表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/162

第三十三話

「ノア! ちょっと待ちなさい!」

「ノアちゃん!」


 まるで、誰かに操られているかのようにユーカ達の声など聞く耳持たず。

 ただ前へ前へと進んでいく。

 まったく……とメアリスは、闇を使い無理やりにでも止めに入った。足元から、細長い闇がノアの足を取り転ばしてでも止めた。


「あうっ!」

「だ、大丈夫? ノアちゃん。もう、メアリス。ちょっと乱暴だよ、止め方」

「仕方ないでしょ。ああでもしない止まらなさそうだったのよ」


 顔から倒れたノアを、ユーカは助け起す。

 鼻がちょっと赤いようだが、それ以外に目立った傷はない。メアリスなりに、配慮はしていたようだ。


「あ、あれ? わたしは……」

「覚えてない? ノアちゃん、裸足のままどこかに行こうとしていたんだよ」

「……覚えてない」


 意識を取り戻したノアは、自分がどうして外にいるのか覚えていないようだ。

 やはり、誰かに操られていた。そう考えるのが妥当だろう。


「ともかく、何事もなければいいのよ。さ、早く……ユーカ」

「う、うん。私も感じた。誰か見てる。それも一人じゃない、よね?」


 ノアが無事だと確認した。

 早くジェイク達のところへ戻ろう。そう思った矢先、誰かが茂みの中から見ているのに気づく。


「ふふ。あなたも成長したわね。それじゃ、こちらを見ているのが善か悪かわかる?」

「え、えっと……悪じゃない、と思う」

「正解よ。あなた達! 出てきなさい! 私達は敵じゃないわ!」


 こちらを見ている者達からは、邪悪な気配を感じない。

 むしろ聖なる力を感じるように思える。

 メアリスは闇を極めし者ゆえに、聖なる力には特に敏感なのだ。がさがさと、音をたて姿を現したのは……発光した毛玉のような存在。

 邪悪な存在ではないと思ってはいたが、実際に現れた存在を見てメアリスは唖然とする。


「ノア、ノア」

「ノアだ。ノアだ」

「ノアのことを知っている……あなた達、何者なの?」


 ノアの周りにわらわらと集まる毛玉達。

 どうやら、彼女のことを知っているようだが……。


「ノア、覚えてない? ノア」

「……精魂?」

「精魂? それって、微精霊の集合体よね? これが?」


 メアリスも書物などでは読んだことがある。精霊は、マナの集合体。自然そのものと言ってもいい存在だ。

 その中でも、最下位にあたる微精霊。

 その微精霊が集合し、形と成した存在を精魂という。大昔に存在を確認されてから、誰もが見ることがなくなったと書物には記されていたが……。


「そうです。我々は、微精霊の集合体。そして、ノアは我々の仲間なのです」


 精魂の中から、現れた滑らかに喋る精魂。

 他の精魂と違い、髭のようなものが生えていた。おそらく、この精魂がリーダー格に違いない。


「あなたは?」

「わしは、精魂の中でも長く生きてきた精魂。そして……守人の長老を勤めていたものです」




★・・・・・




 ユーカ達が突然いなくなった。

 それを探しに行こうとしたところ。ユーカ達側から戻ってきてくれた。しかも、見慣れない客人を連れて。

 ジェイク達は、事情を聞きなるほどと頷く。


「つまり、守人という存在は精魂が姿を変えていた仮初の姿。今は、その姿になれず森の中に隠れていた」

「どうして守人の姿になれなくなったの?」

「それは……【魂喰い】のせいです」


 テーブルの上で長老精魂は、語る。

 どうしてこんなことになったのか。

 魂喰いの存在について。


「奴は、精霊や幽霊、漂う魂などマナの集合体を好んで食す存在です。噂程度だったのですが、四十年前のある日……奴は突然現れ、我々守人を襲いました」

「そんなやつがいるのか」

「世界はまだ私達の知らないことばかりってことね。私も結構長生きだけど、そんなのがいたなんて初耳よ」


 ジェイクも、八十年も生きて初めて魂喰いという存在を知った。

 いや、もしかすればここがパラレルワールドだからこその存在なのかもしれない。


「我々をどこで精魂だと知ったのかは語っていませんでしたが、奴はひどく腹を空かせていたようで有無を言わず我々の仲間を……」

「それが四十年前シルティーヌが滅んだ謎。それで、その魂喰いが再び現れたって本当なの?」

「はい。やつの目を盗みなんとか我々だけが逃げ切ったのですが……」


 もう奴が現れることはないと油断し、森で遊んでいた仲間が偶然にも魂喰いと遭遇してしまった。ノアは仲間を護るために記憶が失うほど体を張った。

 今では、中間達と出会い少しではあるが記憶が蘇っている。

 この調子ならば、全て思い出すにも時間の問題だろう。


「ところで、ノアって何者なんだい? 守人は四十年前に……君達を残して」

「ノア、倒れてた」

「ノア、傷だらけだった」

「ふむ……ノアは、半年前にこの森に傷だらけで倒れていたのです。最初は、ただの人間かと思ったのですが」


 守人の力をなぜか使えた。

 守人の力とは、つまり精霊の力ということだ。微精霊とはいえ、集合体。ほとんど精霊と言ってもいいだろう。

 その守人の力を使えるということは……ノアは。


「うーん、謎が解けていくんだけど、増えていく謎も多いですね」

「ああ。だが、ノアを狙っている敵は魂喰い。そして、俺達のやるべきことはわかった。そうだろ? 皆」


 ジェイクの問いかけに、ユーカ達は力強く頷く。

 自分達はここに調査のためやってきた。

 しかし、調査はもうほとんど終わったといっていいだろう。四十年前に滅んだ守人の謎。そして、最近になって現れた謎の力の波動。


 そのほとんどをハージェは知ることが出来た。

 さっそくハージェはマジフォンにその全てを打ち込んでいる。調査が終わり、後は帰るだけ……ではない。

 このまま魂喰いを放っておけば、生き残った守人もノアも。そして他の精霊達なども無事ではすまないだろう。


「今回も中々面白そうな展開になってきたわ」

「さ、ユーカ。グリードゥアで成長したその力で、今回も頑張ろうね」

「もちろんだよ。成長した私の力は、誰かを護るために使う。そう決めていたからね」


 三人ともやる気は十分だ。

 自分も、グリードゥアの時はほとんど見ているだけだったような気がするため、今回はノアを精魂たちを護るために力を振るおう。


「ふわあぁ……」

「おっと。そういえばもう夜も遅いな。皆、明日に備えて早めに休んでおこう。見張りは俺がしておく」


 ノアの欠伸に、そろそろ就寝の時間だと気がつく。

 寝不足になってしまっては、勝てるものも勝てない。

 とはいえ、魂喰いという存在がいるのであれば油断はできない。見張りはしっかりしておかなければならない。


「我々も微力ながら共に見張りをいたしましょう。我々には、眠るというものはあまり意味がないので」

「助かる。だったら、見張りをしながら色々と聞かせてくれ。守人のことを」

「わかった! わかった!」

「話す! 話す!!」


 その場でぴょんぴょん跳ねるその姿を見て、微笑ましく思ってしまう。

 これは、今回の見張りは楽しいものになりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ