第六十一話
「すみません! すみません!! 私がしっかり護衛をしていれば!!」
「そんなに謝るなって……ほら、こうして無事に帰ってきたんだから。それに、あんまり大きな声は」
ジェイクにそう言われ、ハッと周りを見渡すユーカ。
現在、ジェイク達は病院の中にいる。
エリオの治療をするために、やってきたのだがそこへ連絡を受けたユーカとメアリス、ネロはやってきた。
怪我を負っているジェイクを見つけるとすぐに頭を下げたのだ。
ユーカも、姿が見えないエミリアをずっと探していたと言う。
護衛として、護衛対象を見失うとは……と、深く深く反省している。
しかし、ここは病院。
周りには、他にも怪我を負っている人々で溢れている。気づけば、ユーカに視線を向けている人達ばかり。
「お、お騒がせしました……」
頬を赤く染めながら頭を下げ、声を小さくするユーカ。
「それで、エリオは?」
と、ネロの問いにジェイクはとある部屋を見詰め説明する。
「今は、解毒をしてベッドだ。エミリアとアリサが付き添っている」
「まさか、エリオくんとアリサちゃんを狙うなんて……」
「でも、狙った奴らは金目当てのチンピラだったわけね」
「チンピラって……」
メアリスの発言に、苦笑するユーカを見ながらジェイクは考える。
自分達がエミリアの護衛として任に就いたのは命を護るため。
だが、今回エミリアを狙っていた奴らはどこにでもいる金目当ての連中だった。
「あなたも、リーダーを取り逃がすなんてらしくないわね」
「あははは、すまん」
「なーんて、嘘よ。ま、そのうち捕まるでしょ。それよりも、ジェイク。あなたの体を元に戻すための薬だけど」
難しそうな顔をする。
それを見てジェイクは、察した。まだ素材が集まっていないようだ。
「気にするな。この体も結構役に立っているんだ。今回も、子供だったから奴らを騙せたわけだし」
「でも、どうしようか? 最後の素材、街の人達にも聞いて回ったけど誰もわからないって言っていたし……」
「最後の素材は、水だったな」
「それも、ただの水じゃないわ。最初の文字が消えかかっていてよくわからないのよ」
メアリスから薬の素材が書かれているメモを受け取り今一度じっくりと確認する。
このメモは相当古いもののようだ。
かなり汚れており、黄ばんでいる。
「もしかすると、最後の素材は相当古いものなのかもしれないな。だから、街の人達も知らないのかもしれないな」
だからこそ、あの商人もメモだけで頭には素材の記憶がなかったのだろう。
そうなると、素材集めは困難な道のりになりそうだ。
「ど、どうしましょう。このままジェイクさんが戻らなかったら……」
「あ、あの……それなら、私のお母さんに聞いてみたら、いいと思います」
「どういうことだ?」
部屋から出てきたエミリアとアリサ。
ジェイクの問いに、隣にいたエミリアが答えてくれる。
「この子の母親は薬師なのよ。それも、素材の知識はかなりのもので、相当古いものも頭に入っているの」
「なるほど、薬師か」
専門家ならば、何か知っているかもしれない。
それにしても、アリサの母親が薬師だったとは。
なんという偶然だ。
「それなら、可能性がありそうだね。でも、今日はもう遅いし。聞くのは明日にしようよ」
外を見れば、もう夕日は沈んでおり綺麗な月が夜空に浮かんでいる。
ジェイク達が捕まった時には、夕日が沈みかけていた。
捕まえた男達を警備兵に突き出し、エリオの治療を待っていたことにより完全に日が沈んでしまったのだ。
「そうだな。エミリア、帰るぞ」
「待って。あたしは、エリオについていたいんだけど」
「心配なのはわかるけど、アレクセイさんやメイドさん達も心配しているよ? 早く帰って安心させてあげないと」
「でも……あたしのせいで、エリオがこんな目に」
「ううん。違うよ、エミリアちゃん。エリオくんは私のせいで」
今回のことで、アレクセイも依頼をする冒険者をかなり厳選したようだ。その冒険者がエリオの新しい護衛として付き添うことになっている。
だから、もうエリオが襲われることはない。
そのことは二人も知っている。
ジェイクは、二人の肩に手を置き優しく言葉をかけた。
「帰ろう。二人も、相当疲労しているだろ? しっかり休んで回復しておかないと。エリオが起きた時に、疲労した姿を見たらエリオが心配するぞ」
「……わかったわ」
「はい……わかりました」
「エリオ。またね」
ベッドで眠っているエリオに声をかけ、エミリアとアリサはジェイク達と共に自宅へと帰っていった。
★・・・・・
翌日。
エミリアと共にアリサの自宅へと訪れたジェイク達。
アリサの母親は、現在は自宅で依頼で頼まれた薬を作っているようだ。
「アリサ! 来たわよ!!」
「はーい」
「……ここが家?」
ユーカはアリサの家を見て、開いた口が塞がらない状態になっていた。その理由は、屋根から大きな樹木が伸びているからだ。
こんな家は今まで見たことがない。
エルフの家は、木の枝の上に建てられてあったり木の根元に建てられてあったりと木が家から生えていたことなどなかった。
「お待たせしました。入ってください、お母さんが待っています」
「へえ……なかなか雰囲気のある家ね」
中は、ビンに詰められた薬が棚に多く並べられていた。それに加え、色んな植物が栽培されている。
だが、あの樹木は見えない。
もっと置くだろうか?
「こっちです。お母さんは、今仕事場で薬を作っている最中なんです」
「仕事中に行って大丈夫なのかな?」
「大丈夫です。お母さん、皆さんと会うの楽しみにしていましたから」
アリサに案内され、木のドアを潜る。
すると、外に出た。
どうやら、この家は相当広く、あの樹木を中心に囲むように建てられているらしい。
「あそこがお母さんの仕事場です」
向こう側に見えるドア。
その上には仕事場と書かれた表札が立て付けられていた。
「相変わらず不思議なところよね、ここ」
「うん。あの樹木のおかげなの。あの樹木が色んな植物達を生んでいるだってお母さんが」
確かに不思議な場所だ。
あの樹木を中心に色んな植物が生えている。
ここだけが、街の中だとは思えないほど自然が豊かだ。その証拠に、色んな小動物達が集まっている。森が近いことも関係しているのだろうが。
本来なら、野生の動物達は人は多く集まるところにはあまり寄らない。
それがこれだけいるんだ。
あの樹木の力なのだろう。
「あれって、どういう樹木なの?」
「えっと、私にもよくはわからないんだけど。お婆ちゃんが若い頃からあったんだって。詳しい詳細は、調べていないから」
「アリサのお婆ちゃんはとても樹木を大切にしていたからね」
「うん。調査に来た人達を追い返しちゃうほどにね」
移動しながら、話していると早くも到着。
広いと言っても広大というわけではない。
動物達に見詰められながらも、仕事場の前に到着したジェイク達はじっとそこで待つことに。
「お母さん。ジェイクさん達を連れてきたよ!」
「はいはーい。入ってもいいよー!」
「それじゃ、中に」
アリサに招かれ入った部屋は……最初に入った部屋以上に薬が多く棚に並べられていた。
そして奥には、白衣を纏った一人の女性が椅子に座っている。
「お待ちしていました。私が、アリサの母親で薬師のマリアナよ。薬やその素材に関してなら何でも聞いてね」