第四十話
様々な出来事を越えた末、ようやくジェイク達はユーカ達と合流することができた。ユーカ達にも、魂食いのことを説明し、後はその魂喰いをどうにかするだけ。
ここから逃げ出したとしても、必ずノアを狙ってくるはずだ。
もし、ノアを諦めたとしても精魂達や無関係な魂達が捕食される。
「さて、このまま私は出口まで君達を案内するが……少々厄介なことになっているので説明しておこうと思う」
「厄介なこと?」
なんとなくだが、その厄介なことが予想できた。
深刻そうな表情で、ダンジョンの精霊は説明する。
「うむ。お前達が言っていた魂喰いだったか? そいつが、ダンジョンの出口付近をうろうろしているんだ」
「それは本当なのですか!?」
「ああ、本当だともさ長殿。先ほど、ハージェさんが確認してきた。実は、出口らしきところまでこのハージェさんは近づいていたのだよ。そして、いち早く奴の気配を察知して見つからないように、ということだ」
一度、魂喰いを見ているハージェが言うのであれば正しいだろう。
「私も実際魂喰いとやらを確認したが……まああれは確かに、ジェイク=オルフィスの言うように我々精霊や精魂にとっては強敵かもしれないな」
ダンジョンを出ようにも、魂喰いが出口付近でうろついているということは迂闊には動けない。
しかし、ダンジョンに入ってこないということはまだこのダンジョンを見つけていないということ。
それならば……。
「ダンジョンの精霊。出口はひとつだけなのか?」
他に出口があれば、そこから出れば何とかなるだろう。
まずは、魂喰いとノアを鉢合わせないことを最優先に考えるべきだ。
「残念ながら、入り口は複数あるが出口はひとつだけなんだ」
「やっぱり、そううまくはいきませんよね……」
「これは、魂喰いとやらがうまい具合に出口から遠ざかってくれるのを祈るしかないわね」
そう願いたいが、あの感じではいずれこのダンジョンの存在も気づいてしまう可能性が高い。
このままダンジョンに居座るのも時間の問題だ。
「……ふむ。ではこうしようじゃないか」
どうすればいい? 重い空気の中、ダンジョンの精霊が提案を申し出す。
「今から、もうひとつの出口を作る。そこから、お前達が出れば問題はないだろう」
「今から作れるの?!」
「もちろんだ。私を誰だと思っている? ダンジョンの精霊だぞ。多少時間はかかるが、新たな出口を作ることはできる。お前達がダンジョンに入ってきた落とし穴式入り口も、後付で私が作ったのだからな」
それならば、いけるはずだ。
最終手段として、ジェイクは魂喰いを倒すというのを考えていたが……未知数の相手に突っ込むのは無謀だ。
未だに力が弱まっている相手とて油断は出来ない。
弱気だと言われようとも、それでやられるのであれば弱気であったほうがいい。
人生は一度しかない……ジェイクは、アルスにより生き返らせられたが本来であれば一度命を落とせばそれまでだ。
毎回のように、神々に復活させてもらえるわけではない。
昔、魂を呼び戻す術師が居るという噂は聞いたことがあるが……それも本当かどうか信じられない話だ。実際、蘇っている者達は神々により転生させられた者ばかり。
「よし。なら、なるべく魂喰いから離れた位置に出口を作ってくれ」
「任せてくれ。奴がいる場所から一番離れた場所に出口を作ってみせる。だが……その後は、お前達次第だ」
その後。
もし、気づかれずにダンジョンから出られたとしても、いずれは見つかる。
疲労をしている今の状態で会うよりはマシだ。
出口ができるまで、できるだけ体力を回復しておく。
もしダンジョンが見つかったとしてもすぐには見つかることは無いだろう。
「わかっている。何が何でもノアは護ってみせる」
「パパ……」
「それならいい。私も協力してやりたいが、生憎とダンジョンからは出られないのでな。もし出られたとしても弱体化が激しいだろう……あーあ、悲しい体質だなぁ」
深いため息を漏らしながら精霊は再び姿を消す。
出口が出来るまで、どれくらいかかるのかを出来れば伝えて欲しかったが。
「出口が出来るまでだけど……私、ずっと気になっていたのよ」
「何を?」
精霊がいなくなり最初に口を開いたのはメアリスだった。
ノアのことをじっと見詰めこう言う。
「話を聞く限り、その魂喰いはノアを狙っている。だけど、腹を空かせているなら別にノアに拘る必要はないんじゃない?」
「確かに……魂喰いは、精魂以外にも微精霊や死して尚さまよっている魂も喰らうんだよね?」
「うむ。四十年前、シルティーヌを襲った時もどこかでさまよっていた魂を喰らいながら現れました……」
微精霊や人の魂などは、簡単に見えるものではない。
見えないものには見えない。
ユーカも最初は微精霊が見えていなかったが、今では普通に見えている。
「僕なら、いくらそれが凄くおいしいって言っても餓死するよりは、小さいものでも腹を満たそうって食べちゃうけどなぁ……」
「ふむ……それなんだが、ハージェさんの予想を聞いてくれないかな?」
「あなたの予想?」
ノアをそこまでしつこく狙う理由。
ハージェは心当たりがあるというのか? 皆の視線が集まる中ハージェはノアに抱きつき叫んだ。
「おそらく奴は……ロリコンなんだよ!!!」
「―――はい?」
「えっと……え?」
「パパ。ロリコンってなに?」
「あなた……本気でそれ、言ってるの?」
真面目な空気を一瞬にしてぶち壊すハージェの一言。
ロリコン。
聞いたことが無い言葉だ。最初、魂喰いに出会った時もハージェはそんなことを言っていたような気がする。
その意味を知らないノアにジェイクは問いかけられるが、ジェイクもその意味を知らない。
反応を見る限り、ユーカやメアリスは知っているようだが。
「うむ、本気だとも。いいかね? 奴は、こう言った。珠のような肌。触れればぷにっとしそうな頬……普通、魂だけが目的ならこんなことは言わないっしょ?」
そう説明しつつ、ハージェはノアの頬を人差し指で突いている。
言われて考えれば、魂だけならばそんなことを言う必要はない。
「でもねぇ……もし、ロリコンだって理由だけで追ってくるならそれただの変態じゃない」
「ユーカ。ロリコンは、変態の一種なのか?」
「え? あ、まあ……そう、ですかねぇ……うーん、なんて説明すればいいんでしょうか。つまりですね! ロリコンっていうのは、小さな女の子が好きな人達ってことです!」
なるほど、そういうことか。
まだ説明不足なところがあると思われるが、大体は理解した。そのロリコンである魂喰いがノアを狙っている。
それは魂だけではなく……。
「それは危険だな。ハージェ。もし、そのロリコンというのにノアが捕まった場合はどうなってしまうんだ?」
「そうだねぇ……最悪の場合」
最悪の場合? 少し間を置き、ハージェは答えた。
「ノアちゃんは、汚されてしまう。身も……心も」
「まあ……うん。かもしれないわねー」
「あははは。と、兎に角! ノアを護るのには変わりないんだ! 相手がロリコンだろうと。ね?」
そうだな……と、皆静かに頷く。