第四十四話
抜き取られた魂を手に、ジェイクはふうっと安堵の息を漏らす。
「もうひとつの魂だと? そんなもの俺には……」
『それは私が結界を張っていたからだ。魂喰い……君は、どうやら一度に複数の魂を見ることはできないようだね』
「なんだ貴様は……」
ジェイクが手にしている魂は点滅しながら言葉を紡ぐ。
どうなっているのか。
ヨハネスはもちろんのこと、仲間であるユーカ達も疑問符を浮かべている。
『私は、先ほどもジェイクが言ったがもうひとつ魂。まあ……簡単に言えば、私はジェイクに倒されひとつになり力を分け与えている存在、と覚えて頂ければいい』
「俺も最初はこんな奴がいるとは思っていなかったんだがな。だが、こいつのおかげで俺は魂を抜かれることがなかったし。今まで以上の力を出せれることができている」
『まだ繋がりが浅いから、直接会える時間は少ないからこうして外に出れたのは中々いいことだ。しかし……そろそろジェイクの体に戻らないと私も消えてしまう』
その言葉の通りに、更に激しく点滅し消えかかっている。
「せっかく会えたのにな」
『会える時間が増えるように絆を深めればいいだけだ。また話せる日を楽しみにしているよジェイク=オルフィス』
「ああ。またな」
別れの挨拶をして、己の体に魂を入れる。
「まさか、二つも魂があるとは予想外だった……予想外だったが……俄然貴様の魂を喰らいたくなったぞ!! 喰わせろおお!!!」
膨れ上がる魔力。
剥がれる眼帯。
今まで隠れていた目が露になった。燃えている……炎のように、いやあれは魂に似ている。
ヨハネスの魂がジェイクの魂を喰らいたいと輝いているのだろうか。
「力が暴走しているみたいね、あの怪物」
「しかも、周りを見て。溢れ出た魂が、魔物みたいに……」
「あの魂達も元々、精霊や人間だったんだよね……もう助からないのかな?」
ジェイクの周りに集まったユーカ達。
ヨハネスから溢れ出た魂は、形を変え魔物のようになっている。明らかに、こちらを狙っている。もう倒す他無いのか?
そう思っていたところへノアが前に出る。
「大丈夫です。彼等は……私が救ってみせます」
「ノア?」
「ふふ、驚きましたか? 今の私が本当のノアなんです。パパ」
最初出会った時の幼さは消え、少し大人びた言葉遣いをするノア。
いったい何があったのか? それを聞きたいが、記憶だけは全て取り戻したようだ。
「それで、どうするんだ? ノア」
「まずあの魂達を、倒してください。彼等は元は魂。倒しても完全には消えません。ですが、魂喰いにより汚された負の力は消えません。それを浄化するのが……私。守人の仕事です」
そういうことなら、とジェイク達は武器を構える。
「さあ、魂達よ! やつらを殺せぇ!!!」
ヨハネスの命に従い、魔物と化した魂が牙を剥く。
四足歩行と二足歩行など、二種の獣達がバラバラに攻めてくる。ひとつに固まっているジェイク達は、視線を一瞬合わせ頷き、駆けた。
「今日はちょっと接近戦もやってみようかしら、ね!!」
傘を畳んだまま、闇を纏わせ剣の要領で振るうメアリス。今までは、遠距離から魔法を放つ魔法使いだったが今回だけは、接近戦もできるというところを見せているようだ。
「私は、変わらず遠距離からいくよ!! 《ストーン・アサルト》!!」
対し、ユーカは遠距離からいつものように魔法を放つ。
マジフォンから放出された魔力が石の弾丸となり、敵を貫く。
「いくよ、ジェイク!」
「ああ!」
そして、ジェイクとネロが同時に敵を切り裂いていく。
次々に元の魂だけの存在と化していく敵だったが、最初に倒して魂がまた邪悪なオーラを発し形を変えようとしている。
このままでは埒が明かない。
「ノア! 浄化は?!」
「任せてください!!」
最初に倒した魂達をひとつに集め、ノアは手をかざす。
精神を集中させ、体中のマナを解放。
溢れ出るマナが邪悪な力に侵されている魂を包み込んでいく。
「穢れし魂達よ、私の名はノア。その穢れ、守人の力をもって清めん。安らぎの風を、共に運ぼう……さあ、解放の時です!!」
呪文を唱え終わると、魂を侵していた穢れが次々に取り祓われていく。
穢れを取り祓われた魂達は、気のせいかノアに感謝をしているように見えた。
魂は、大地へと吸い込まれていき消えていく。
「ふう……成功です」
「貴様……! 何をした!?」
「あなたに侵された魂の穢れを取り祓ったです。これが守人の……私の力!」
ヨハネスは、信じられないものを見ている顔だ。
「やったね! ノアちゃん!」
「ええ。見なさい、あの顔。あなたの力が、そうさせたのよ」
「穢された魂も、後少し。ジェイク! 後は……」
「ヨハネスを倒すだけ。さあ、あと一息だ!」
やはり、仲間の力はいいものだ。
もし一人だけだったら、どこまでも復活する穢された魂を永遠に倒し続けることになっていただろう。
だが、ノアにこれほどの力があったとは……。
「予想外のことが続いたが……今の俺は、そう簡単には倒せんぞ!! 我が名はヨハネス=D=アウロスタ! 穢れし魂の集合体!! 少女よ! 貴様の浄化の術があろうと俺の穢れは浄化できんぞ!!」
「そうでしょうか? やってみたいことにはわかりませんよ?」
なにか秘策があるのか? そうだとしたら、こちらは全力でヨハネスを倒すだけを考えればいいだけのこと。
「ユーカ! メアリス! ネロ! 残りの魂達は任せた! 俺は」
「ええ。わかっているわ。やっちゃいなさい。リーダー」
「頑張ってください! ジェイクさん!」
「僕達は周りの敵をどうにかするよ」
「パパ! ヨハネスを倒して、魂達に自由を!!」
仲間の応援を受け、ジェイクは前に出る。
待ち構えるは、穢れた魂の集合体ヨハネスだが……疑問に思っている。穢れているとはいえ、魂の集合体だ。
それなのに、同じ魂を喰らう。
その理由は? 同じ魂として、穢れていない魂に何か思うところがあったのだろうか。
「決着をつけてやる、ヨハネス」
「ならば、俺は貴様の魂を必ず喰らってやる。俺は魂喰い……昔も今も何も変わらん!」
「なんでそこまで……お前も魂の集合体。魂そのものなんだろ?」
「ふっ……知れたこと。喰らいたいから喰らう! 俺は、穢れ無き魂を見ていると穢したくて堪らんのだ!!! あぁ、想像しただけで高揚する! 穢れ無き魂が俺の体内で徐々に穢れていく様を、考えるだけでな。貴様の魂も、穢してやる。そのために……死ぬがよい!!!」
完全に暴走している。
獣だ。
獲物を喰らいたいだけの獣。
ジェイクの魂を、狙っている。魂が魂を喰らいたいという気持ち……ジェイクにはわからない。だが、ヨハネスが穢れた魂の集合体ならば解放してやりたい。
その想いを刃に込めて、ジェイクは駆けた。