第五十八話
学園から帰宅後、エミリアは制服から特訓用の服に着替え特訓場でユーカと対峙している。
エミリアは、剣士。
ユーカは、魔機使いで若干相性的にはユーカが不利か? いや、魔機使いは詠唱を破棄し前衛職と渡り合えるぐらいの強さを持っている。
尚且つ、レベル的にもユーカのほうが上だ。
しかし、経験の差はエミリアのほうが上からしれない。
エミリアは小さい頃から冒険者を目指し特訓を重ね、冒険者育成の学園に通っている。対して、ユーカは十五歳まで普通の学校に通っており、冒険者としての経験は現在の旅で積み重ねているのだ。
冒険者育成学園は、街周辺の魔物やダンジョンなどに赴き実践的な訓練もしている。
エミリアから聞いた話では、魔物との実践訓練は第三学年からとのこと。
対人戦は、一学年からずっと……さあ、どうなる?
「本気で良いんだよね?」
「もちろんよ。本気で来ないと、怪我するわよ」
ジェイクと戦った時のようにその場で軽いステップを踏み準備は万端のようだ。
「よし。じゃあ……いくよ!」
マジフォンを構え、魔力を込める。
「魔法は撃たせない!」
叫び、真っ直ぐ突貫するエミリア。
やはり、距離を詰める素早さが段違いだ。
それでも。
「たあ!」
「っと!」
「避けた!?」
俊足で一気に詰め、特訓用の木の剣で縦に振るうも、ユーカはぎりぎりのところで避けマジフォンを突きつける。
「【ウィンド】!!」
「くうっ!?」
ユーカが使用できる魔法は予め決められている。
あまりダメージが少ないものを選択。
風属性と水属性の二つだ。
これはあくまで特訓だ。更には、相手は護衛対象。こちらが怪我などさせたら、護衛として失格。
「攻めるよ!」
くるっと宙返りをして着地したエミリアに突撃していくユーカ。そんなユーカを見て、エミリアは笑う。
「魔機使いだから、できる芸当ね……特訓のし甲斐があるわ!」
「【アクア】!!」
「お返しよ!」
エミリア目掛け飛び水柱を避けて、回転を載せ横払い。
「まだまだ!!」
ユーカの動きも悪くない。
身を素早く屈め、足払い。
「あたしだって!」
だが、エミリアも負けじと体勢を崩しながらも蹴りを入れる。
「いたっ!?」
肩へクリーンヒットし、吹き飛ばされる。
「いたた……うわぁ、青痣出来ちゃってる」
「青痣ぐらい我慢しなさい。実践だと、その程度じゃすまないって冒険しているあんたも知ってるでしょ?」
「だよねー。よし! 続き! 続き!!」
お互い、ダメージを負いながらも楽しく特訓をしている。
遠くから見学をしているジェイクは、二人の姿を見て自然と笑みが零れた。互いに、高めあいながら楽しく特訓する光景。
自分も参加したくて、体がうずうずしてきた。
「いやぁ、仲がいいですねぇ」
「ああ。二人とも、楽しそうに戦っている。そういえば、エリオはまだ帰ってこないのか? ミア」
自然と隣に立っているミアにも動じず自然と会話をするジェイク。
その話題は、この場にいないエリオの話だった。
「そういえば、少々遅いかもしれませんね。ですが、護衛の冒険者もついていますし大丈夫でしょう」
「狙われているのは、エミリアとはいえ大丈夫なのか?」
「ふふ。ジェイク様は心配性ですねぇ。心配せずとも、後五分で帰宅しない場合はこちらから迎えに行くことになっております」
なるほど、とジェイクは安心したように頷く。
☆・・・・・
「ありがとうございましたぁ」
「よし。これを後は、おばさんのところに持っていくだけ」
「あ、アリサさんじゃないですか」
「あ、エリオくん。今帰り?」
綺麗なワンピースに着替えたアリサは、赤いリボンで包装された箱を抱え店を出た。
そこへ、制服姿のエリオが声をかけてくる。
アリサがエミリアと一緒に帰ってからすでに一時間が経とうとしていた。
「はい。途中まで先輩と一緒だったんですが、幼児が出来たみたいで途中で別れることになったんです。マジフォンに届いたメールを見てとても焦っていました」
「何があったんだろうね」
「詳しくは話してくれなかったので、わかりませんが。あの焦りようは、かなりの非常事態と考えれますね。それで、アリサさんは買い物ですか?」
アリサが抱えている箱を見詰めエリオは問いかける。
「うん。お母さんの知り合いの人に届け物。本当はお母さんが届けることになっていたんだけど、今仕事から手を離せないからって」
「アリサさんのお母さんには、お父さんがいつもお世話になっています。もしかして、今も父さんの依頼で?」
アリサの母親は、薬師。
そして、エミリアとエリオの父親アレクセイの依頼でよく冒険者の傷などを治す薬を作っているのだ。この街では、有名な薬師で効き目は抜群。
協力関係であるがゆえに、エミリア達とアリサは昔からの付き合い。
よく仲良く遊び、冒険者として高めあっているのだ。
「うん。目が回りそう! て、メールが届いたんだ。だから、私が代わりに」
「そうだったんですか。あ、そうだ。姉さん、どうしでした?」
「え? ……もしかして、ジェイクさんとのこと?」
察しが良くて助かります、と苦笑いするエリオ。
しばらく思考し、アリサはこれまた苦笑い。
「なんだか、ジェイクさんに対してだけ当たりが強かった、かな?」
「あはは、やっぱり」
「あんなに、ジェイクさんに憧れていたのにね」
「昔から、ちょっと素直じゃないところがありますからね、姉さんは……」
昔のエミリアを思い出して、二人はくすくすと笑う。
今も、ジェイクに対して何か言っていなければいいけど……と、心配そうな表情で空を見上げるエリオ。
「あっ」
ふと、アリサがマジフォンを見て声を漏らす。
「どうしたんですか?」
「ご、ごめんなさい。ゆっくりし過ぎちゃったみたい。約束の時間に遅れちゃうから、私急ぐね」
そう言って、先に走って行こうとするアリサだったがエリオは声をあげ止める。
「待ってください! あの、その知り合いのところってどこですか?」
「公園近くだけど……」
それを聞いて、エリオはそれだったらと小さな道に入り手招きをする。
「こっちから行けば近道です」
「あ、そうだったね」
よく、公園に早く行きたい時に使っていた小さな道。
本当に小さな時は、よく利用していたが今となっては冒険者として成長するため公園で遊ぶことはなくなってしまい、使わなくなった。
「懐かしいね……エミリアちゃんが、あたしがいちばーん! って先頭を走っていたっけ」
「そうですね」
懐かしい道を昔の記憶を頼りに進んでいく。
そこで、分かれ道に差し掛かった。
どっちだったか……立ち止まって悩んでいた刹那。
「いつっ……!」
「ど、どうしたの? エリオくん」
首を押さえ、声を上げたエリオ。
「い、いえ。なんだか、首筋に何か刺さった感覚が」
「大丈夫? ちょっと見せて」
心配になったアリサがエリオの首筋を見るが……何かが刺さった痕はなかった。
「何も、刺さってないみたいだけど」
「気のせいだったのかもしれません。それよりも、こっちです。早く……いそぎ……あれ?」
眩暈。
ふらふらと、おぼつかない足取りでその場に日ざま付くエリオ。
「え、エリオくん!? 本当に、大丈夫?」
「なんだろう……眩暈が……体の力も急に……」
明らかに様子がおかしい。
誰か人を呼んでこないと。そう思ったアリサだったが、薄気味悪い声が複数。
誰かが近づいてくる。
「へっへっへ。どうやら、毒が効いたみたいだな」
「よう、ガキども。ちょっとおじさん達の役に立って貰うぜ」
「え? え?」
集まってきた、男達。
怯えるアリサを、エリオは意識がはっきりしない状態で盾になるように前に出る。
「だ、だれですか……あなた達は……」
「おー、まだ意識を保っているのか。根性あるガキだな」
「大人しくしていろよ? てめぇらは、餌だ。俺達が幸せになるための、な」
男達の手には、武器。
剣から槍、そして縄が。
「あ、アリサ、さん……逃げて……」
「え、エリオくん……!」
なんとか保っていた意識も途切れた。
倒れるエリオを、抱き起こすアリサ。
「よし、こいつらを縄で縛り上げろ! アジトに連れて行くぞ!」