第十四話
大樹の根を椅子代わりにし、ジェイク達は作戦会議をしている。
少しは打ち解けられたのだろうか。
ユーカが隣にいてもエリーナのほうへと逃げなくなったネム。
「なるほど。つまり、ネムは母親とこことは違う森でひっそりと暮らしていたが。その三人組が襲ってきて、ネムだけが逃げ延びた」
「そうよ。ネムと一緒に来た微精霊達の情報だから信用できるわ」
今も尚、ネムの傍でふよふよと浮いている微精霊。
一角獣は生き物の中でも、霊的な能力が非常に高い種類に属しておりエルフ族同様精霊との交流も積極的であり、仲がいいのだ。
「それで? その母親は……どうなったのかはわからないの?」
メアリスがクチワ鳥への説明を終えて話し合いに参加している。大樹の下ということで太陽の日差しも当たらずに済むため今は傘を閉じている。
問いかけたのはジェイクもユーカも気になっていたこと。話によると、三人組は一角獣の角が狙いだった。そして、ネムの母親であるハルナは子供を逃がすために反抗することなく捕まったようだ。
もし、その三人組が角だけが狙いであるのなら……それとも、角を取った後にも。
「それは、わからない。だけど、話を聞く限り相当ゲスイ連中らしいわ」
「一角獣にとって角はとても大事なもの。本来だったら、正しい手順を踏めば一角獣は角を分け与えてくれるわ。ちゃんと新しいのが生えてくるから。でも、無理やり刈り取った場合は……」
「ば、場合は?」
意味深な雰囲気を漂わせ語るメアリスにユーカはごくりと唾を飲み込み次の言葉を待つ。
「もしかしたら、もう二度と角が生えてこなくなるわ。そうなれば、霊的な力は失われていき、ただの人間となって生きていくことになる。ただ、そのほうが狙われなくなるから幸せって考え方もあるのだけれどね」
一角獣は、その象徴である一角に力を蓄えており一角があるからこそ力が発揮できる。それがなくなりもう二度と生えてこなくなれば、力は弱まっていき獣人から人間になってしまう恐れがある。
ただ、メアリスも言っているようにそうなったほうが幸せという考え方もあるにはあるのだが……。
「で、でも! そうなったらネムちゃんはどうなるの? お母さんが一角獣の獣人じゃなくなったら……」
ぎゅっとユーカはネムを抱き寄せる。
そう、もしハルナが獣人でなくなったとしても、まだ一角獣の獣人であるネムは狙われる。だからといってネムもハルナのように無理やり角を取るというのも違う。
可哀想な話ではあるが、獣人の中でも一角獣の種はとても貴重であり力がある。二人のようにひっそりと暮らしている者も居れば、獣人族の里で共存して暮らしている者もいる。
だが、獣人の中でも圧倒的に数が少ないのだ。
その理由は、子を産もうとしても中々生まれないという点から数が増えずにいる。生まれたのなら、奇跡! と言われるほどに。
だからこそ、ネムはその奇跡の子と言っても良いほどの価値があるのだ。
「……兎に角、俺がネム達が暮らしていたっていう森に様子を見に行く。もし、ハルナが無事であるならそのまま救出してくる」
「一人で大丈夫なの?」
一人で三人組に挑むことに不安と心配の意味を込めてエリーナが問いかける。
「大丈夫だ。こう見えて、俺はレベル100なんだ。多少数が多くても、なんとかしてみせる」
「れ、レベル100!? ……そういえば、ジェイクって名前聞いたことがある。まさか、フルネームって」
「ジェイク=オルフィスさんですよ! あの有名な!」
また自分のようにユーカがジェイクのことを自慢するように発する。それを聞いたエリーナはやっぱりそうなんだ……と驚きつつも先ほどの表情から一変し、安心しきった表情になった。
「だったら、安心ね。あのジェイク=オルフィスが助太刀してくれるなら」
「ふふ。本当に有名ね、あなたって」
「ははは……」
自分としてはいつの間にか有名人になっていたことが今でもずっと驚きの事実だと思っているジェイク。昔の自分はただひたすらにレベルを上げていたどこにでもいる人間だったというのに。
照れくさくなり、ジェイクは勢い良く立ち上がる。
さっそく、偵察に向かうらしい。
「それじゃ、ちょっと行って―――いや、待て」
「ど、どうしたんですか?」
ジェイクは感じ取った。
こちらに近づいてくる複数の気配を。
「え? それは本当!?」
「ふむ」
なにやら微精霊からの報告を受け、エリーナは驚いている。すぐに、ネムを抱き寄せとある場所を睨みつけた。
そこは、ジェイクも睨んでいる場所。
ユーカは二人の反応を見て察したようでマジフォンを手に取った。
「……どうやら、あっちからお出ましのようね」
と、メアリスが座ったままぼそっと呟く。
「いやぁ、やっと見つけたぜ。随分と探したんだぞ、ネぇムちゃぁん」
森の中から姿を現したのは、剣士風の男と魔法使い風の男に槍使い風の男。ちらっとネムを見ると相当怖がっている様子。
つまり、ネム達を狙った三人組。
「まったく。こんなところまで逃げるとは。さすがは小さいと言っても獣人だな」
ふうっと疲れた様子で頭を抱える槍使いの男。
「それに、見知らぬ連中が回りにいるようですが……」
魔法使いの男が、帽子のズレを直しながらジェイク達を観察してくる。
「んなの関係ねぇって。邪魔する奴はまとめて始末すればいいだけだろうが」
鞘から剣を抜き、殺気を隠すことなく放出する剣士の男。その言葉に同意し、他の二人も武器を構える。
「ど、どうしてこんなひどいことができるの!」
「あぁん?」
すると、ユーカがジェイクの隣に並び三人組に叫びだす。ジェイクは、出会ってからというものユーカが怒ったところは初めて見るため黙り込んでしまう。
いや、ユーカの怒りはジェイクにだって理解できる。
だからこそ、今吐き出そうとしている言葉を遮るわけにはいかなかった。
「ただ親子仲良く静かに暮らしていたかっただけなのに! そうまでしてお金が欲しかったの!?」
「なに言ってんだ、お前。……冒険者なら当たり前のことだろ?」
「あなた達だって、魔物を倒して、落とした素材を売って金にしているのではないんですか?」
「それと何が違うって言うんだ?」
三人組が言っていることには、ジェイクも全てを否定することはできない。確かに、冒険者は魔物という生き物から素材を倒して手に入れ、それを金に換えている。
生きるため、と言えば目の前の三人組もそうなのかもしれない。
「まあ、否定はできないわね」
「め、メアリス!!」
「あら、ごめんなさい」
どっちの味方なの!? という視線にメアリスは口を閉じる。
「言いたいことはそれだけか? だったら、さっさとその獣人をこっちに」
「お、お母さん!」
「あぁん?」
張り詰めた空間の中に響き渡る幼き声。
ネムがエリーナから離れて、怖がりながらも前に出ていた。
「お母さんは……お母さんはどこ……!!」
「お母さん。お母さんねぇ……なあ、どうしたっけ?」
とぼけた様子で剣士の男が他の仲間に問いかける。
他の二人も、わざとらしく考える素振りを見せて、まず切り出したのは魔法使いの男だった。
「あぁ、そういえば」
剣士の腰元にある袋を指差す。
すると、剣士の男がそうだった! と思い出したように袋からあるものを取り出した。それは、ネムにも生えている一角中の角。
ネムのはまだ成長途中であるはあるが、剣士の男が取り出した角は……立派に成長したものだった。
「あぁ……あぁッ……!」
ネムは震えた声を発し、角を見詰める。
「いやぁ、立派な角だろ? これは、かなりの値打ちで売れるぜぇ?」
「あの女すげぇ無抵抗だったよなぁ」
「獣人だから、抵抗されるかとびくびくしていましたが。簡単な作業でしたね」
「だなぁ? ほーら、ネムちゃぁん? お母さんの大事な角ですよぉ!!」
ネムに見せびらかすように、剣士の男が舌で角を舐めようとする。
もう我慢の限界。
ユーカとエリーナが三人組に飛び掛ろうとした―――刹那。
「ふぎゃっ!?」
「なっ!?」
「い、いつの間に……!?」
音もなく。
まるで瞬間移動でもしたのではと思うほどの速度で、剣士の男の首をジェイクが鷲掴みにした。片腕で人一人を盛り上げているその様を見て、ユーカとエリーナは立ち止まってしまっている。
「て、てめぇ……! なにしやが―――ぐっ!?」
喋ろうとするが、異質な苦しみ方をする剣士の男。
仲間の二人は、ハッと我に返り、遅れながらもジェイクへと飛び掛ろうとする。
だが。
「な、なんじゃこりゃぁ!」
「く、黒い腕が絡みついて……!」
「ふふ。余計なお世話だったかしら?」
メアリスが操る闇の手が二人を拘束した。
これにも、ユーカとエリーナはもちろんのことネムも驚いている。自分達と三人組の距離は、二十メートルはある。
それをジェイクは音もなく一瞬のうちに近づき、メアリスは二人を簡単に拘束してみせた。
「いや、助かった。……おい、これから二つほど質問をする。嘘偽りなく答えろ」
「だ、誰がそんな……あぁー!?」
剣士の男が反抗する言葉を発するとまた異常な苦しみ方をする。いったいなにが……と、ユーカの目に見えたのは、ジェイクの髪の毛の色。
綺麗な金髪だったはずのに、今では毛先が赤く染まっているではないか。
「まず、ネムの母親は無事か否か、だ」
「……ぶ、無事、だ」
どこか元気のない声でジェイクの質問に答える剣士の男。腕や足を糸が切れた人形のようにぷらーんとしている。
「そうか。じゃあ、最後だ。その人は今、どこにいる?」
「い、家だよ。そ、その親子が……住んでいた……ロープで縛り、上げている」
「……わかった」
質問が終わると、ジェイクはパッと首から手を離し男を解放する。地面に落ちた男は、そのまま草の絨毯の上に仰向けに倒れ、起き上がろうとするが中々力が入らないようだ。
「メアリス。今から俺は、ハルナを迎えに行く。それまでこいつらを縛っておいてくれ」
「はーい。お任せー」
先ほどまでの張り詰めた空気はなくなり、穏やかな表情でジェイクは涙を流しているネムの下へと近づく。
「ネム。お願いがある。俺をネム達の家まで案内してくれないか?」
「……お母さん、無事なの?」
まだ不安がっているネムに、ジェイクは涙を払い抱きかかえた。
「ああ。だから、今すぐお母さんに会いに行こう。きっと、お母さんもネムに会いたがっている」
「……うん! ここから西の方向にある森だよ!」
「了解。全力で走るから、ちょっと我慢してくれよ」
★・・・・・
「本当にありがとうございます。娘を守ってくれて!」
「いや。あなたも無事でよかった」
しばらき時が経ち、ネムの母親ハルナを助け出したジェイクは、ユーカ達が待つ大樹の前にやってきていた。
角はなくなったもの、命に別状はないようだ。
「あーちなみに、この三人組だけど。あなたが居なくなった後、取り調べしたら色々と吐いたわよ。どうやら、角以外にも宝石とかを盗んだり、警備依頼を途中で投げ出して金だけを得たとか」
「この森を抜けたらすぐ街が見えるそうですから、私達が責任を持って連行しましょう!」
「だな」
ちょっとした寄り道だったが、良いことをして気分が良い。
それに……あの力。
ジェイクは、笑顔が溢れる空間の中で一人拳を握り締め、自分が使った力のことを思い出す。だが、すぐにネムがズボンをくいくい引っ張ってくる。
どうしたんだ? としゃがみ込むと角を擦りつけてきた。
「お兄ちゃん、かっこよかったよ。お母さんを助けてくれて、ありがとう!」
「さっきのは?」
「一角獣は、気に入った相手に角をこすり付けることで感謝の意を表すんです」
ハルナの説明に、へぇっと頷くユーカに対し、メアリスがそっと耳元でこう呟く。
「しかも、求愛の意も角で表すそうよ。もしかするとネムは」
「ま、ままままさかそんな……! いくらなんでも、まだネムちゃんは」
「どうかしらねぇ。小さくても女は女よ。それにほら? 小さい子ってよくこう言うでしょ? 大きくなったら、お嫁さんになるー的な」
「ででででも……!ジェイクさんは八十を超えているわけですし! 歳が離れすぎているっていうか!」
「え? お兄ちゃんって……おじいちゃんだったの?」
思わず大声で叫んでしまい、ネムにも聞こえてしまった。
ジェイクはなにやってんだ……と思いつつも、ネムに軽い説明をする。
「こう見えて、な。まあ、お兄ちゃんでもおじいちゃんでもどっちでもいいぞ」
「えっと、じゃあ……お兄ちゃんって呼ぶね」
「おう、そうか。それで、二人はこれからどうするつもりなんだ?」
安全のため皆が居る大樹の傍まで連れてきたが。
これからまたあの家に戻るというのならそこまで送っていこうと思っている。
「それなんですが。ネムがエリーナさんと一緒が良いと。だから、私達はここでエリーナさんと一緒に暮らそうと思っています」
「私も大賛成よ。森の皆も喜ぶだろうからね」
「皆一緒! これから楽しくなる!」
それを聞いて、ジェイクは安心した表情で立ち上がる。
「あう、あう……」
「ユーカ。そろそろ落ち着けって。出発するぞ?」
まだ動揺し続けているユーカ。
メアリスはそれを見て、くすくすと笑っている。
「三人とも! 本当にありがとう! またここを通ることになったら絶対会いに来てよね」
「その時は、私が歓迎のお料理を作りますから」
「お兄ちゃん! お姉ちゃん達! またね!!」
「三人も! 元気で!!」
「お、お元気でー!!」
エリーナ達に見送られながら、ジェイク、ユーカは別れの言葉を叫び。メアリスは無言で手を振り大樹から去っていく。
ちなみに、あの三人組は一度ロープで縛った後、メアリスが闇の手で運ぶことになった。
「さあ、次の街に行って、こいつらを置いてきたらレベル上げをするぞ、ユーカ」
「ですね! 正直、今回の私は全然活躍していませんでしたから……。だから、もっともっとレベルを上げて強くなろうと思います!」
何もできなかった事を悔やむが、すぐに前向きな方向へと進んでいくユーカ。その瞳には、燃えるような闘志が宿っていた。
リメイク前はすごくシリアスでしたが、今回はシリアス少なめで……書ければいいなぁっと思っています。




