第十一話
自称闇の賢者と名乗る少女メアリスと出会ったジェイクとユーカは、なんだかんだあり一緒に行動することになった。
元々メアリスは、気ままな旅を続けながら闇の良さを世の中に広めようと考えていたようだ。一目で闇属性の使い手だと見破ったジェイクにメアリスは興味を持ったらしく今も尚闇について語っている。
「いい? 闇っていうのは、一般的には悪いイメージが多いけど。実際は、とても安心できる優しい力なのよ」
「優しい力、か」
ジェイクが初めて見た闇属性使いは、メアリスとは違う解釈を持っていた。闇は、どんな属性よりも強く、そして全てを飲み込む。
それが闇だと。
「ええ。私が闇というものを知ったのは五歳の時だったわ。当時は、生まれもっての闇の力に覚醒していなかった私は、普通の女の子。可愛いお洋服を着こんでお人形のように過ごしていたわ」
「い、いったい何歳なの? メアリスって……」
「それは秘密よ。謎が多いほうが闇っぽくていいでしょ?」
「そ、そうなの、かなぁ?」
この世界には、見た目と年齢が合わない種族は多い。代表的なのはエルフ族だろう。エルフ族は、人間族よりも長く生き、その容姿もある程度成長すると止まってしまうようだ。
そして、年齢をドンドン重ねていき、いつの間にか百歳を越えるなど当たり前。エルフ族は、耳が尖っているのが特徴的なのだが……メアリスは普通の耳だ。
人間とそう変わらない丸みを帯びた。
「話を続けるわ。そんなお人形のような私が闇と出会ったのは、六歳になった誕生日。祖父の家の中にある書庫で一冊の本を見つけたの。その本の題名は……〈闇深き世界〉」
「その本って、確かちょっと大人向けの絵本だよね?」
「へぇ。そんな絵本があるのか」
ジェイクが知る限りでは、絵本とは子供向けのものしかなかったはず。
時が経てば、大人向けというものも出るものかのか。
「そうよ。でもね、当時の私はそれはもうその本に熱中していたわ。それからよ。私が闇の力に目覚めたのは……そう。あれは運命だったの。闇という力が私をあの本のところへ導いてくれたのよ」
ここまでの会話を聞く限り、メアリスは本格的に闇というものを愛している。だからこそ、こうして太陽の日差しを防ぐために傘を差し、身に纏っている服も黒なのだうか? だが、幼少期から属性に目覚めているというのはかなりの才能ある証拠だ。
「語りが一区切りしたところで質問なんだが」
「あら? なにかしら」
「メアリスの職業はなんだ?」
あのスキルを見る限り、魔法使いの上級職業で【高位魔法使い】だと推測できるが。
「いいわ。特別に教えてあげる。私の職業は……【暗黒魔導師】よ」
「……なんだって?」
「暗黒魔導師? そんな職業ありましたっけ」
ジェイクもユーカも聞きなれない職業の名前を聞き、首を傾げる。だが、ジェイクは待てよ、と考える。自分にも【吸血剣士】といういつの間にかなっていた職業がある。
もしかすると、メアリスもこのパラレルワールドだけにしかない特別な職業なのかもしれない。
「あるのよ。私だけの特別な」
やはりそうか。
ジェイクはメアリスの言葉に、自分の予想が当たっていたことを確信した。こんなところにも仲間がいたのだと少し嬉しそうにジェイクは喋りだす。
「実は、俺も特別な職業なんだ」
「……そうなの?」
一瞬、驚いた素振りを見せたがすぐに冷静になったメアリス。
「吸血剣士っていう職業なんだ。まだ実際にどんな職業なのか全て把握はしていないんだけどな」
「へえ……」
「ちなみに! ジェイクさんは、レベルが100! 人間族で始めてレベル100になったあのジェイク=オルフィスなんだよ!」
と、なぜかユーカが自慢するようにメアリスに告げる。
何度も思うが、自分が伝説になっているだなんて気恥ずかしいものだ。
「フルネームを聞いた時点で、なんとなく予想はしていたけど。まさか、本物だったなんてね。……それにしても、私だけが特別だと思っていたのに」
「どうしたの?」
最後にぼぞっと何かを呟いたように聞こえたが、ジェイクにもユーカにもそれは聞こえなかった。問いかけるも「なんでもないわ」とそっぽを向く。
ただジェイクには、子供のように頬を膨らませ不機嫌そうな感じに見えた。
★・・・・・
次の街に行くには、再び森を抜けなくてはならない。
さすがに一日で抜けられなく、現在は野宿の準備に取り掛かっている。長年一人旅をして野宿ばかりの生活をしていたジェイクにとっては容易なことだった。
途中で採取した薬草を煎じ、旅立つ前に購入した鶏肉を加え軽いスープを作った。焚き火の上でぐつぐつと煮込まれており、ユーカは今にも食いつきそうな表情で待っている。
「ジェイクさんってこういう料理とか得意なんですか?」
「そうだなぁ……料理自体はあまり得意ではないな。ただ、こうやって野宿する時は自分で何とかしなくちゃならないから。鍋料理ぐらいは人並みにはできるようになったかな」
鍋料理ならば、それほどの料理スキルを持っていなくてもできる。
野宿をして、何度も作っているうちに上達はした。
最初は、採取した薬草やキノコ、調味料なんかの配分を間違ってひどいことになった記憶がある。
「そう言っている割には中々の手際だったわ。本格的に料理の練習をすれば、色々と作れるようになるんじゃない?」
「俺も一時期そう思ったけど。旅を続けているうちに、まず食べられればいいやって思ってきたんだよなぁ」
十分に煮込まれたスープをユーカから受け取った器に注く。
メアリスと自分の分も注ぎ終わるとスプーンを手に食した。
「あ~……体の芯から温まりますねぇ」
「薬草を入れたから、苦いと思っていたけど。そうでもないのね」
「俺が入れた薬草は『アルナ草』っていうもので。肉と一緒に煮込むといい具合に肉を柔らかくしてくれるんだ。肉料理とかではよく使われている薬草なんだ」
たまたま本で得た知識だったが、これが旅をしていると役立った。
アルナ草は、寒冷地でなければ多くの森で採取できる。
旅をしていれば自然と目に入り、手に入りやすい薬草のひとつなのだ。
「あ、そういえば。お母さんも肉料理を作る時によく薬草を使っていましたけど。あれはアルナ草だったんですね」
「ちなみに、アルナ草によく似ている『カルナ草』っていうのがあるんだが。それは、体を麻痺させる成分が入っているから調子に乗って乱獲していると痛い目に遭うんだ。俺の知っている中でも、被害にあった冒険者が結構いたっけなぁ」
はははっと思い出し笑いをするジェイクだったが、逆にユーカとメアリスは不安になり食べるのを止めてしまった。
「まさか……このスープには入っていないわよね?」
「もちろんだ。これでもアルナ草を採取して五十年は経っているんだぞ? アルナ草とカルナ草の見分け方は、この茎の部分がちょっと白ければアルナ草で白くなかったらカルナ草なんだ」
器を置き、不安がっている二人に残ったアルナ草を見せ、カルナ草との見分け方を教える。アルナ草とカルナ草は、三つ葉に分かれていて、葉の先がくるっと丸くなっている。
見分ける時は茎の色の違いを良く見ることが重要だ。
「そ、それならよかったです」
「すまんすまん。不安になるようなことを言った俺が悪かった。だけど、冒険者になったからにはこういう知識は必要だぞ? 二人とも」
「は、はい! しっかり頭に入れておきます!」
「そうね。片隅にでも記憶しておくわ」
不安がっていた二人だったが、スープを全て平らげてしまい作ったジェイクとしては嬉しい気分になった。