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第五十三話

「ふう……これぐらいにするか」

「あ、ありがとう……ございま、す……」

「お疲れ様です、お二人とも。冷たいお飲み物をどうぞ」


 ありがとう、と冷たい飲み物が入っているボトルを受け取る。

 喉を潤し、しばらくエリオと会話を続けるジェイク。


「そういえば、ジェイクさんの他のお仲間はどちらに?」

「ああ。今は、エミリアの部屋にいると思う。俺は、なんだか嫌われているみたいで一人だけ追い出されてしまったんだよ」


 ははは、と苦笑い。

 それを聞いたエリオは、頭を下げる。


「すみません。姉は、照れているだけだと思います」

「照れている、のか?」


 それは本当なんだろうか。

 明らかに、最初の出会いが原因でこちらを毛嫌いしているだけのように思えるが。


「そうですよ。だって、エミリア様があれほど立派な冒険者を目指しているのは、旦那様がきっかけではありますが。ジェイク様に憧れて、というのもあるんですから」

「俺に? そんな様子はなかったんだがな……」


 憧れてくれるのは、嬉しいことだが。


「ですから、照れているだけなんですよ。だって、オルフィス学園に入学するほどなんですよ? それに……ふふっ」

「ん?」


 なんだろう。

 ミアが、意味深な笑みを浮かべているが。エリオを見ても、ミアと同様意味深な笑みを浮かべている。

 その意味も気になるが、先に。


「聞いてもいいか? オルフィス学園というのは、どんな学園なんだ?」


 エミリアから得られた情報では、冒険者を育てる名門学園だという。

 それに、先ほどのミアが告げた意味深な言葉。

 まさかとは思うが、オルフィス学園というのは……。


「もう察していると思いますが。あなたに憧れたお人が創設した学園なんです。創設者である学園長は、エルフ族なのですが……かつて、あなたに助けられたことがあるようなんですよ」

「エルフ……その学園長は、まだ?」

「はい。エルフ族なので長寿ですから。まだまだ現役で学園長を続けていますよ」


 エルフ族を助けたことは、確かに記憶にある。

 しかしながら、かなりの数を助けた。

 その中の誰かなのだろうが……とはいえ、そのエルフを助けたのはこちらの世界でのジェイク=オルフィス。

 自分ではない。

 とはいえ、自分がいた世界での未来ももしかしたらこうなっていたのかもしれない。


(なんて、あるわけないか)


 ここは、パラレルワールド。

 もしも、こんな世界だったらという世界。未来は……どうなるのかわからない。


「詳しい話は、エミリア様からお聞きしたほうが早いですよ。同じ、ジェイク様ファンのお一人なんですから」

「ファン?」

「追っかけってことですよ」

「いや、それはちょっと違うと思うよ、ミア」

「間違ってはいないと思うんですが?」

「うーん……」


 こうして聞いていると、自分が知らない言葉多くあるようだ。

 まだまだ勉強が足りない。

 旅をしている間も、現代に慣れようと勉強が欠かしたことが無いのだが……。


「兎に角です! ご案内もこれぐらいにして、エミリア様のお部屋へ移動しましょう! いざ、突撃の時です!!」

「いいのか?」

「エミリア様は、少し強引にいったほうが良いんです。エリオ様はどうなされますか?」

「僕は、シャワーを浴びてから自室で勉強をする予定。あ、後で紅茶を持ってきてくれる?」

「畏まりました。他のメイドに知らせておきます」

「うん、よろしく。ジェイクさん。今日は、ご指導頂きありがとうございました。厚かましいと思いますが、またご指導をお願いできますか?」


 まだ小さいのに、しっかりしている。

 姉のエミリアとはまた違った感じだ。

 護衛はどれくらい続くのか、まだ告げられていない。エミリアの命を狙う者を見つけ出し捕まえればそれで終わりなのだろうが。

 まあ、しばらくはここに滞在する。それに、彼の成長は楽しみだ。

 断る理由はないだろう。


「もちろん。けど、次は元の姿に戻っていることを俺は願いたい」

「今の姿だと親しみやすいから、そのままでいいのでは?」

「こら、ミア」

「えへへ。すみません」




☆・・・・・




「あ、あんまりじろじろ見ないで……」

「ふふ。彼を追い出した理由はこれだったわけねぇ。へ~」

「こ、こんなものがあったとは……ハッ!? そういえば、ラヴィの部屋にも違和感がある隙間や空間があった。まさか、あれはこれがあった場所だった?」


 さっそく護衛をするためにエミリアの自室へと訪れている。

 しかし、今はジェイクがいない。

 エミリアが追い出してしまったのだ。入れたのは、ユーカとメアリスの二人だけ。ジェイクは、仕方なくメイドのミアと共に屋敷の構造を知るために屋敷内を探索している。


 立ち去る時に「俺、嫌われちゃったみたいだな……」と言葉を残して去っていたジェイクだったが。それは違ったようだ。

 エミリアがジェイクを拒否した本当の理由。

 それは……。


「あら。これは、青年時代のジェイクね」

「そ、それはジェイク=オルフィスが復活したって噂が広まってから数十年ぶりに復刻したやつよ」


 メアリスが手に取ったのは、青年時代のジェイクが表紙になっている一冊の本。

 その中身は、青年時代のジェイクの活躍が記されている伝記である。

 中には、美麗な画がところどころで掲載されていた。


「ジェイク=オルフィスは、所詮昔の存在だって。もう数十年前からファンはいなくなっていったわ。最近になって、ジェイク=オルフィスが復活して各地で活躍しているって噂が広まって……また熱が出てきたのよ」


 冒険者の間では、憧れの者や特定の相手に対してファンというものがついている。その冒険者の伝記を作成したり、写真集を作成したりと。

 本人に直接、話を聞いた会話集。

 本人が実際旅で体験したことを、画などで想像しやすく表現したり色んな工夫をした本などもあるようだ。


「す、すごいです。冒険者って有名人になれば本なんか出ちゃうんだ……!」

「あなたも有名になれば、でるんじゃない?」

「そういえば、あなたメアリス=A=ラファトリアよね? あなたも結構な有名人よね」

「そうだったの!?」


 驚いてみたものの、考えてみればメアリスはもう何十年も前から冒険者として活躍していた。そういうものがあってもおかしくない。

 ユーカは、思った。

 もしかすると、ネロでさえこんなものが? 


(わ、私ってものすごい人達に囲まれて旅をしているんだよね……今更だけど)

「私は、こんなものは全然興味ないけどね。記者とかいう、変な人達が来た時は仕方なく闇の良さを語ってあげたけどね」


 懐かしいわぁ、と笑うメアリス。

 そう言われると、メアリスに関しての本が気になってしまうユーカ。後で、親友であるラヴィにその辺について詳しく聞いてみようか……。

 そう考えていると、エミリアが口を開く。


「はあ……ねえ、あんた達さ」

「え、なに?」

「……えっと」


 ベッドに上に座り込み、いい憎そうに頬を掻いている。


「もしかして、旅の話を聞きたいのかしら?」

「わ、わかってるじゃない。あたし、まだこの街と周辺しか世界を知らないのよ。だから……は、話なさい!」


 素直じゃないなぁっと、ユーカは今のエミリアの姿を見て小さく笑い、ゆっくりと近づき隣に座る。


「うん、いいよ。それじゃ、そうだなー。私とジェイクさんの出会いから話そうか?」

「それは長くなりそうね。私との出会いからで、いいんじゃない?」


 逆隣に座ったメアリスは、置いてあったジェイクの伝記を読みながら言う。


「メアリスとの出会いからでもあまり変わらないと思うなー。結構早く出会ったからね」

「なんでもいいから。早く!!」

「はーい。ジェイクさんとはね、実は私が初心者と間違って声をかけたのがきっかけでね―――」


 その後、ユーカの語りをエミリアは真面目に耳を傾け続けた。

 時に驚き、時に眉を顰め、表情豊かなエミリアに答えようとユーカの語りも感情が更に乗っていった。

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