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第五十七話

 エミリアの護衛を勤め、早くも放課後を迎えた。

 今日一日何事もなく終えて、ジェイクとユーカは一安心と息を漏らす。ちなみに、エリオは頼まれた仕事があるらしく、先に帰っていてもいいと言われた。


 狙われているのはエミリアとはいえ、エリオが一人というのは不安だ。

 しかし、そこにはぬかりはないようだ。

 帰りは、中等科の先輩二人と帰るらしい。エリオもエミリアに負けず劣らず、色々と人望がありよく中等科の先輩達と一緒に帰宅、特訓などをしているとエミリアは話す。

 それに加え、アレクセイが雇ったジェイク達以外の冒険者がエリオを影ながら護ってくれているとのこと。


「というわけで、あたし達はあたし達で帰るわよ」

「それはいいが……その子達の紹介とかはいいのか?」

「そうだったわね。忘れてた」

「忘れてたはひどいよ!」


 学園の校門前で、叫ぶ生徒。

 まったく知らないというわけじゃない。少しだけ知っている。エミリアと同じクラスの子だ。何度も、ジェイク達のほうを見て何か話しかけようとしていたのが記憶に残っている。


「あーはいはい。でもさ、今日一日自分からでも話しかけられたでしょ?」

「だ、だって! は、恥ずかしかったんだもん……!」

「まあ、あんたが恥ずかしがりやだっていうのは知っていたけど……えっと、紹介するわね。こっちはあたしの友達でアリサよ」


 ほら、と背中を押す。

 先ほど話していたように、恥ずかしがりやなのだろう。視線を、右へ左へと逸らしながらジェイク達の前に立つアリサ。


「あ、アリサ=バートリシアって言います! よ、よろしくお願いします!!」

「ああ、俺はジェイクだ。よろしくな、アリサ」

「ユーカだよ。よろしくね、アリサちゃん」

「は、はい!」


 言えたよ! 言えたよ、エミリアちゃん! と大喜びのアリサ。そんなアリサをはいはい良く出来ましたーっと慣れたように褒めるエミリア。

 前髪で若干目が隠れ気味の少女の頭を丁寧に撫でている。


「それじゃ、自己紹介も終わったし帰るわよ。ユーカ、約束どおり帰ったらあたしの特訓に付き合ってよね」

「もちろんだよ。でも、ジェイクさんじゃなくていいの?」


 そう言って、エミリアはジェイクのことをちらっと見るもすぐに視線を逸らし先に進んでいく。


「そいつとはいいのよ。それに、同じ女子同士のほうが色々とやりやすいからね」


 なるほど。それも一理ある。

 女子同士だからこそ、というのはジェイクでもわかる。ジェイクとしては、早いところ仲直りをしたいという気持ちがあるが、焦ることはない。

 ゆっくりと付き合っていこう。


「あ、エミリアちゃん一人じゃ危ないよ!」


 先に進んでいくエミリアを追うように、アリサとユーカが追う。

 ジェイクも遅れず行こうと一歩踏み出す。

 刹那、何者かの視線に気づき立ち止まった。


「……」


 まさか、エミリアを狙う暗殺者か? 気配を感じ取ろうと精神を集中させる。


「……もういないか」


 すぐに退散したのだろう。

 なかなかの手だれということか。


「ジェイクさーん! どうしたんですかー!! エミリアちゃん、先に行っちゃいますよ!!」

「ああ! 今行く!!」


 気配を察知されて、すぐに逃走。

 一筋縄にはいかない相手のようだ。


「遅いわよ。護衛なんだから、もっとテキパキ行動してよね」

「はは、面目ない」


 合流するとすぐに棘のある言葉を発するエミリア。


「え、エミリアちゃん。だめだよ、そんなこと言っちゃ」


 そんなエミリアに注意するように、物申すアリサ。


「いいのよ。護衛で、あのジェイク=オルフィスだとしてもあたしはあたしのまま接するって決めたんだから」

「でも……」

「大丈夫だ、アリサ。俺はありのままのエミリアで接して貰ったほうがいいって思ってる。変に畏まれても今更って感じがするからな」


 最初の出会いでエミリアの印象は定まっている。

 自信家で、どこまでも真っ直ぐ。

 確かに、目上の人に対して畏まること間違いじゃない。だが、今のジェイクとエミリアの関係は護衛対象と護衛。

 変に畏まる必要などない。ジェイクはそう思っているのだ。


「本人もこう言っていることだし、いいのよ。それに、今はあたし達と対して変わらない見た目だし。変に敬語を使ってもね……」

「わ、私に言ってるの!?」

「まあ、そう言われるとそう思ってしまうな……うん」


 周りから見ても、今のジェイクは子供。

 この四人の中では、一番年上なのはユーカだ。何も知らない者達が見たら、違和感しかないだろう。


「で、ですがジェイクさんに対してタメ口というのもその……今だけ! と言う理由でも恐れ多いと言うか……」

「最初出会った時はタメ口だっただろ? あんな感じで良いんじゃないか。別に俺は気にしない。そうだ。俺は今からユーカに対して敬語で話すから、ユーカはタメ口。俺をただの年下の子供だと思って言ってみるってのはどうだ?」

「いやぁ……それは……」

「元に戻るまでってことで。どうですか? ユーカさん」

「はぅ……!!」


 ジェイクに敬語を使われ、何か衝撃のようなものを受けたような反応を見せる。

 今まで、敬語を使ったことはどれくらいあっただろうか? 昔は、よく敬語を使っていたが、いつの間にか自分よりも歳が上の者と会話をすることがなくなりいつの間にか敬語を使わなくなった。

 だからこそ、新鮮だ。

 いや、昔に戻ったかのようだ。実際、姿も昔に戻っているのだが。


「え、えっと……その……」

「ほら、試しにさんづけなしで言ってみたら?」

「じぇ、じぇ、じぇ!」


 呼吸を荒くしながらも、ユーカはバッと顔を上げジェイクの名を。


「じぇんりょくで護衛を頑張りましょう!」

「……まあ、うん。無理はしなくていい」


 ぽんっと背中を叩く。

 ユーカは小さくはい……と返事をした。


「さて、話題を変えるが。アリサ」


 変な空気になってしまったため、話題を変えようとジェイクがアリサの名を呼ぶ。


「は、はい!?」


 突然、名を呼ばれ上ずった声で返事をするアリサ。


「アリサは、どの職業を選んで冒険者になったんだ?」


 性格から考えて、前衛職は考え難いが……。


「ま、魔法使いです! 昔からその……魔力のコントロールだけは得意、だったので。それに、エミリアちゃんのサポートとかができればななって」

「アリサは本当にすごいのよ。ね? アリサ。久しぶりにあれを見せてよ」


 あれ? エミリアの言葉にジェイクとユーカは首を傾げる。

 魔力のコントロールが得意と言っていたが、それに関係していることだろうか。


「うん、わかった」


 一度立ち止まり両手を胸の前でかざす。

 すると、魔力が集束していき蝶の形になったではないか。魔力のコントロールが得意とは言っていたが、まさか魔力を形にするとは。

 この歳で、これだけのことができるのは驚きだ。


「こ、こんな感じです」


 少し照れくさそうに微笑む。


「す、すごいよ! アリサちゃん! こんなことができるなんて!」

「そうですか?」


 ユーカに褒められ、恥ずかしがりながらも嬉しそうに頬を赤く染める。


「もちろんだ。魔法使いの中では、魔力を形と成し旅の役に立てる者達は多い。その歳でそれだけできるんだ。将来は優秀な魔法使いになれる」

「よかったわね。伝説の言葉よ。アリサは絶対優秀な魔法使いになれるわ! 一緒に旅をするのが、楽しみね!」

「う、うん!」


 そう言って満面な笑顔を向けたアリサの手から、魔力で作られた蝶が飛びだって行く。

 エミリアだけじゃない。

 ここにもまた将来は楽しみな冒険者の卵がいた。

さて、そろそろ物語も動き始める頃です。

次回は、ちょっとシリアス? になるかもしれません。

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