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第五十九話

「にしても、こんな回りくどいことしなくてもいいんじゃねぇのか?」


 縄で縛ったエリオとアリサの傍らで一人の男が鼻を鳴らし言う。

 それをバンダナをしているリーダーらしき男が答えた。


「回りくどいからいいんだよ。確実に、作戦を成功させるためにな。念入りに……」

「なるほどな……いやぁ、リーダーの作戦通り、冒険者として護衛をやっていたおかげでこいつをうまく捕らえる事が出来たぜ」


 未だに気を失っているエリオを見下ろし、不気味に笑う。

 そのまま視線を横で涙目になっているエミリアを見る。


「おまけまでついてきたが、こいつはどうするんだ?」

「そうだなぁ……そういえば、こいつの母親は薬師でアレクセイと協力関係にあったな」

「んー!? んんー!?」

「なんだ? 母親には手を出さないでって言ってんのかね」

「こいつだよ、こいつ。結構美人だな」


 いくつもの写真があり、その中の一枚を手に取ったリーダー。


「ガキのほうも素材はいい。作戦がうまくいったら母親合わせてどっかに売り飛ばすか?」

「それもいいな。んで? あいつらは作戦通りやってるんだろうな?」

「ああ。ついさっき、脅迫状をおいてきたってよ。うまくいけば、餌がのこのことやってくると思うぜ」


 楽しみだな! と男達は大笑いをする。

 そんな男達を見て、アリサはただただ怯えるばかり。




★・・・・・




 特訓が終わり、掻いた汗を流したエミリアとユーカ。

 涼しい風を外で浴び深呼吸。


「良い汗掻いたわね」

「そうだねぇ……魔物と戦うのとはまた違って良い経験になったよ」

「あたしも魔物ともっと戦って経験を積みたいんだけど……学園を卒業するまで旅に出られないのよね」


 羨ましそうにユーカを見詰める。

 しかし、慌ててそれをフォローするユーカ。


「で、でもさ。ちゃんと知識と経験を身につけたほうが冒険に役立つと思うよ! ほら、食料がなくなったときに、食べられる薬草とかそういうのをすぐにわかるでしょ?」

「それもそうだけど……」


 そうだよ! と言いながら空を見上げ語りを続ける。


「私なんて、そんな知識を身につけずに旅に出ちゃったからさ……ジェイクさんがいなかったらどうなっていたことか」

「ジェイク=オルフィスと……いいなぁ」

「え?」

「なんでもないわ。それにしても、エリオ。遅いわね……こんなに遅いなんて今までなかったのに」


 もう夕日が沈む。

 いつもなら、夕日が沈む前には帰ってきていた。遅くなる時は必ず連絡を入れてくる。それが、今回に限っては何の連絡もない。

 姉として、心配になってきたエミリアは走り出す。


「エミリア! どこ行くの!!」

「ちょっとミアのところまで! あんたはそこで待ってて!」


 ユーカから離れ、ミアのところへと向かうエミリア。

 現在は、おそらく調理室で夕食の準備をしている頃だ。


「エミリア様!」


 もう少しで調理室に到着するところで、ミアのほうからやってきた。その手には何やら手紙のようなものを持っている。


「丁度よかったです。先ほど、届いたばかりのお手紙です。宛先は、いつもお世話になっているケーキ屋さんからですね」

「あそこから?」


 昔から、学園の帰りによく友達と立ち寄っているケーキ屋。

 新作が完成する度に手紙で知らせが来るのだが。


「今度は、どんなケーキなんでしょうね。私はこれからお夕食の準備がありますので、失礼致します」

「ええ。ご苦労様……」


 ミアから手紙を受け取り、立ち去っていく姿を見送ったエミリアは手紙をその場で確認する。

 どうもおかしい。

 確かに、早くても一ヶ月で新作を作ったことはあったが……まだ新作が発売してから、一週間ほどしか経っていない。


「……これって」


 その手紙の内容にエミリアの表情は強張る。

 手紙を握り潰し、自室へと向かって行く。

 ドアを勢い良く開け、壁にかけてある剣を装着。誰にも見つからないように、隠れながら移動し裏門から家を出て行こうとする。


「よし」


 誰もいないことを確認し、走り出す。

 走って、走って。人にぶつかっても走って行く。

 荒れた呼吸を整え、すでに誰もいなくなった公園へと辿り着いた。


「まだ来ていないみたいね」


 公園にあった時計を確認しつつ呼吸を整える。

 すると。


「エミリア」

「……さすがは、伝説の冒険者ね。全然気づかなかったわ」


 背後からジェイクが声をかけてきた。

 誰も追ってきていないと気配を探りながらやってきたつもりだったのに。


「家の周りの警備をしていたところに、お前が現れたんだ。ひどく焦っていたようだが……何があった?」

「……なんでもないわ。ただ、学園の宿題のために素材を採りに行くだけよ」


 冒険者育成の学園の宿題には、素材を自分で揃え薬を作ることもあるとは聞いていた。もっともなことを平常心を保ちながら言っているが、ジェイクの目は誤魔化せない。


「今日出された宿題は、素材採取の必要はないはずだ。それは、一緒に教室にいた俺とユーカが知っている」


 護衛として、一緒の教室にいたジェイクは知っている。今日出された宿題は、ただの勉学系だと。それに、素材採りならばこそこそと裏門から出る必要はないはずだ。


「それに、素材を採りに行くんじゃなかったのか? ここは公園だぞ」

「友達と待ち合わせをしているのよ。一人じゃ、大変だから」

「……エリオが関係しているのか?」


 ジェイクの言葉に、目を見開くエミリア。

 その反応を見て、やっぱりなとジェイクは呟いた。


「いったい何があったんだ?」

「……あんたなら、なんとか出来るわよね」


 そう言ってくしゃくしゃになった手紙をジェイクに渡す。


「手紙?」


 手紙を受け取ったジェイクはざっと内容に目を通すとなるほどと頷く。


「それで一人で行こうとしたのか」

「そうよ……じゃないと、エリオとアリサが危ないの!」


 手紙の内容はこうだ。

 弟と友達は預かった。返して欲しく場、誰にも気づかれず一人で指定した場所まで来い。


「だから、誰にも言わずに」

「あんたはどうしてエリオが関係しているって思ったの?」

「エリオの帰りが遅いっていうのはお前も気づいていただろ?」

「ええ」

「それだけなら、ただ寄り道か学園の用事が長引いているだけだと思うところだが……俺はそうは思っていない。だから、メアリスとネロが帰ってきたら探しに行こうとしたところにお前が裏門から出て行くのを見かけたんだ」


 と、話し終わった刹那。

 誰かが近づいてくる気配を感じた。


「おやおや? エミリアお嬢様。一人で来いって言いませんでしたっけ?」

「あ、あんたは?」


 現れたのは、二人組みの男。

 どちらもバンダナをつけており、腰には長剣を装備している。一人は、細身でもう一人は太っている。


「あんたの大事な弟を預からせて貰っている組織だよ。それで? 手紙には一人で来いって言ったはずだよな?」

「だがよ、ガキだぜ?」


 男の言葉を聞いたジェイクは、目を光らせる。

 そしてエミリアの前に出た。


「あ、あのあなた達は何者ですか? 俺は、エミリアの友達で偶然見かけて話しかけたんですが……」

「え、ちょっと……!」


 突然のジェイクの変化に戸惑うエミリア。


「そうか、そうか友達ね。だったら、こいつも捕らえてやろうぜ」

「いいのか?」

「ああ。売り飛ばすガキは多いほど多く金が入るからな」

「う、売り飛ばす? ど、どういうことですか!?」


 叫ぶジェイク。

 エミリアは未だにどういうつもりなのかわからず、戸惑うばかり。男達は、にやにやと笑い一歩また一歩と近づいてくる。


「おじさん達はね。君達のような子供をね、売り飛ばしたりしてお金儲けをしているわるーい人達なんだ」

「だからね……大人しく捕まって貰おうか?」

「あぐっ!?」

「なっ!?」


 殴られ地面に伏せるジェイク。

 どうして避けないの? 避けられない攻撃じゃなかったはずなのに。


「おい、あんまり傷をつけるなよ? 商品にならなくなるぞ」

「ちょっとぐらいいいだろ? 最近、賭けに負けてイライラしていてよ……それに、商品にならなかったらそのまま捨てちまえばいいだけだ」

「この……!」


 反抗の意思を見せるエミリアだったが、ジェイクがそれを制す。

 口から流れる血を拭い、再度エミリアの前に立った。


「お? なんだなんだ。お嬢様を守る騎士のつもりか?」

「……」

「とりあえず、もう二、三発は殴らせて貰う、ぜ!!」

「あぐっ! かはっ!?」


 腹に、頬にと男は殴り少しすっきりした表情で縄を取り出す。


「ふう……おい、お前も抵抗するなよ? 弟とお友達のためにもな」

「……わかったわ」


 そのまま、ジェイクとエミリアは縄で縛られ近くにあった倉庫へと連れて行かれる。

 木箱を退けると、あったのは地下に下りるための階段。

 二人は、男達に連れられ無言のまま階段を下りていく。


(……作戦は成功したみたいだな)


 暗闇に身を投じる中、ジェイクは男達に気づかれないように小さく笑った。

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