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第六十三話

 ようやくジェイクの体を元に戻すための薬。

 その最後の素材が終わった。

 水精霊の一部である『ディーネの水』だ。精霊には、まだまだ測りしえない力がある。その力が、若返りの薬の特効薬となるというのなら頷ける。


 ディーネの水を持っているであろう水精霊はダンジョン内にある泉にいる。

 ユーカとメアリスは以前クリスの曾お婆さんであるアリッサ=バートリシアがダンジョンに潜った際の地図を頼りに魔物と戦いつつも進んでいた。


 その途中、ユーカは少し不安になりぼそっと呟く。


「うーん。クリスさんの曾お婆さんってことは少なくても二百年ぐらい前なんだよね……大丈夫かな?」

「大丈夫よ。精霊に寿命はないわ。死があるとしたらマナが枯渇するとか、そういうことがない限り精霊はずっと行き続ける。自然そのものだからね」

「な、なるほど。じゃあ、安心だね。えっと、次はあの角を右だね。その後真っ直ぐ進めば泉に通じる仕掛け扉があるみたい」


 ダンジョンに潜って三十分の時が経った。

 何百年も前からあるダンジョンというだけあって、魔物のレベルもかなりのもの。苦戦を強いられ、思っていたより時間がかかってしまった。


「それで、水精霊に会ったら、どう交渉するつもり?」

「え?」


 突然のメアリスの問いにユーカは首を傾げる。

 そんなユーカを見て、メアリスは眉を顰めた。


「もしかして、何も考えていなかったの?」

「せ、精一杯頼めば何とかなるよ! ……たぶん」


 相手は精霊。

 更に、自分の体の一部を与えるのだ。そう簡単には、交渉は成功しないだろう。ただただ頼んだだけで、精霊が応えてくれるかどうか……。

 精霊とどう交渉するか思考しながら進んでいると目的地に到着。

 そこは、何の変哲のない壁。

 だが、クリスが教えてくれた通りだとここは仕掛け扉となっており、とあることをすると開くと言う。


「兎に角! やるだけのことはやる! ジェイクさんのためだもん!」

「そうね。話の通りだと明日には彼の体からマナが徐々に抜けていくことになるわ。微量とはいえ、体からマナが抜けると生命の危機に陥っていく……」

「なんとしても、今日中に素材を手に入れて、薬を作らないと! えっと、えっと……クリスさんが言うにはここを」


 苔が張り付いている壁を調べ、妙なくぼみを発見。

 それを押すと……ブロックひとつひとつが消えていき道が出来た。


「よし! この先に精霊がいるんだね。早くいかなくちゃ!」


 走るユーカ。

 メアリスも遅れず後を追いかけると、水が流れる音が耳に届いてきた。


「……」

「どうしたの?」


 ユーカに追いつくと呆然と立ち尽くしている。

 どうしたのかと視線の先を見ると、水色のワンピースの少女が沈んだ表情で泉を見詰めていた。


「あれが、精霊なの? メアリス」

「どうかしら……ねえ! あなた!」

「え? あぁ、お客さんね。久しぶりね……何百年ぶりかな。でも、こんな寂れた場所に何の用? あ、わたしの水が欲しいのね? そうじゃなきゃ、こんなところに来るわけないものね……あたし、水を出す以外何も出来ない駄目駄目精霊だもの……ふふ、ふふふ」


 泉の水を人差し指で渦巻きを描きながら、ぶつぶつと自分を下げる言葉を呟いている。


「なんだかすごく自分を下げているんだけど……」

「私も、精霊にはそこまで会ったことないけど。あれは、かなり特別かもしれないわね」


 確かに、と頷きあまり刺激しないようにユーカはそっと話しかける。


「あ、あのー。この泉に住んでいる水精霊さんですか?」

「そうよ。何百年も前からこの泉から離れられない哀れな水精霊よ。それがなにか?」


 口を開けば、自分を卑下していく水精霊。

 これはあまり下手なことは言えない。


「あの私達。あなたのことを聞いて、ここまで来たんです」

「どうせ、私に! じゃなくて私の一部である水が欲しいんでしょ知ってる。ほら、早く言っちゃいなさいよ。あーあ、何百年もここでただただ外の様子をこうして泉の中から眺めるばかりの生活……いつになったら終わるのかしらね……」

「そんなに言うなら、抜け出せばいいじゃない。こんな暗いところに閉じ篭っていたら水が濁るわよ」

「ちょ、メアリス! あまり刺激しちゃだめだよ!?」


 もっともなことだが、今彼女を刺激しては交渉もうまくいかない。このまま交渉をしていれば、投げやりにだがディーネの水は確保できるはずなのに。


「でもね。精霊というのものあまり自由には動けないのよ。特にわたしのような力があり、意思を持っている精霊は尚更。わかる? あの辺りの水が清らかなのはわたしのおかげなのよ。他に、わたし以外の水精霊がいないからね。わたしが自由に動けば水のマナのバランスが崩れてしまうの。だからわたしは」


 世界の自然バランスは、精霊達が護っている。

 高い知能と一般人にも姿が見えるほどの力を持った大精霊が、精霊や微精霊と共に属性によって自然バランスを……これは太古より伝わっている常識。

 だからこそ、彼女の言っていることは間違ってはいない。

 しかし、メアリスはそんな彼女を見てはあっとため息を吐く。


「……もしかして、あなた。ただ外が怖いだけじゃない?」

「さ、さすがにそれはないよメアリス。だって、自分から外に出たいって言っているんだよ?」

「でも、見なさい。あれ」

「え?」


 メアリスに言われ、水精霊を見ると明らかに動揺している素振りを見せている。

 視線を逸らし、水をかき混ぜる速度が上がっていた。


「そそそ、そんなことないわ。だって、わたしは精霊。自然界が生んだ存在……そ、外が怖いだなんてあ、ありえないし……」

「そもそも、なんであなたこんな薄暗いダンジョンにいるの?」

「そ、それは……ほ、ほら。精霊って人間達と違って誰かが生んでくれるわけじゃないでしょ? だから、たまたま……そう、たまたまダンジョン内に生まれちゃったのよ」


 上ずった声でもっともらしい言葉を述べいくがメアリスは目を光らせ言葉の剣を振り下ろした。


「違うわね。あなたは、元々ダンジョンの外にいた。その事実を私は聞いているわ。あなたは、自らこのダンジョン内に入ったということもね」

「ぎくぅ!?」

「最初から知ってたの、メアリス!?」

「ええ。最初聞いた時おかしいと思ったのよ。精霊がダンジョンにいるなんてね」


 だからこそ、クリスに聞いた。

 そうすると、クリスもそれは気になっていたらしく。出発する前にもっと昔の本が並べられている本棚を調べたところ……水精霊のことについて記されているものを発見。

 そこには、昔は森の中にある大きな泉に水精霊は住んでいた。

 だが、どういうきっかけなのかいきなりダンジョン内に引っ越してしまったと。


「あ、あの。どうしてダンジョンの中に? 何か事情があるんですよね?」

「……事情、事情……ふふ、ふふふ」


 膝を抱えながら不気味に笑う。

 しばらくすると、顔を上げ大粒の涙を流し大声を上げる。


「だって、だってぇ!! あいつらわたしの言うこと全然聞かないんだもん!! わたし、大精霊なのにぃ……!! むしろ邪魔だっていうし……ちょっと調整の仕方が下手なだけでぇ……!! うわあああん!!!」」


 さすがのメアリスも、突然子供のように泣く水精霊に動揺してしまう。

 これでは、精霊ではなくただの泣き虫な子供だ。

 ユーカは慌てて彼女の元へと近づき泣き止むように宥めるが、抱えていたものが一気に溢れ出たかのように泣き止む様子がなかった。

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