第五十五話
「……まだレベルは60代。道のりは長いか」
冒険者を始めてもう四十年以上は経つ。
ジェイク=オルフィスは、老化していく自分の体に危険を感じながらもステータスカードを見詰める。
この歳になってやっとレベルが60代。
このままでは、自分の寿命が尽きるのが先になりそうだと不安が募ってくる。なにせ、レベル1を上げるのに半年以上かかった気がする。
いや、だが半年で1上がると考えればギリギリ大丈夫か?
「まあ、俺もまだまだ若い。冒険者の中では七十歳でも続けている人がいるんだ」
ならば、自分も頑張れる。
歳に負けてられない。
とりあえず、今は大事な相棒である武器を磨かなければ。
「ん? 何か聞こえたような……」
太陽の日差しが差し込む中、岩に腰を下ろし武器を磨こうと思った刹那。
がさがさと、茂みが動く音が聞こえた。
魔物か? それともただの動物? 遠くてわからないが、殺気のようなものを感じた。
「見に行くか」
ざっとだが刃を磨いた。
剣を鞘に収め、茂みの中へと入って行く。
視線だけで、周りを見渡し、剣に手を添えながらいつでも戦えるように移動する。
(……いない? いや)
複数の気配を感じた。
それも、一人は逃げている? 追っているのは三……。ジェイクの足は速くなった。急ぎ、追われている者のところへと駆けつける。
「こ、こないで! 石ぶつけるわよ!」
茂みを抜けると、大きな木に追い詰められていたエルフの少女を発見する。
近くにあったであろう手に平サイズの石を手に持ち襲うとしている魔物達を威嚇している。だが、そんな石では魔物達は止まることはなく。
石が体に当たるも、当たっていないようにそのまま襲い掛かった。
「きゃあっ!?」
「ハアッ!!」
一閃。
一振りにて三体の魔物を切り裂く。経験値となった魔物達は、ジェイクの体の中に吸い込まれていく。
「……大丈夫か?」
「あ、え、あなた……は?」
涙目のエルフの少女に、ジェイクは手を差し伸べふっと笑う。
「通りすがりの冒険者だ」
★・・・・・
《―――と! いうことがあって、私はジェイク様にメロメロになったんです!!》
バン! と机にひびが入るほどの力で叩き声を上げる。
「……これが毎回のことなのか?」
「ええ、そうよ」
初等科の全校生徒を集め、学園長シーナはジェイクとの出会いからその後のことを熱く語っていた。
実際は、エミリアに護衛がつくことを話すためだったのだが……学園では、毎回集会のおりジェイクと出会いとその後の話をしてから本題に入るようだ。
ちなみに、ジェイクとユーカもそれを聞かされている。
護衛がつくことを知らせるため、すぐに終わると思っていたのだが本題へと入るまでが長い。
しかしながら、生徒達は慣れているかのように真面目に聞いていた。
「生徒達は、全員この話を?」
「もちろん。慣れたものよ。長くても、ざっと五分ぐらいだから」
「ふむ……俺は少し忘れている部分もあるから、懐かしく思うな」
熱弁しているシーナの話を聞き、懐かしいなぁ……と頷くジェイク。
とはいえ、この世界のシーナを助けたのはこの世界のジェイク=オルフィス。同じシーナだとしても、違う部分がある。
《ちなみに、ジェイクさんは鍋を作るのが得意! 私が探してきた薬草やキノコからおいしい鍋を作ってくれるのです! っと、ジェイク様談義はここまでにしましょう。今日は、かなり重大な話はあるのです。皆さんに集まってもらったのは他でもない! 初等科第六学年エミリア=ウィル=アンブライさんに、護衛がつくことになりました!》
ちなみに、護衛がつくのは認められている。
親がまだ心配をして、護衛をつけることはよくあることらしい。
エミリア以外の生徒達にも護衛がいる生徒はいる。
しかし、生徒を集めてこうやって知らせることはそうそうないようだ。そのため、生徒達の視線はジェイク達に集中している。
《さあ、護衛のお二人様! 前へ!!》
シーナに呼ばれるがまま、ジェイクとユーカは前に出る。
《このお二人の他にもいるのですが、今回は二人だけをご紹介! まずは、女子から! はい!!》
「え!? あ、あの……! ユーカ=エルクラークです!」
自分で紹介するの!? と驚きつつもユーカは軽い自己紹介して頭を下げる。
「エルクラーク?」
「エルクラークって、帝都のほうのあの人と同じだよね?」
「え? まさか、姉妹?」
ユーリは、他の学園でも有名のようだ。
ざわつきながら、拍手をする生徒達。
《皆さん! 驚くのはまだ早い! 彼女は確かに帝都にあるアルシュベーヌ学園のユーリ=エルクラークと姉妹ですが! 次に紹介するのは、そんな存在を軽く超えるお人です!》
明らかに、シーナのテンションが違うことを生徒達は察している。
しかし、ジェイクを見る生徒達は首を傾げる者が多い。
それもそのはずだ。
何も知らない者達から見れば、今のジェイクはただの子供に過ぎない。
「学園長! どう見ても、彼は私達と同じ駆け出しにしか見えないんですが!」
先陣を切った生徒の一人が挙手をして大きな声で言う。
それに続くように、だよな? というか冒険者なのか? などと騒ぎ出す。素直な生徒達の言葉にジェイクはただただ苦笑い。
《静粛に! 確かに、見た目は君達と変わらない。ですが、これにはふかーぁい! 事情があるんです。ささ、さっそく自己紹介をば》
これだけ上げられると普通に自己紹介をするのは、止めたほうがいいのだろうか?
シーナは期待に胸を躍らしているかのように目が輝いている。
「えぇ……先日からエミリアの護衛につくことになった冒険者ジェイク=オルフィスだ。さっきシーナ学園長が言うように事情があってこんな姿になっていることだけを知らせておきたい。護衛をしている間は、よく学園にも訪れる。気軽に話しかけてくれ。……以上だ」
一人だけ盛大に拍手をしている中、生徒達は沈黙を保っている。
これだけの人数の前で自己紹介をしたことがないため、ジェイクはどう反応すればいいかわからず自然と固まってしまった。
「え? ジェイク=オルフィスって言った?」
「ジェイク=オルフィスっていつも学園長が話している」
「でも、随分昔に死んだんだよな?」
「馬鹿ね。最近の噂知らないの? 最近、転生者として復活して世界を旅しているって」
「じゃあ、目の前にいるのって……本物?」
徐々に大きくざわついて行く生徒達。
今までは、誰だあいつ? のような視線だったのが、今ではどうだ。本物かよ! すげぇ! と声をあげ尊敬の眼差しを向けている。
《皆さん! 彼こそが私を助け、人間の中で最初にレベル100となった冒険者! ジェイク=オルフィス様です!!》
正確には、レベル100になる試練を受けたなのだが……。
書物には、彼は人間で初のレベル100に! と記されているものが多い。実際、レベル100となっているため嘘ではない。
ただ、本当に自分が人間で初なのかと言われば自信がないところ。
《ジェイク様は、しばらくエミリアさんの護衛としてこの街に滞在し、学園にも通ってくれます。ジェイク様? 先ほど仰られていましたが、どんどんお声をかけても?》
「もちろんだ。とはいえ、一番はエミリアの護衛だからそれほど時間を取れるかわからない」
「一番か……」
そうだ。
護衛として、エミリアの命の安全を第一に考える。考えるが、四六時中というわけではない。彼女にもプライベートというものがある。
そこに気をつけつつ、護衛の任を遂行しなければならない。
「だが、同じ冒険者として教えれることは出来る限り教えたいと思っている」
《はい! ということですので……皆さん! ジェイク様のお仕事の邪魔にならない程度に、接していきましょう。学園長との約束です! いいですね?!》
『はい!!!』