来たようだ。いや……俺もさすがに死んだかと思って背筋がぞっとした……」


 多少服や肌が切れ、血が流れているものの重傷ではない。どうやら、床に流れ落ちている血はほとんどが男達のもののようだ。

 元の姿に戻ったことで、服もズボンも肌にぴったりと張り付いているかのようにパンパンだ。


「と、兎に角。ジェイクさん、これ!」


 ハッと我に返ったユーカは、いつでも元の姿に戻ってもいいように持っていた服を取り出す。


「ありがとう。それじゃ」


 と、目の前で服を脱ごうとするジェイク。

 それを見て、エミリアは顔を赤くして叫んだ。


「ちょ、ちょっと! あっちで着替えてきなさい!」

「あ、すまん」


 周りの警戒を怠らず、彼女達の背後で服を着替えるジェイク。


「よし。もう大丈夫だ」

「まったく……心配させるんじゃないわよ」

「あの時は、ああするしかなかったんだ。そうだ、怪我してないか? 結構強引に突き飛ばしたから」

「……あたしはなんともないわよ。それよりも自分の心配をしなさい」

「ジェイクさん、今回復しますね。じっとしていてください」


 小さな傷だが、大事に至らないようにしっかりと回復をしていく。


「まさか、子供の化けていたとはな」

「誰……!」


 次から次へと……声は、体育館の入り口方面から聞こえた。

 立っていたのは、先ほどの男達と似た服装だがどこか雰囲気が違う。剣を四本所持しており、周りには男以外いない。


「俺の名はローグ。お嬢さん。お前の命を狙っている殺し屋だ」

「お前がローグ……」

「正面から来るなんて殺し屋にしては、堂々としているじゃない」

「俺は、いつも堂々としている」


 回復を終えたジェイクは、エミリアの前に立ち盾となる。

 剣に手を添えながらも、ローグへと話しかけた。


「いくつか聞いてもいいか?」

「なんだ?」

「そこに倒れている連中と、学園長シーナを襲った連中……お前の部下か?」


 ジェイクの問いに、ローグは倒れている男達へと視線を送った後、小さく笑った。


「あんな奴ら知らんな。それに、学園長を襲った連中も知らん」

「嘘ついているわけじゃないわよね?」

「誓って。俺は、人質を取るような汚い真似はしない。まあ、信じるかどうかはお前達次第だが」


 ネロの言っていた通りか。

 それとも、嘘をついている? 彼のことを知らないジェイク達にとっては、簡単には信じることが出来ないでいる。


「それで、お前はエミリアを」

「ああ、殺しに来た。今までは、少し野暮用があってすぐに攻めれなかったが……」


 剣を二本抜き、逆手持ちで構える。


「今から、攻めて攻めて攻めて……攻めきり、任務を遂行する」


 これが殺し屋の殺気……体が元に戻り、少し回復したとはいえ護りきれるか? 

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