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第三十六話

「待て!」


 それは、ユーカ達が穴に落ちたという場所に向かっている最中だった。

 ジェイクは、何者かの気配を感じ取り足を止める。


「そこに隠れている奴。俺達に、何か用か?」

「ほう。我が気配に気づくとは……貴様、相当のやり手のようだな」

「出た!? 出た!?」

「あいつ! あいつだよ!!」


 精魂達が、今までにない焦りを見せている。

 ということは、今物陰から出てきたマントの黒髪の男が【魂喰い】ということか。全身が黒い衣服で包まれており、黄色や赤色がよいアクセントとなっている。

 左目だけを眼帯で隠しており、真紅の右目でジェイクを睨む。


「また会ったな、精魂どもよ。どうやらあの活きのいい少女はいないようだが……」

「この子達を喰らおうというのなら容赦はしないよ」


 精魂達の前に経ち、刀を抜くネロ。

 ジェイクも動揺に剣を抜き、いつでも戦えるように整えていた。ハージェは後ろで、魂喰いのことを観察している。


「ふう。まったく、血の気の多い連中だ。俺は、別に戦いに来たわけではない」


 やれやれ、と首を横に振りため息を吐く。

 とはいえ、相手が精魂を狙う者。

 しかも、四十年前から存在しているという話が本当ならば……彼の若さ。もしかすれば、魔族という可能性もある。

 最悪のことを考えて剣を抜くことは間違いではない。


「では、何をしにきたんだね? 魂喰い」


 ハージェが尋ねると、ばさっとマントを翻し叫んだ。


「あの少女! あの少女を喰らいにきたのだ!!」

「ノアを……? それは、あの子が守人だからか!」

「それもある! しかし、あの少女からは他の守人とは違った力を感じ取った。その力の正体を暴いたうえで、俺は……」


 ふるふると体を震わせ、次に顔を上げた魂喰いは頬を染め高揚していた。


「少女のより濃い魂を喰らい、力を高めるのだ!!!」

「ほう。貴様は、魂を喰らうことで己の力に換えることができるのか?」

「その通り。俺は、今まで数え切れない魂を喰らい力を高めてきた。そんな俺の目標は……神! 神の領域に達することなのだ!!」


 神の領域まで、という言葉にハージェはふむっと頷き口を開ける。


「それで、魂喰い。ちみは、四十年間……いや、それ以上の間に魂を喰らいどこまで力を高めてきたのだね?」

「ふっ。聞いて驚くがいい。神一歩手前まで到達!!」


 そこまでもう……!? ジェイク達に衝撃が走る。


「しているかもしれない」

「かもしれないなんだ……びっくりしたぁ」

「驚くのも無理はない。俺自身、どこまで強くなったなどあまり理解していないのだからな。それに、実を言うとここ十数年とある理由で深い眠りについていた」


 どこまで、人間離れしているんだ。

 十数年も眠りにつくということは、まったく食事をせずにということだろう。その間、用をたすこともなくずっと……。


「なので、俺はひどく腹が減っている! そこへ現れたあの少女! 珠のような肌。触れればぷにっとしそうな頬……何よりもこの俺から二度も逃げ切った力!! さぞ、濃厚な魂なのだろうとずっと探しているのだが……おい、精魂ども。あの少女がどこにいるか教えるがいい。さすれば、二匹だけで我慢してやる」


 完全に、ノアを付け狙っている。

 幸い、ノアはこの場には居ないが。あの目からは、決して諦めない執着心が感じられる。ここで、倒しておかなければならない。


「これは、別の意味でやばい奴のようだ。もしかするとロリコンかもしれない」

「なんだ、それは?」


 聞き慣れない言葉だ。

 しかし、意味がわからなくともなんとなくやばい奴の呼称だということは理解できた。そんな奴にノアを会わせるわけにはいかない。


「意味は、後で教えてあげるともさ。それよりも……話が本当なら、今が奴を倒すチャンスかもしれない」


 数十年の眠りから目覚め腹を空かせている。

 精魂の話も繋げると、奴はまだまともな食事が出来ていない。となれば、思うように力が出せない状態かもしれないということだ・


 まだ、未知数な相手ではあるが。

 やれる時にやるのが、一番だ。


「さて、この場にはあの少女はいないようだし。俺は、捜索に戻らせて貰うぞ」


 そういい振り向いた刹那。


「―――なんのつもりだ?」


 飛び出したネロ。

 最速なる一閃を打ち込んだ。それなのに……容易に防がれてしまった。それも鞘に剣を収めたままでだ。

 ネロの刀の切れ味は、ジェイクもよく知っている。

 岩はもちろんのこと、分厚い鋼鉄すらも切り裂くあの刃で傷つけることができない鞘。なによりも、驚くべきことは振り向くことなくネロの一撃を防いだことだ。


「そう簡単に、あの子のところへは行かせないよってことだよ!」

「おっと」


 刃を防がれたが、そのまま鋭い蹴りを繰り出す。


「あれも避けて見せるか……」


 ネロの攻撃が悉くいなされている


「俺は、捜索で忙しいんだ。ゆえに……少々乱暴に突破させてもらうぞ」


 彼が言葉を呟き剣に手を添えた瞬間。

 周りに稲光が走る。

 これは―――やばい! そう直感したジェイクは、ネロの前に飛び出し魔刃を発生させ魂喰いへと振り下ろした。


「暗黒雷光刃!!!」

「ハアアッ!!」


 高密度の黒い雷が、爆発したかのように刃から発生しジェイク達を襲う。

 いち早く技の危険度に気づき防御に徹したため、少し痺れる程度で済んだが……。


「―――逃げたか」

「ジェイク、大丈夫?」

「ああ。少しでも、防御が遅れていれば……ああなっていただろうな」

「おー、黒焦げだね~」


 魂喰いが居たはずの場所から半径十メートルほどの地面の雑草が消滅、または黒焦げになっていた。


「いくぞ、二人とも。俺達が先にノアを見つけ出すんだ!」


 剣を鞘に収め、ジェイクは走り出す。

 寝起きだから、腹を空かせているから弱っている。そんなことを微塵も感じさせないこの力。魂喰いをノアに近づけさせるわけにはいかない。


「ひゃっはー!! そうはさせねぇぞ!!」

「はい、そこでストップ!」

「っと、なんだお前達は」


 ジェイク達の進行を邪魔するかのように、現れた男女。

 どちらとも、明らかに獣人だ。

 大きな耳と尻尾。鋭い犬歯を煌かせ二本のナイフで威嚇している。


 そして、女のほうはおそらく猫。

 男の耳よりも僅かながら小さく、尻尾も細い。武器は、腕に装着している鉤爪。どちらも、素早さを重視した戦闘スタイルなのだろう。


「ここから先は、俺達を倒してからにしてもらおうか?」

「あの方の食事の邪魔は私たちが、させない。あの一撃を防いだ強敵だろうとね」

「邪魔者まで置いていくとは、なかなか隙がない奴みたいだね~。これはハージェさんも力を貸しておこうかなぁっと」


 さすがのハージェも、魂喰いの実力は本物だと判断したのだろう。  

 目つきを鋭く、魔力を練り上げ始めた。


「悪いが、俺達も急いでいる。最悪……腕や足が使えなくなるかもしれないぞ」


 ネロですら、一瞬だが身震いしてしまうほどの気迫。

 今までジェイクと共に戦ってきて、これほどのものを感じたことはなかった。


「おーお、結構いい殺気を出すじゃねぇか。そうでなくちゃ面白くねぇ。なあ、ティナ」

「ええ、コウガ。私達を、普通の獣人だと思っていたら怪我するのは、あなた達よ!」


 ―――待っていろ、ノア!


 振り抜く剣に想いを込め、ジェイクは獣人二人とぶつかり合う。

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