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第四十三話

「くっはっはっはっは!! やるではないか! 人間風情が!!」


 ダンジョン内は、もはや半壊状態。

 ダンジョンの精霊は、今でもぐったりとしているが精魂達が自分のマナをわずかばかり分けたおかげで消滅することは無いだろう。

 ジェイクも、精霊のことを考えてヨハネスをうまく誘導している。


 いくつもの魂を喰らったことで大分力を取り戻したヨハネスの猛攻は止むことは無い。

 あれだけ複雑だったダンジョンの道々も、今ではいくつもの部屋が広がっている。


「人間をあまりなめないほうがいい!!」

「言うではないか! しかし、貴様……本当にただの人間か? この俺とこれほど渡り合える人間など一度も見たことがない。それに、貴様からは変わった魂を感じる」

「……それは、俺がこの世界の人間じゃないからだ」


 ほう? と興味を示した表情で剣を一度下げる。

 怒涛の攻撃は止み、静寂に包まれるダンジョン内。

 しかし、ジェイクは警戒を怠ることは無い。


「この世界の人間ではない、ということは貴様は異世界人か?」

「俺はイルディミアの人間だ」

「どういうことだ?」

「……俺は、もうひとつのイルディミアからここに来た。一度は命を落とし、こうして第二の人生を歩んでいる」

「もうひとつのイルディミア……面白いことを言う。まあ、それが真実でなくとも俺には関係ないこと。その魂、俺が喰らってやる。どんな味がするか実に楽しみだ……!」


 表情が、声音が変わった。

 高揚している。

 ヨハネスにとっては、目の前に極上の食事があるようなものなのだろう。


「喰らえるものなら……喰らってみろ!」

「そうさせてもらう!!」


 荒ぶる剣撃の火花。

 この二人を止める者は、ダンジョン内にはいない。ただ、どちらが倒れるまでこの攻防は止まらないだろう。


「ヨハネス! お前はどうしてそこまで魂を喰らう!」

「俺が魂喰いだからに決まっている!! それ以上の理由があると思うか!?」


 確かに、ヨハネスの行動は生物が食事をするのと同じなのだろう。 

 そこに食べ物があるから。

 空腹だから。

 生物にとって食べるというのは、生まれもっての行動のひとつ。ジェイクとて、生きるために食べ物を口にしている。


「貴様とて、魂を喰らっているようなものではないか! 牛の! 魚の! 鳥の命を奪い栄養分として食している! 違うか?!」

「確かに、俺達は生きるために生物の命を奪い食べている……だが! 俺達は感謝を忘れない。命を分け与えてくれて、ありがとう……その命を糧に俺達は!」

「はっはっは!! 綺麗事だな!! なにが感謝だ! 素直に命を喰らう喜びを感じればいいではないか! だが、感謝か……ならば俺は、貴様らには感謝しているぞ! 貴様らが、命を奪えば奪うほど……新鮮な魂が生まれるのだからな!!」


 その魂が大地に帰ることなく、新たな命を生むことなく……喰らわれる。

 そんなことはもうさせない。

 ここで終わらせるんだ。

 もう魂が喰らわれることがないように。


「お前にもう魂は魂は喰らわせない!」

「む?」


 激しいぶつかり合いは、ジェイクの次の行動で一変した。

 ヨハネスの視界から一瞬にして消え、背後を取る。


「あまい!!」


 が、それはヨハネスには読まれていた。

 素早い回し蹴りがジェイクを捉える。

 しかし……それは空を切り、ジェイクの姿もまた消えた。


「なに!?」

「たあっ!!」

「ぐあッ!?」


 先ほどのジェイクは、高速で動いたことによる残像のようなものだった。本当のジェイクは、真横。鋭い蹴りを貰ったヨハネスは勢い良く吹き飛ぶ。


「まだまだ!!」


 それを逃すことなく、追撃。

 先ほどの一撃で、相当なダメージを貰ったことでもう受けるわけにはいかないと剣を構えるヨハネスであったが、ジェイクのほうが早かった。

 剣を弾き、顔面を右手で鷲掴みにする。


「な、なにを」

「こうするんだ!!」


 血を、魔力を吸う。

 体の異変に気づいたヨハネスは、それを振り払う。


「貴様……なにをした?」

「お前の血と魔力を吸わせて貰った……さあ、ここから一気に攻めるぞ。ヨハネス!!」


 髪の毛の色が、変化していく。

 徐々に赤く染まっていくが、中途半端で止まった。


「やはり、貴様は人間ではないようだな。それにさっきの一撃は、痛かった……まともなダメージを受けたのは久しぶりだ! ゆえに、俺も少し本気でいかせて―――」

「らあっ!!」

「ぐは!?」


 話を聞くつもりはない。

 そんな一撃だった。

 完璧に油断をしていたのか。ヨハネスはまともに拳を受ける。


「き、貴様……話の途中で」

「お前の話を聞いている暇はねぇ!」

「ぐお!?」


 怒涛のラッシュ。

 荒々しい性格になったジェイクは、敵の話など聞くことはないほどに攻撃を繰り出す。


「いい加減に……しろおおっ!!」


 ジェイクを弾くために、体中から黒き稲光が発現する。体中に打撃を受けたヨハネスは、息を荒げ睨みつけている。


「くっくっく……なかなか楽しませてくれる人間だ。全快でないとはいえ、俺にここまでダメージを与えるとは……ぐっ」

「さあ、そろそろ終わりにしてやるよヨハネス」


 床に突き刺していた剣を手に取り、剣先を突きつけた。


「……ふっ。なら、これでどうだ? 人間!!」


 くるか? と構えたが、まったく予想しえない方向へと走り去っていく。

 いったいなにを……最初はわからなかった。

 だが、戦っている内に最初に部屋に戻ってきていることに気づく。つまり、ヨハネスが向かったところは……魂を奪われ、ぐったりしている精霊のところ。


「させるか!!」


 全力で跳び距離を詰め、剣を振り下ろす。


「ふはは! やはり、人間というのは単純で助かる!!」

「ぐっ!」


 ヨハネスは、振り下ろされた剣を片腕で防ぎ、空いた腕から黒き雷を放つ。


「きた! きた!!」


 精魂達により、防御壁を張られ護られているが……それでも、いつまで耐えられるか。


「余所見をしている場合か!!」

「しまっ!?」


 精霊と精魂達の心配をしていた隙を狙われ、床に押し付けられる。


「貴様の魂……貰うぞ!」

「ジェイクさん!!」

「パパ!!」


 ユーカ、ノアの声が聞こえたが、次の瞬間。

 ジェイクの体に、ヨハネスの腕が入り込む。


「かはっ!?」

「これだ!!」


 そして、魂を……抜かれた。


「おお……これが貴様の魂か。なんと良き輝きよ!」


 光り輝く魂を掲げ、にやっと笑っている。

 ユーカ達は、唖然としていた。

 言葉が出てこない。

 目の前で、頼りになるリーダーが、仲間から魂が抜かれたのだから。


「ジェイクさんの魂が……」

「取り返さないと!!」

「ふははは!! まさか、戻ってくるとはな! やはり、人というのは単純で愚かな存在だ!!」

「―――それは違うな」

「なっ!?」


 魂を抜かれ、動くことはないと思っていたジェイクが動いた。

 刃が、体を切り裂きその反動で抜かれた魂が手から離れる。


「き、貴様……なぜ動ける?! 魂は確かに」


 よろよろと血を流し離れていくヨハネスは、目の前で起きている現状を理解できていない。


「残念だが、お前は抜いた魂は俺のじゃない。こいつは……俺の中にあるもうひとつの魂だ」

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