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第六十五話

「ジェイクさーん! ただいま戻りましたー!!」

「どうやら、入手できたようね」


 ユーカとメアリスがダンジョンへと向かってから一時間半が経ちとある小瓶を手に戻ってきた。あれが『ディーネの水』なのだろう。

 見た目は、ただの水にしか見えないが。


「あら? ネロはどこに行ったの?」

「あ、本当だ」


 小瓶をクリスに渡した後、ネロの姿がないことに気づき周りを見渡す二人。


「途中で会わなかったの?」

「ううん。全然」


 事情を知らない二人に、ジェイクが軽く説明する。

 説明するも、ジェイクにもどうして出て行ったのかがわからない。ただ、ただならぬ様子で出て行ったからには何か気になることがあって出て行ったのだと予想は出来る。


「なるほどね……私の予想だけど。ネロは、エミリアの命を狙っている殺し屋に心当たりがあるんじゃないかしら?」

「だから、それを確認するために出て行ったっていうの? ジェイクさんにも内緒で?」

「そうね。よほど信頼している人物、なのかもしれないわ」


 そう言って、メアリスは深く考え込む。


「ネロちゃんのことが心配なのはわかるけど。今は、もっと先にやることがあるんじゃないの?」

「そうよ。早くしないとあんた、体からマナが抜けていっちゃうわよ?」


 ハッと我に返り、そうだったなとクリスを見る。


「それじゃ、さっそく調合してくるわ。ちょっと時間がかかるから、それまで待っててね」

「あ、私も手伝うよお母さん」

「うん、ありがとね」


 ようやく元の姿に戻れる。

 だが、もう夕方だ。

 クリスの仕事の都合もあり、昼過ぎにしか会うことが出来なかった。とはいえ、明日になる前には元の姿に戻れるので問題はないだろう。


「さて、私達は薬が出来るまで、ネロのことを考えておきましょう」

「そうだな。ネロのことだから、あまり軽率な行動は取らないと思うが……」

「でも、いつもと様子が違ったのよね? そういう時って、一番危ないかもしれないわよ」


 いつも物事を冷静に考え、着実に行動に表すネロ。

 今回も、考えた結果何かに気づいたのだろう。

 今は冒険者だけ、その前は殺し屋だ。

 単独行動は得意なのだろうが……。


「あああああああああッ!?」

「な、なんだ!?」

「クリスさんの声です!」


 薬の調合のため仕事場にアリサと共に篭ったクリス。

 いったい中で何があったんだ?

 慌てて、仕事場に突入したジェイク達。そこには、一冊の本を眺め、頭を抱えているクリスと母親を宥めている娘アリサの姿があった。


「アリサ! 何があったの?!」

「そ、それが……」


 と、ジェイクを見て申し訳なさそうに表情を曇らせる。

 その後、体を震わせながら立ち上がりゆっくりと近づいてくるクリス。


「じぇ、ジェイクくん」

「な、なんだ?」


 只ならぬ雰囲気に、緊張が走る。


「ついさっきわかったんだけど……今作っている特効薬ね」

「ま、まさか偽物だったとか!?」


 不安がるユーカに、クリスは首を横に振る。


「いいえ。本物よ。本物なのだけれど……ここを見て」


 言われるがままに示した文章を読み上げて行く。

 そこに記された内容はこうだ。


「なになに。注意。この特効薬は、体に浸透するまで少なくとも一日はかかる……って、それじゃ特効薬って言わないじゃない!」

「一日……」


 そうなると、今まさに夕方に飲んだとして、元の姿に戻るのは明日の夕方頃。体からマナが抜けるのは……逃れないということだ。

 だから、クリスは落ち込んでいるということか。


「あ、あの!」


 母親を庇おうとするアリサだったが、ジェイクは大丈夫だとアリサを止める。


「クリス。薬の調合法は本物。間違いないんだよな?」

「え、ええ。それは間違いないわ」


 それを聞いて安心した。


「だったら、至急薬の調合に取り掛かって欲しい。体に浸透するのに一日がかかろうとも効くっていう事実が変わらないのなら、多少マナが体から抜けても問題はない」

「そ、そうね! 後悔している暇があったら早く薬を調合させないと! アリサ! その磨り潰しちゃものをこっちに!」

「うん!」


 むしろ、薬が偽物だったらそっちのほうがショックだった。

 そうじゃないとわかれば、責める必要はない。

 後は、完成を待つだけだ。




☆・・・・・




「……ここにもいない、か」


 ジェイク達から離れ、単独行動をしているネロはとある薄暗い裏路地へと訪れていた。

 その理由は、殺し屋仲間であるローグにある。

 彼は仕事でこの街に来ているとだけ言っていた。

 誰を殺す、とは言っていなかったが……やはり気になってしまう。


「俺のことを探しているのか? お嬢さん」

「……さすが、僕の背後を取るなんて」


 いつの間にか、背後に立っていたローグ。

 声をかけられるまで、気配を感じ取ることが出来なかった。


「少し平和ボケでもしたか? 本来のお前だったら、俺の気配を感じ取ることが出来ただろ」


 ローグの言葉に、返す言葉もない。 

 確かに、殺し屋を一時休み冒険者として、人の命を奪うよりも守るほうに徹している。殺し屋としての張り詰めた環境とは違い、冒険者の生活は少し平和だったのかもしれない。


「あはは……これでも、毎日鍛えてはいたんだけど」

「まあいい。それで、俺に何のようだ?」

「うん。ねえ、ローグ。君はこの街に仕事で訪れているって言っていたよね?」

「ああそうだ」

「その仕事って……」


 そこまで言いかけ、言葉が詰まる。

 わかっている。

 わかっているんだ。同じ殺し屋だったのだから。依頼内容は決して他の者には話さないこと。同じ任務に就く者であれば話は別だ。

 しかし、今のネロは殺し屋ではない。

 いくら昔馴染みだとしても、話してくれるかどうか……。


「ふっ」

「え?」


 黙っているとローグは笑う。


「俺の仕事は、とある金持ちの娘を殺すことだ」

「ど、どうして」

「……ネロ。これだけは確認しておく。今のお前は……なんだ?」


 今の自分? ローグの問いにネロは考え……そして答えた。


「僕は……冒険者。仲間と一緒に世界を旅して、色んな人々の生活を、命を護る。冒険者ネロだ」

「そうか。なら、今のお前を貫き通せ。俺は、俺の道を貫き通す。さらば!」


 元気付けてくれた、のだろうか。

 跳び去って行くローグの後ろ姿を見詰め、ネロは決意する。


「そうだね、ローグ。君は、いつもそうだった。僕を元気付けてくれてくれた……道を示してくれた」


 ローグは……エミリアを狙っている。

 いったい誰の依頼なのかはわからない。いや、今は気にしちゃ駄目だ。今は、わかっていることだけを見詰めるんだ。

 今の感じだと、ローグは動き出す。

 エミリアの命を本格的に狙ってくるはずだ。


 だとしたら……自分は護衛として。

 冒険者として、エミリアを護る。

 それが、今の自分。

 冒険者ネロとしての使命だ。


「さっそく、ジェイク達のところに戻らなくちゃ。急に飛び出していったから、心配しているだろうな」


 マジフォンで、先にメールを送りネロは走り出す。

 もうユーカ達が『ディーネの水』を手に入れて戻っているはずだ。いくら、相手がローグだろうと仲間と一緒なら護れる。


(ローグ……冒険者としての僕を君に見せてあげるよ)

さあ、そろそろ第八章も終わりが近づいてきました。

そして、リアルでは寒さも大分なくなってきて春が近づいてきましたね……と言いたいところですが、まだまだ寒い! 日中はまだしも夜になると暖房機の傍から離れられません!


では次回! 風邪にはお気をつけください!!

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