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第六十六話

「ふっふっふ。さすがの伝説もここまでのようね」

「くっ……! なんて強さなんだ……!」

「そんな……あのジェイクさんが、負ける?」


 ジェイクは苦戦していた。

 尋常ではない強さで、圧倒するのはエミリア。傍らでユーカは、あんなに苦戦しているジェイクを見るのは初めてだと表情を曇らせる。


「やはり、勝てなかったようね」


 わかっていた。

 彼女が、ジェイクよりも強かったことは。だが、ジェイクはわかっていたとしても逃げるわけにはいかなかったのだ。

 どんなことでも、奇跡はある。

 やってみなくちゃわからない。

 そう思って挑んだのだが……結果は。


「さあ、これで終わりよ。約束、覚えているわよね?」

「……ああ」


 ジェイクの頷きに、エミリアは不適に微笑む。

 そして、覚悟を決めたジェイクに……トドメを刺した。


「はいこれで私の勝ちね!」


 先ほどまでの重苦しい雰囲気から一変。

 太陽のように眩しい笑顔を見せて、大喜びするエミリア。勝負の結果を見て、ジェイクは頭をかく。

 二人が、対戦していたのはとあるゲーム。

 ルールは簡単。

 剣士、魔法使い、弓使い、槍使い、拳闘士などの冒険者達の駒を動かし、リーダー格である駒を先に取ったほうが勝者となる。

 職業毎に、移動する幅が違う。

 ちなみにどんな駒でも関係なく色んな駒を取れることが可能だ。


「あははは……負けちゃいましたね」

「これで、五連敗ね」

「エミリア様は、こういうゲームも得意中の得意なので」


 対して、ジェイクはゲームという娯楽をするのは初めて。事の始まりは、ジェイクがクリスから貰った薬を飲み、無事に屋敷へと帰宅した後のことだった。

 偶然にも、見つけたゲームのルールをエミリアに教えて貰おうとしたところ……なぜかこんなことに。

 おそらく、あの時の雪辱をゲームで晴らそうという魂胆なのだろう。

 その結果、見事にエミリアの圧勝でゲームは終わる。


「ふふん。初心者にしては、健闘したんじゃない?」

「あはは。でも、負けてしまったからな」

「ところで、約束って何なんですか?」


 途中から見ていたユーカには、どんな約束をしていたのかわからない。

 そんなユーカの問いに、エミリアはスッキリした表情で説明する。


「明日には、元の姿に戻るでしょ? だから、その時はこの私に稽古をつけるって約束よ!」

「……別に約束しなくても、ジェイクさんならやってくれるんじゃ?」

「お嬢様は、恥ずかしくてあんな回りくどいことをしているんですよ」

「ああ、なるほど」

「ちょっと、こそこそと何を話してるの?」


 鋭い目で睨まれ、ユーカとミアはなんでもありませーんっと笑顔を作る。


「皆、楽しそうだね」

「ネロ。遅かったじゃない」


 太陽はすでに沈んでおり、夜となっている。

 戻ってきたネロは、出て行ったときと何か雰囲気が違うように見えた。


「うん。それよりも、皆。明日から……忙しくなるよ」

「どういうこと?」

「実はね」


 ネロは、話した。

 エミリアの命を狙っている殺し屋のことを。そして、今日あった出来事のことを。


「そのローグって男。相当の実力者のようね。わざわざ、教えるなんて。それとも、ただの馬鹿?」

「うーん。仕事の時は、頼りになる兄貴分なんだけど。普段はちょっとお調子者だったかな」


 だが、ネロの話が本当ならば明日からは過酷な戦いが始まるかもしれない。

 明日……体からはマナが抜けて行く。

 その状態で、まともに戦えるだろうか。

 そもそも、マナが体から抜けて行く中で戦った経験がないためはっきりとは言えない。


「でも、相当な実力者でも、この人数相手には無理があるんじゃない?」

「そうね。でも、わざわざ事前に教えたってことは、何か作戦があるはずよ。ネロ、あなたはどう見る?」


 メアリスの言葉に、視線が一斉にネロに集まった。

 しばらく考えた後、ネロは。


「ローグのことだから、あまり小細工はしてこないと思う。ただ、僕が知っているローグだったとしたら、だけどね。それに、どうしてエミリアの命が狙われているのかもまだわかっていない。でも……僕は冒険者として、受けた依頼は絶対やり遂げてみせる。それが今の僕の答えだ」

「いい答えだ。そうだネロ。お前も一緒にやらないか?」

「やるって?」


 これだ、とテーブルの上にあるゲームを差す。


「より結束を強くするために、皆でゲームだ。どうだ?」

「……いいよ。でも、僕こういうの結構得意なんだ。負けないよ」


 笑顔で、ジェイクの迎えに座る。

 それを聞いたジェイクは、不適に微笑む。


「面白い。俺も、負けっぱなしじゃいられないからな。絶対勝って見せる!」

「いつでもいいよ。このゲームならルールは頭に入っているから」

「よし、なら俺が先攻でいかせてもらうぞ」

「ふふ。ジェイク様は負けず嫌いなんですね」


 楽しそうにネロとゲームをしているジェイクを見て、ミアは小さく笑う。


「というよりも、今は純粋にゲームを楽しんでいるって言った方がいいかしら。聞く限り、彼はこういう娯楽に一切触れていなかったらしいから」


 ジェイクが生きていた時代には、娯楽というものが少なかったという理由もあるが。子供時代は、冒険者になるために森で特訓の日々に明け暮れていた。

 大人になるにつれて、娯楽が増えていったがその時には見向きもしない。

 ただただレベルを上げる、という目的に一直線だったのだ。


「なんだか、今の姿と相まって可愛く見えてきちゃった……! か、可愛いジェイクさんか……いいかもしれない……!」

「では、お写真を……はい、パシャリ」

「……ミア、ナイス」

「はい。どう致しまして」




★・・・・・




「……なるほど。こうなるのか」


 皆が寝静まった頃。

 ジェイクは月明かりに照らされた自分の体を見詰める。

 細かな光の粒子が、抜けて行く。

 ふわりと天に上って行く様は、月明かりと合わさりとても美しい。


 が、これはジェイクの体のマナ。

 体の異変に気づき、目を開けたところ体からマナが抜けて行くのを見た。痛みもない、気ダルさもない。しかし、それはまだ抜け初めだからだろう。

 おそらくこのままマナが抜けて行けば、徐々に気ダルさが襲うはずだ。


「ジェイク。それって」

「ネロか……ああ、マナが抜け始めたようだ」


 今は、ネロと一緒に見回り中だ。

 手分けして見回りをしていたのだが、どうやらネロのほうは終わったらしい。隣に並び、手を握る。一粒一粒体から抜けて行くマナを見て眉を顰めた。


「痛みはないの?」

「今のところはな。さて……昼頃にはどうなっていることか」


 もしかしたら、体が痩せているかもしれない。

 まだ一日猶予があるとはいえ、元の姿に戻った時に自分はどうなっているのか。


「大丈夫。僕が、ううん。僕達がちゃんとフォローするから!」

「頼もしいな。それじゃ、頼らせて貰おうかな」

「任せて。仲間同士で助け合う。冒険者としては基本だからね。あ、そうだ」


 思い出したように、ネロは何かを取り出す。

 どうやら、水筒のようだ。


「今日は冷えるから、温かい飲み物を用意したんだ」

「それは助かる。丁度喉も渇いていたんだ」

「はい、どうぞ」


 コップに注がれたコーヒーを受け取りゆっくりと飲んで行く。


「あぁ……いいな。体の芯から温まっていくようだ。ほら、お前も」

「ありがとう。ん……ふぅ。温まるなぁ」

「ネロ。長かった護衛の依頼もあと少しだ。しっかりエミリアを護ってやろう!」

「了解!」

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