第四十六話
穢れた魂を前にノアは、静かに立ち尽くす。
今まで祓ってきた穢れとは比べ物にならないぐらいの黒だ。
「お疲れ様、パパ。やっぱり、パパは最強ですね。さあ、ここからは私のお仕事です」
そう言って、手をかざすも。
『この俺をどうするつもりだ? 言っておくが、俺の穢れはそう簡単には祓えんぞ』
「なっ!? まだ、生きているの!?」
穢れた魂から声が響いたことで、ユーカは驚いてしまう。
「当たり前と言えば、当たり前よね。彼は魂の集合体。失ったのは体だけで、魂はまだ残っている」
「でもまあ、魂そのものが喋るのは初めてかもね」
しかし、その他の者達は冷静だった。
確かに、精魂達などの魂の集合体達は喋ったことがあるが目の前にあるのは、魂。魂喰いヨハネスの魂そのものだ。
ヨハネスは、穢れた魂の集合体。
が、他の魂達はジェイクに両断された時、弾けてしまっている。
「ノア。他の魂達はどうするんだ?」
周囲には、まだ穢れた魂達が漂っている。
解放されたことで、自由を得ているがこのまま放置をしていれば悪しき魂のまま。ノアの力で、穢れを払わなければならない。
「ごめんなさいです。まずは、この主犯格を先に片付けてからにして欲しいです。他の魂方は、また後で」
『俺を片付ける? どうやってだ? 俺は、いまや穢れそのものと言ってもいい。この世に、穢れがある限り俺はいずれ魂喰いとして復活するだろう』
「確かに、あなたの穢れは強大過ぎて今の私では祓いきれない。だけど、時間をかけてなら……私達ならあなたの穢れを祓いきれます!」
私達? ジェイクはどういうことだ? と首を傾げるがユーカ達はどうやら理解しているようだ。
ユーカ達のことを見てノアは一度頷く。
そして、ヨハネスへと手をかざす。
「守人たるノアがあなたの穢れを祓うため、聖樹の力を持って封印します!!」
『聖樹だと? なっ!? なんだこれは……!?』
今までのように祓うのではなく、光はヨハネスを包み込んでいく。
ヨハネスは抵抗しているようだが、包み込んでいる光によって無力と化している。
「封印です。大き過ぎる穢れは、私と聖樹の力を合わせて時間をかけて祓っていくんです。あなたは、聖樹の中で溜め過ぎた穢れを浄化していく。聖樹の中にいる限り穢れはあなたには注がれない」
『ならば俺は抵抗し続けよう。俺は、いずれ復活する。その聖樹とやらを俺の穢れで穢し尽くしてやろう!』
「できますかね? 魂だけの存在であるあなたに」
更に力を加える。
光はヨハネスを完全に包み音さえも封じていく。
『いずれ俺は―――かつ―――てやる! ―――って―ろ!! ふは―――』
完全にヨハネスの声が聞こえなくなったところで、ノアはその光の球をそっと手にし小さな小瓶に入れた。
「これで終わりです。もう、魂達が穢されることはないです」
「お疲れ様。研究者としては貴重なデータを見れたよ。とはいえ……このことは表には公害しないほうがよさそうだね~」
「そうしてくれると嬉しいです。もし、他の人間が聖樹の存在に気づいたら大変なことになりそうなので」
「任せたまえ! ハージェさんは、重要な約束はしっかり守るほうですから!」
重要じゃなければ、守らないのか? と不安になる言葉だった。
「ふふ。……さて、後は順番待ちだった魂さん達の穢れを祓います!」
「ねえ、こっちはどうするの?」
メアリスが言うのは、まだ目を覚まさないダンジョンの精霊のことだ。
ずっと精魂達が護っていてくれたのだが……。
「ヨハネスに魂を喰らわれたって言ってたよね」
「はい。おそらく、今漂っている魂達のいくつかが精霊さんの魂でしょう」
「魂を戻すことはできないの?」
もうヨハネスはいない。
穢れを祓うことが出来れば、魂を戻しても大丈夫なはずだ。だが、どうやって魂を戻せばいいのだろうか?
「できます。ですが……このままではこのダンジョンに縛られっぱなしになります。なので、私に良い考えがあります」
「良い考え?」
お任せください、と笑顔で答える。
☆・・・・・
「おお……これが外。そして、聖樹。なかなか、良いじゃないか!!」
「自由になれてよかったですね、セイ」
「うむ。ダンジョンに縛られないというのは、なかなかいいものだ。自由! なんて素晴らしいんだ!!」
ダンジョンの精霊は、ノアの提案によってダンジョンから出ることが出来た。
ついでに名前も貰ったようだ。
自由になれたことで、非常にテンションが上がっている。
あのぐったりした状態が嘘のようだ。
「聖樹の力ってすごいですねぇ」
ノアの良い考えとは、聖樹の力によって包み込むということだ。
聖樹の力によって、ダンジョンに縛られていたセイは他の繋がりを持ったおかげでダンジョンから聖樹までの範囲内なら自由に動けるようになった。
ノアも内心では成功するのか不安だったらしいが、成功してよかったと安堵している。
が、それでも決められた範囲内でしか行動ができないために完全なる自由ではない。
そのことをセイはしっかりと理解している。
理解しているうえで、いつかは本当の自由になれるように模索していくようだ。
「お前達にも感謝している。お前達に出会わなければ、私はずっとあのダンジョンの中で途方も無い時を過ごしていただろう……」
「いや、なんていうか……俺は、ダンジョンを壊してしまったんだが」
ヨハネスとの戦いの余波で、ダンジョンは半壊状態。
感謝をされても、こちらは罪悪感があり素直に受け取れない。しかし、セイは気にするなと笑顔で返してくる。
「あのダンジョンは、私が生まれた場所ではあるがなにすぐに修復させてみせる。私は、ダンジョンの精霊なのだからな! それに、今の私は孤独ではない」
小さく笑い、足元にいる精魂達を見る。
ずっと気を失っていたセイを護り続けていた精魂達だ。これからは、仲間として同じ時を過ごしていくのだろう。
セイは自由と仲間を得た。
もう、寂しくは無いだろう。
「そうか……」
「それで、魂喰いは?」
魂喰いヨハネスの魂は、現在聖樹の中にて穢れを浄化し続けている。聖樹の中に居る限りは周囲から穢れを吸収することはできないだろうが……油断はできない。
そのためにも、守人としてノアが。そして、セイも管理役としてこれからは過ごしていくらしい。
「現段階では、まだ暴れてはいないですね。戦いでかなり消耗しているようですから」
「てことは、いつかは暴れるってことだよね? 大丈夫? ノア」
「大丈夫ですよ。今の私は、守人としての新の力に目覚めていますし、セイも精魂達も手伝ってくれます」
「任せてもらう。仮にも私は精霊だからな!」
「頑張る! 頑張る!」
それなら安心、か? と思ったところでハージェが声を上げる。
「私も、しばらくの間は手伝わせてもらえないかな? なに、警戒することはないさ。ハージェさんは、ただこれからの守人がどう時代を築き上げていくのかこの目で見てみたいだけなんだ。それに、色々と知識は必要だと思うわけで」
「私は構わないのですが……」
「うむ! うれしい返事感謝!」
「だが、ハージェ。帰らなくてもいいのか?」
手伝うにしてもまずは一度帰った後でも、と提案したのだが。
「大丈夫だ。すでに部下達には連絡してある。まだしばらくは帰れない。研究のほうは、副主任に任せたとね」
「相変わらずそういうところは早いわね……」
「じゃあ、僕達は」
「このまま旅立つ前も言ったと思うけど、私は一人でも帰れる。心配することはなーい!」
ハッ! とう! その場で不思議な踊りをして大丈夫だとアピールするハージェ。
彼女は、レベル80を超える魔法使いだ。
遠距離の職業とはいえ、そう簡単にはやられることはないだろう。本人も、そういうのであればこちらもそれを尊重する。
「わかった。それじゃ、俺達はこのまま旅を続ける。……ノア」
「はい」
「短い間だったが、本当の娘が出来たみたいで、楽しかった。またいつか会えるまで、お別れだ」
「……こちらこそ、楽しかったです。今思えば、私達にとって親という存在はないようなものでした。だから……本当のパパができたようで、嬉しかったです。あなたの優しい温もりを、これからずっと忘れません」
ぎゅっと、ジェイクに抱きつくノア。
それを自然に優しく包み込み、頭をそっと撫でるジェイク。
しばらくして、ノアは静かにジェイクから離れ笑顔で別れの言葉を告げる。
「それでは、皆さん! 本当に、お世話になりました。皆さんの旅の無事を聖樹達と共に祈っています。どうか、お元気で……いってらっしゃいです!!」
「ああ、行ってきます!!」
「またね! ノアちゃん! それにセイも!!」
「ハージェ! あんまり馬鹿なことはしないでよ? 同じ魔法使いとして恥ずかしいから!」
「精魂達も、元気でね! 旅が終わったらまた立ち寄るから!!」
四十年前に滅びた守人の里シルティーヌは、滅んではいなかった。いや、復活したのか? 生き残った守人と精魂達。そして精霊。さらに聖樹を中心にこれから新たな守人の里が誕生することだろう。
ジェイク達も、彼女達の無事を祈りまだ見ぬ出会いと戦いを求め旅立っていく。
いずれは……創造神アダーを倒すために。
まだまだ旅は続いていく。
次回から新章ですが、実は風邪を引いてしまい今週はもう投稿できるかわかりません。
早くて来週の月曜日? でしょうか。
早めに直せるように努力してみます。では、新章で!