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第三十一話

 寝床になりそうな家に入ると、まず目に入ったのは大量の本だ。

 床に散らばっているものから、本棚に綺麗に並べられている本までさまざま。入り口付近に落ちていた本をジェイクは拾い上げる。

 タイトルは、海に住む魚図鑑。


「本が散らばっているけど、中はそこまで破損していないわね。これなら、なんとかなりそうだわ」

「そうだね。まずは、散らばっている本を片付けてから夕食の準備、かな」

「夕食は俺のほうで準備をしておく。ハージェはどうやら、また珍しいものを見つけてどこかに行ってしまったようだし」


 この家に来る途中、何かを見つけたようでユーカを無理やり連れてどこかへと行ってしまった。ユーカを助けてやりたかったが、全員でついていってしまっては宿の確保や夕食の準備などをする時間がなくなってしまう。

 ユーカには悪いが、無事でいることを祈るしかない。


「それじゃ、私とネロで家の中の本は片付けるわ。ジェイク。それにノア、夕食の準備お願いね」

「任せておけ。いこう、ノア。夕食は鍋だ。外で作るぞ」

「うん! わたしも手伝うね!」


 家の中の清掃はメアリス達に任せ、ジェイクとノアは外で鍋を作ることにした。

 具材を取り出し、まな板の上で切り分けていく。

 ノアにも手伝って貰おうとしたが、大丈夫だろうか? と覗いてみれば驚き。まるで普段から料理をしているかのように綺麗に具材を切り分けていた。


「すごいな、ノア。料理していたのか?」

「うーん、わからない。でもね、手が勝手に動いていたの」


 とはいえ、これで夕飯の準備は早めにできそうだ。

 ノアという予想外の戦力のおかげで、予定より早めに夕食ができたジェイクは、鍋をノアに任せてメアリス達の様子を見に行くことにした。


「おお、もう随分と片付いているんだな」

「あら。そっちはもう終わったの?」


 本棚に本を並べている最中のメアリスが、ジェイクのほうを向き首を傾げる。家の中を見るとネロの姿はない。

 どこへ行ったのだろう?


「ノアが思わぬ戦力になったからな。それで、ネロはどこに?」

「ネロなら二階に行ったわ。ほら、そこに階段があるでしょ? どうやら二階も結構散らかっているようよ。手伝うならそっちにしなさい。こっちはもう終わるから」

「そうしようかな。じゃあ、終わったらノアのことを頼めるか?」


 窓からノアの後ろ姿が見える。

 今は、楽しそうに揺れながら鍋の様子を見ているが、寂しがるかもしれない。


「ええ、わかったわ。でも、あなたも早く戻ってきなさいよ。ノアが一番懐いているのはあなたなんだから」

「……了解」




☆・・・・・




「もう、ハージェさん。早く皆のところに戻りましょうよ。ハージェさんが夕食の後に調査ーって言ったんじゃないですか」

「ふっふっふ……すまないねぇ。なんだかここは血が滾ってしょうがないのだよ!」


 ハージェに無理やり連れて来られたユーカは、興奮を抑えきれずに調査をしている彼女の後ろ姿を見詰めながら頭を抱える。

 今、彼女が調べているのは何の変哲のない焼け跡。

 円状で、地面に何か刻まれているように見える。


「……それって何をした痕なんですか?」

「ふむ。これは、まだ仮説なのだが……おそらく守人が何かしらの儀式をした痕だろうね。よく見てみたまえ。この地面に刻まれているが、魔法陣に見えないか?」


 言われて見れば……。

 ハージェの隣に並んで、一緒に焼け跡を見詰める。


「しかも、かなり最近に行われたようだ。まだマナの残留がある」

「じゃあ、その儀式を行ったのは……守人の生き残り?」

「それはわからないなぁ。もっと調べてみないことには」


 四十年前に滅んだはずの種族がまだ生きている。

 だが、この里に入ってからというもの人影を見ていない。もし、生き残りがいるとしたらジェイクやネロなど勘のいい者達が気づいているはずだ。


 そして、この焼け跡。

 何かの儀式ということは、ハージェが感じた力に関係するのだろうか。ユーカも必死に考えるが、まったくわからない。


「ほどほどにしてくださいね? ジェイクさん達のことですから、もう夕食の準備はできていると思いますし」

「わかっているともさ。私も、研究や調査に熱中して食事を忘れるなど愚かな行為はしない。……時々はするけど」


 最後の一言は聞かなかったことにしよう。

 そう思いながら、ユーカは周りの警戒に専念する。

 ハージェが調査している間は、自分が護衛だ。

 たまたま近くにいただけで連れて来られたが、任せられたからにはちゃんと勤めてみせる。


(……それにしても、あの大樹。なんだか不思議な感じがするな)


 周りを見渡しているとシルティーヌに来る前にも見えていた大樹が視界に入る。

 シルティーヌに辿り着いて更に近くに思えるが、里内には生えてはいないようだ。


「おお!! これは……!?」

「ど、どうしたんですか? ハージェさん。何かわかったんですか?」


 突然の大声に、体を反応するがすぐに冷静にハージェへと近づく。

 すると。


「わかったのだよ。どの術の魔法陣なのか。そして、どうして焦げているのか」

「どうして、なんですか?」


 ふむっと頷きその辺に落ちていた木の棒で魔法陣を再現するかのように書き上げていく。


「この魔法陣は、転移魔法の陣だ。そして、この焼け跡。おそらく、転移する時に強力な魔法を放たれたのだろう。その影響で地面が焦げてしまったのだ」

「じゃあ、その転移した人は?」


 思わず想像してしまう身震いをしてしまう。

 冷静に分析をしているハージェは、木の棒を持ったまま立ち上がり語る。


「転移魔法は、どの魔法の中でも特殊なもの。扱うのも難しければ、消費する魔力も桁違いに違う。そしてこの焼け跡の広さから考えると、放たれた魔法も相当な威力。おそらくは中級……いや下手をすれば上級もありえる」


 そんなものを食らってしまっては、その術者もタダではすまないだろう。

 そういえば、ノアは光の柱の下にいた。

 ハージェが言っていたが、あれはまるでどこからか転移してきたように見えたと。そして、ノアは守人……記憶喪失で、ジェイクを自己防衛のために親だと思い込んだのも、もしかすると。


「おーい! ユーカ! ハージェ!! 夕食ができたぞ!!」

「できたぞー!!」

「おっと。どうやら、そろそろ時間のようだ。あっちから迎えが来てしまった。戻るか?」

「は、はい。そうですね」


 予想が外れていなければ、ノアは誰かに襲われていた。

 そして、転移魔法で逃げる際にその者から攻撃を受けて……その衝撃で記憶喪失に。


「どうしたの?」


 ノアの横顔を覗いていると、視線が合ってしまった。


「う、ううん。なんでもないよ、ノアちゃん。それよりも、今日の夕食はなにかな?」

「鍋!!」

「おお、鍋! ジェイクさんの鍋が絶品なんだよ、ノアちゃん」

「そうなの!?」

「絶品は言い過ぎじゃないか?」

「そんなことないですよ~」


 何とか誤魔化すことに成功したが……もし、ノアを襲う者がまだ近くに居たら。 


(でも、私の予想なんて当たるのかな……)


 少し自信がないユーカ。

 もし、予想が外れていたらそれはそれで安心できるのだが。当たっていれば、とても危険な目に遭ってしまうだろう。

 が、確証はないとはいえ念のため夕食の後にでもジェイク達に話しておいたほうがいいだろう。

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