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第四十二話

「ところで、ハージェ。出口の方向はこっちでいいのかしら?」

「え?」

「いや、ハージェさんしか出口の場所を知らないんですよ?」


 逃げろと言われたが、ダンジョン内をではないだろう。

 魂喰いからノアを遠ざけるにはやはりダンジョンから出るしかない。だが、ユーカもメアリスもネロももちろんノアも出口の場所を知らない。


 しかし、唯一知っているのはハージェだ。

 先頭を走っているのもハージェ。

 ユーカ達は、ハージェを信じて進んでいたのだが……。


「……」

「ねえ、あなたしか出口を知らないのよ?」

「あーうん。大丈夫だいじょぶー。ちゃーんと覚えてるー」


 すごく不安になってしまう。

 そんな言い方だ。

 ハージェはノアから地図を貰い、立ち止まって確認し始める。


「……こっちかな?」

「かな? じゃないわよ。本当に大丈夫なんでしょうね? 今は、ボケている場合じゃないのよ」

「大丈夫だよ。私は、真面目な時はすごく真面目だからさ」


 キリッと表情を変えるハージェに、ユーカとメアリスはただただ不安が膨らむばかりだった。

 それから進むこと数十分。

 何も無い壁だ。

 まだ道が続いており、出口がありそうなところではない。


「えーっと、確かこの辺りに……あれ? ここじゃなかったかな」


 壁にべたべたと触り、何かを探している。

 ユーカ達は、ただそれを見守っているだけ。


「何を探してるの? ハージェ」


 さすがに心配になってきたネロは、ハージェの背中に声をかける。


「んー? 実はこの辺りにボタンがあったんだけど……お、これだ! ポチっとな」


 がこんっと壁の一部凹む。

 すると、壁だったところが扉となり開いていく。


「本当に出口があったんだ……」

「ハージェさんは嘘ついてなかっただろ?」

「だったらもうちょっと自信をもって言いなさい。あなたは、変なところでいい加減なんだから」

「ほーい。まあ、ともかく早く逃げようじゃないか。このダンジョンも―――うおっ!?」


 言いかけた刹那、ダンジョン内が大きく振動する。

 まるで大きな力同士がぶつかり合っているかのように。感じる……今、ジェイクは魂喰いヨハネスと戦っているのを。


「ここまで振動が来るなんて……ジェイク、だんだん人間離れしてきてない?」


 もう大分距離が離れているはずなのに……ジェイクは自称人間だと言っているが、ここまで影響を及ぼす力は、もはや人間の域を超えている。


「うーん、確かに普通の人間にしては……」


 思い返してみれば、どの戦いも人間離れをしていた。

 頼りになるから、あまり気にはしていなかったが……。相手の血や魔力を吸い取り、自分の力に変換したり。十メートル以上もある巨体の一撃を片腕で受け止めたり……。


「ま、それだけ頼りになるってことでしょ? とりあえず、外に出るとしようじゃないか。……ノアは何かを感じ取っているみたいだぞ? 諸君」

「え? ノアちゃんが?」


 すでにノアだけが外に出ており先のほうを見詰めている。


「ノア。どうしたの?」

「……聞こえる」

「聞こえる?」


 何がだろう? とユーカとメアリスは見詰め合う。


「声が……聞こえる。こっちだって。早く……早くって」


 何かに導かれるかのようにノアは進んでいく。

 まさか、他にも精魂がいるのか? 自分達には聞こえない声。ノアだけに語りかけている声。ユーカ達はノアを見失わないように静かに後を追っていく。


「ねえ、メアリス。もしかして、あの時も」


 あの時。

 それは、ノアが突然家の二階から飛び降り一人で進んでいったことを言っているのだろう。あの時は、精魂達と出会った。

 もしかすると今回も、そうなんじゃないかとユーカは考えているようだ。

 確かにその可能性は高い。

 ノアはまだ記憶の全てを思い出したわけではない。その失われている記憶は、精魂達と出会って少しだが思い出すことが出来た。


「……ええ。ノアは徐々に記憶を取り戻しつつあるわ。この先に居るなにかと出会えばノアの記憶が完全に復活するかもしれないわね」

「うむ……確かに、守人の防衛術はある一定の条件を満たせば解除されると言われている」

「その条件っていうのは?」

「それがいまだにわからないのだよ。ゆえに、調査を進めているのだが……」


 ようやくわかりそうだ。

 嬉しそうな表情でノアを見詰めるハージェ。今は大変な時だというのに、これだから研究者は……とメアリスはため息を漏らす。


「それにしても、大丈夫進んだね。ここからはあまり生物が出入りしていない区域みたいだ」


 ネロの言葉の通り、この辺り一帯はあまり生物が出入りしていない区域。

 草木も他のところよりも生い茂り、道という道が無い。

 だが、それでもノアは進んでいる。

 道なき道を。


「む? なんだあの緑色の光は……」

「まさか、ノアを呼んでいる人があの光を?」

「不思議な光ね……とりあえず用心していきましょう」


 辿り着いたのは、光り輝く大樹がある広々とした空間だった。

 ノアは、その木をしばらく見詰めた後、ゆっくりと進んでいく。ユーカ達も、遅れず続いていくが……突然ひとつの光がノアの目の前に落ちてくる。


「あなたは?」

「やっときてくれましたね。ずっと呼びかけていたのに……やっぱり、守人の防衛術は強力だったってことなのですかね……」


 精魂のようだ。

 だが、なにやらノアの声に似ている。今までの精魂達と違い、長のように人間らしく喋っている。


「……まさか!?」

「長さんは気づいてくれましたね。そう、私です」

「……」

「どういうことなんですか? 長さん」


 他の精魂達は、ダンジョンの精霊についているが長だけはノアについてきていた。一人……いや、一体だけリ目の前に精魂を理解している長に問いかける。


「か、彼女は……ノアです」

「え? でも、ここにノアは」

「混乱するのは、わかります。ですが、わたしもノアなんですよ。わたしは簡単に説明すれば防衛術により抜け落ちた守人としての力、なんですよ」


 ということは、自分達と一緒に居るノアは守人の力がないただの人間? しかし、今までも守人としての力らしきものを出してきた。


「じゃあ、あなたは元に戻るためにこっちのノアを呼んでいたの?」

「そうです。ずっとわたしはここの聖樹に隠れながら本体を呼んでいたと言う事なんですよ」


 聖樹? と光り輝く大樹を見詰める。


「この樹は、精魂達の安息の地とも言われる場所なんですよ。ですが、魂喰いに気づかれてはいけないと思った聖樹はしばらく力を顰めていたんだです」

「それがどうして?」

「……わたしという特殊な守人が現れたからです」

「特殊な守人? ノアちゃんは、どんな力を持っているの?」

「それは……」


 精魂なノアから語られた特殊な力。

 それは、全ての精魂や魂の救いとなる。

 そんな……力だった。


「―――ということなんです」

「じゃあ、その力を使えば魂喰いは」

「はい。ですから、わたしの本体! いますぐわたしとひとつになって魂喰いの元に!」


 ぴょんぴょんっと人間としてのノアへと近づいていく。


「うん……!」


 決心した表情で、そっと拾い上げ優しく抱きしめる。


「ですが、それは魂喰いを倒さなければ……」

「それは大丈夫」


 くるっと振り向き、ノアは笑顔で答えた。


「パパが……きっと倒してくれるから!!」


 刹那。

 精魂が輝き、ノアを包み込んでいった。

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