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第四十八話

「なんで俺に?」

「あんたが強そうだからって言ったでしょ? あたし、人を見る目はいいほうなの。そんなあたしが強いって思ったのがあんた。あたしと同い年ぐらいに見えるけど……結構場数を踏んできたようね」


 まだ小さいのにすごい洞察力だ。

 それに、構えにもあまり隙が無い。

 そして、その堂々とした態度。

 十代前半ぐらいだろうか? まだ小さいのに、しっかりしている。


「それはわかった。だけど、それだけじゃ納得できない。君は、強い相手だから戦うのか? それじゃ、ただの殴りこみだ」

「ふん。強い相手と戦うのが悪いっていうの? 言っておくけどね、弱い相手と戦っていたって強くはなれないのよ!」

「それは違う。弱い相手だって、経験は得られる。冒険者達も、成り立ての頃はレベルが低い魔物によく世話になっているものなんだ。経験値や資金、素材やら色々と」


 強い相手と戦うのは確かに、強くなるためには必要だ。

 しかし、いきなり見つけた相手が強いからと言って無謀にも挑戦するのはよくない。そんな無茶をして、壊滅になりかけたパーティーをジェイクはいくつも知っている。


 地道に弱い魔物ばかりと戦って、飽き飽きとしていたパーティーがもっと強い相手を求めて挑んだ結果……冒険者家業ができなくなるほどの怪我を負ってしまった。

 レベルという存在は、現実となってはっきり現れる。

 臆病でも、地道でもいいのだ。


「ふーん。あんた、本当に経験豊富のようね。その口ぶり。小さいくせに」

「君にだけは言われたくないな……」

「あたしは、これでも大きいほうよ。同じクラスの中では、三本の指に入るほどにね!」

「クラス? 君は、学生なのか?」


 そうよ、と胸を張り説明を始める少女。


「あたしは、ここバルカドの街にある冒険者育成の学園。オルフィス学園の中等科の生徒なのよ!!」

「オルフィス学園?」


 冒険者を育成する学園があるのは、知っていた。

 昔と違い、冒険者に憧れる者達は増えている。

 その冒険者となるため様々な知識と戦闘技術を教えるために創設された。ちなみに、ユーカの姉が通っている帝都の学園もそのうちのひとつだ。

 しかし、オルフィス学園? 偶然なのだろうか。


「あんた知らないの? オルフィス学園って言えば、冒険者育成学園の中でも、三本の指に入るほど生徒数が多い有名な学園じゃない!」

「そ、そうなのか。すまん。あまり、そっちの知識はなくて……」

「……あんたも冒険者なのよね?」

「ああ、そうだが」

「学園には通っていないわけ?」

「まあ、な。俺は、自分で冒険者になると言って故郷を出てからずっと冒険で実際に得られるものを吸収して冒険者を続けているんだ。だが、俺も一度はそういう学校に通ってみたいものだな……」


 ジェイクの故郷にあったのは、冒険者を育成するためのものではなく。よくある一般的な勉学などを教えるところだった。

 だから、冒険者育成の学園というものがどんなものなのか気になってはいる。


「変な奴ね。あんたの歳なら、普通に入学できるでしょ」

「ははは。まあ、そうなんだろうけどな」


 実はもう学校に通うというほどの年齢ではない。

 が、それをこの姿で説明したところで、絶対信じてはもらえないだろう。青年姿でも、危うかったのに今は少年。

 本当は八十を越えているんだ……などと説明しても、ふざけているの? と言われるだけ。


「まあ、話はこれぐらいにしましょう。さあ、さっさとそこの剣を抜きなさい!」


 少女が言うのは、ベンチに置かれている剣のことだ。

 この体でも……大丈夫だった。

 やはり、体が小さくなろうとも今までの経験で得たステータスは変わらないようだ。


「変わった剣ね」

「あんまり気にするな。ところで、もう一度聞くが本当に戦うのか?」

「くどいわね。やるって言ったらやるの!!」


 むうっと、頬を膨らまし必死に訴えかけてくる。

 そんな姿がやはり、年頃だと思えて微笑ましく思えてくる。

 しょうがないっと、思いつつも剣を鞘に収めた。


「ちょっと!!」

「ちょっと待ってくれないか? 実は、今から服を買いに行こうとしていたんだ」

「服を? ……よく見たら、あんたなにそれ? 服のサイズ間違えたの?」


 そうじゃないんだが……と頭を掻く。


「このままじゃ、動き辛い。君も、途中で躓いて勝負が決したらつまらないだろ?」

「……それも、そうね」

「納得してくれて助かる。それじゃ、少し待っててくれ。なるべく早く帰るから」


 と、公園を出ると、なぜか少女が後ろからついてくるではないか。

 しばらく歩いた後、ジェイクは話しかける。


「なんでついて来るんだ?」

「服を買ってそのまま逃げようよしないように監視するのよ」

「そこは、信用して……てのは無理だよな。まだ会って間もない間柄だし」


 仕方ない。このまま彼女も連れて行くことにしよう。

 っと、その前に。


「自己紹介がまだだったな。俺はジェイクだ。君は?」

「……エミリアよ」


 軽い自己紹介も終え、会話もないまま服屋に到着した。

 さっそく今のサイズに合う服を探さなければならない。

 とりあえず、子供用のところに行くとしよう。


「えーっと、別に拘りはないし……これとこれかな」


 体が元に戻ると信じて、見た目が地味だとしても拘る必要なく服を選んでいく。

 そして、真っ直ぐレジに向かった。


「あら? 自分で服を買うなんて、偉いわね」


 この歳になって、子供のように褒められるとは思っていなかった。

 実際、今の自分くらいの子供は、ほとんど親に買ってもらっているのだろうか? おしゃれをしたいと思っている女子ならば、珍しくはないのだろうが。


「……」

「ん?」


 会計の途中で、ふと視線を逸らすとエミリアがとある雑貨のコーナーで何かを見詰めているのを発見した。

 気になったジェイクはちょっと待っててくださいと店員さんに言ってレジから離れていく。幸い、今この店に居るのはジェイクとエミリアだけらしい。


「何を見ているんだ?」

「べ、別に……」


 ジェイクに声をかけられ、咄嗟に視線を外す。


「リボンか……」


 そこにあったのは、真っ白なリボン。

 これを見ていたのだろう。


「あたしは、そんな安っぽいリボンになんてこれっぽっちも興味なんかないわ。それよりもほら! さっさと服を買ってきなさいよ。あたしとの勝負の時間がなくなっちゃうじゃない!」

「……素直じゃないな」


 店を出て行ったエミリアを待たせないために、レジで会計を済ませてから、試着室を借りさっそく着替えたジェイク。

 元々着ていた服は袋に入れ、準備完了。

 装備も整えなくちゃならないが……それは後でいいだろう。


「待たせたな」

「本当よ。さ、さっきの公園に行きましょう。ちなみに、あんたが来るまで考えておいたわ。勝敗の決め方」

「どう決めるんだ?」

「先に尻餅をついたほうの負けってことでどうかしら?」


 それは中々、難しい条件だ。

 その条件だと、背中から倒れてもセーフになる。もちろんうつぶせに倒れてもセーフだろう。


「……了解。それで行こう」


 しかし、引くわけにはいかない。

 とはいえ、このままだと集合時間に遅れてしまう。多少の遅れならば、許してくれるだろうが……少し本気でやってみよう。

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