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第五十四話

「それではエミリア様、エリオ様。お気をつけて。行ってらっしゃいませ!! ませ~」

「いってくるわ……」

「行ってきます、ミア」


 元気のいいミアに対して、エミリアはどこか元気がない。エリオは、そんな姉を見て苦笑しながらもミアに手を振っている。

 まあ、原因は自分にあるのだろうと。ジェイクは、エミリアの様子を窺いながらも見送ってくれているメイド達に挨拶をする。


「ジェイク殿。学園のほうにはちゃんと話はつけてある。娘のこと頼んだよ」

「任せてくれ」


 父親であるアレクセイも見送りに着てくれていた。


「あ、それとだね。学園に行った際は、気をつけたほうがいい」


 ん? それは重々承知だ。

 学園にいる際も、エミリアの身の安全は自分達がなんとかする。護衛についたからには、当然の義務だ。しかし、アレクセイの言っていることは少し的外れだったようだ。


「護衛がつくことを学園長に報告するのは確かに義務だ。しかし……まあ、なんというか」

「行ってからお楽しみです!」

「あ、ああ。そうか」


 何があるのだろうが? 心配しつつ、ジェイクとユーカはエミリア、エリオと共に屋敷から離れて行く。

 ちなみに、メアリスとネロは他にやることがあるため別行動だ。

 そのやることは、ジェイクの姿を元に戻すための薬。

 先日、帰ってきたネロからの報告はこうだった。


『商人は見つけたよ。だけど、元に戻るための薬は持っていなかったんだ。だけど、製法は教えて貰ったよ。ちゃんとお話をしたら、正直に話してくれたんだ』


 その時の、ネロの笑顔はどこか身震いを感じるほど怖かった。

 最初はネロ一人だけで薬の素材を集めに行く予定だったのだが、メアリスが自ら一緒に行くと言い出しエミリアが学園に行く時の護衛はジェイクとユーカになった。

 メアリスが自分から言い出すとは……何かあるのだろうか。


「本当にあんた達だけで大丈夫なの?」

「姉さん。心配し過ぎだよ。この人達は、僕達よりも経験豊富な先輩冒険者なんだよ?」

「せ、先輩……!?」


 エリオの言葉に、ユーカ目を輝かせている。

 先輩……確かに、彼女達から見たらもうユーカも立派な先輩なのかもしれない。


「あの、姉のことよろしくお願いします。ジェイクさん、ユーカさん」

「ま、任せて! 先輩である私達がしっかりエミリアちゃんを護ってみせるから!!」

「はい。頼りにしています」


 先輩と呼ばれて嬉しそうにしている今のユーカの姿を微笑ましくジェイクは見詰めている。これからも、ユーカはどんどん成長していくことだろう。

 自分とはまた違った成長をして、これから成長していく後輩達を引っ張って行く。

 そんな未来を想像すると、更に楽しみになってくる。


「なににやにやしてるのよ」

「いや、これからの未来が楽しみだなって」

「ふーん……。あ、あのさ」

「なんだ?」


 ジェイクの目は見ず、俯いたままのエミリア。

 なにか言いたそうにしているが……なんだろうか? 


「や、やっぱりなんでもないわ!」


 なんだったんだろう? 気になりつつも、他愛のない会話をしながらの移動が十分ほど経ち目的地のオルフィス学園へと到着した。

 まず、見た最初の感想は……。


「でかいな」

「はい。私が通っていた学校よりも遥かに大きいです……」


 学園の大きさ。

 自分が通っていた学校よりも、二倍……いや三倍? はたまた五倍? 屋敷か? と思うほどの大きさにジェイクとユーカは驚いていた。

 青年期の自分よりも遥かに高い鉄の門を潜って行く冒険者の卵達。

 立ち往生をしているジェイク達を珍しそうに見詰めている。


「大きいのは当たり前よ。世界でも三本の指に入る名門なんだから」

「この学園には、人間から獣人、エルフなどの様々な種族が冒険者になるべく知識と実践的な経験を得るために集っているんです。生徒数は五百は軽く越えています」

「わ、私の学校でも全校生徒で二百前後だったのに……冒険者達の学園ってやっぱりすごいんですね!」


 ただただその大きさに圧倒されながらも、ジェイク達は学園の門を潜って行く。

 周りを見渡せば、確かに人間から獣人、エルフなどの様々なの種族が見受けられる。昔は、種族差別やいがみ合いなどが多かった。

 それが、今ではあんなにも仲睦まじく共存している。


「それじゃ、僕はこっちだから。本当なら、一緒について行きたいんだけど。友達と約束があって……」

「いいのよ。こっちのことは気にせず、友達のところに急ぎなさい」


 学園の玄関まで辿り着いたところで、エリオは別れる事になった。

 友達と約束があるようだ。

 エリオは、第五学年でエミリアは六学年。初等科は一年から六年まであり、中等科は三年間らしい。この学園は初等科から中等科しかなく、中等科を卒業後は自由。

 また高等科があるところに通ってもよし、そのまま冒険者として世界を旅するのもよし。


 一番大きな学園は、帝都や王都などにあり、そこは初等科から中等科、高等科まであるそうだ。

 計十二年間も通うものもいれば、途中……つまり、中等科から通う者も。

 十二年か……まだ十歳にも満たない頃から冒険者になるために通うというのはどんな感じなんだろうか。自分が冒険者になりたいと思った時期よりも早く今の時代の子供達は冒険者を目指している。

 そのための学園のひとつがこのオルフィス学園。


「ありがとう、姉さん。それじゃ、また後でね! ジェイクさんもユーカさんもまた!」


 エリオが立ち去った後、エミリアはふうっと一呼吸入れてから歩き出す。


「さ、こっちよ。学園長室まで案内するわ。見たとおりここ広いから。慣れていないと迷っちゃうのよ」

「じゃあ、エミリアも最初はよく迷っていたとか?」

「……」


 あ、これは迷っていたんだなっとジェイク達は察した。

 だが、そこはあえて口に出さず沈黙。

 しばらくして、エミリアが咳払い。


「こほん……! と、兎に角よ。ちゃんと後ろから着いてきなさいね。あたしも、早く行かないと授業に遅れちゃうから!」


 了解、と二人はエミリアの後に続く。


「あ、エミリアーおっはー」

「おはよう」

「エミリアさん。おはようございます」

「ええ、おはよう」


 廊下を歩いていると、他の生徒達がエミリアを見つけるやいなや挨拶をしてくる。エミリアも、一人ずつ挨拶を返していく。 


「人気者だね、エミリアって」

「別に。これぐらい普通よ。強くなろうと努力した結果。周りがあたしを認めた。それだけよ」


 などと言いつつも、どこか嬉しそうな声音のエミリア。

 なんとか機嫌は直ったようだが、ジェイクとの距離は一行に変わらない。こうして移動している時も、ユーカと一緒に歩いている。

 ジェイクは、かなり距離が空いていた。


(このままだと、護衛としてもやばいな。なんとか仲直りする方法を考えなくちゃだが……)


 真面目に、エミリアと仲直りしようと考えるジェイク。

 やはり、ここは冒険者として共にどこかへ冒険するのが一番だろうか? それとも、稽古をつける? ……やばい、冒険者絡みの仲直り方法しか思いつかない。

 年頃の女の子との仲直り方法など、正直わからない。

 どうする……どうすればいい。


「ジェイクさん? ジェイクさん!!」

「お!? ど、どうした?」

「着きましたよ? 学園長室」


 ユーカの声にハッと我に返ると、学園長室に辿り着いていた。エミリアは、なにやってるんだが……とという表情でドアにノックをする。


「学園長。エミリア=ウィル=アンブライです」

「はいはーい。入って良いよー」


 中からは、女性の声が聞こえた。

 しかも、かなり軽い返事だ。


「学園長?」

「……そうよ。とは言っても、学園長とは思えないほど軽いノリの人だけどね。さ、行くわよ」


 なにか覚悟を決めたような表情で、エミリアはドアノブを捻り中へと入って行く。


「学園長。この二人が、報告した私の護衛のうちの二人です。右から」

「ユーカ=エルクラークです!」

「そして」

「ジェイク=オルフィスだ」


 中にいたのは、きっちりと正装に身を包んだめがねをかけた一人の女性。

 太陽の日差しで明るく美しく輝くブロンドの長い髪の毛を揺らし、アクアブルーの瞳でジェイク達をじっと見詰めている。

 そして、何よりも目が行くのは尖った耳。そして、豊満な胸。さすがはエルフだ。学園長とは思えないほどの若く美しい。

 ゆっくりと立ち上がり、めがねの位置を直す。


「お待ちしていました。わたくし、オルフィス学園の創設者である学園長を勤めています。名を、シーナ=エレダリスと言います」


 先ほどの、軽い口調から一変し丁寧な口調で自己紹介をする学園長シーナ。

 ユーカと握手をし、続いてジェイクと握手をする。 

 握手をするが……離してくれない。

 それどころか、ぎゅっと手を握る力が強くなっている。

 なんだ? と彼女の顔を見ると。


「はあ……はあ……じぇ、ジェイク様。こんなに小さくなっているけど、間違いなくジェイク様の匂い……! ちゃんとしようと思っていたけど……」


 鼻息が荒い。

 いや、鼻息どころか呼吸すらも。

 息苦しかったのだろう、胸元のボタンをひとつずつ外していき、豊満な胸から生まれる谷間を全開。

 頬を染め、高揚した様子のシーナはおもむろに。


「やっと再会できましたぁ!! 愛しのジェイク様ぁん!!!」


 ジェイクに抱きついた。

 顔が、胸に埋もれ息苦しさを覚えたジェイクだったが。

 その瞬間、ジェイクの記憶の奥底から何かが溢れ出す。エルフ……助けた……シーナ……この状況…………過去にこんなことがあった。

 そう、それは今から、いや自分が生きていた頃から三十年も前の話。

 当時、彼女は外との干渉は許されないという掟に背き、外に出た。そこを魔物に襲われ窮地の時……ジェイクが助けたのだ。

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