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第二十九話

短めです。

「パパ。はい、あーん」

「あ、あーん」

「おいしい?」

「あ、ああ。おいしいぞ」

「よかったぁ」

「……なにあれ」


 メアリスは奇妙な光景を見て、一言呟いた。

 それは、ジェイクが小さな女の子にサンドウィッチを食べさせられているという光景だ。本来であるなら、微笑ましいで済むのだろうが、そうも言っていられない。


 なぜなら、その女の子はジェイクのことをパパと呼んでいるからだ。

 歴史上で結婚したなど、そんな事実は記されておらず。

 ジェイク自身もそんな覚えはない。

 いや、もしかするとこの世界。パラレルワールドでのジェイク=オルフィスは、レベル上げの旅途中で誰かと結婚をし、子を授かっていたのかもしれないが。


「それにしても、小さい子だね。もし、ジェイクの本当の娘だったとしたら何歳の時に生まれたんだろうね」

「少なくとも、十歳……ぐらい? 十年前って、もうジェイクさんは」


 そう。ジェイクは何十年も前に死んでいる。

 だから今、ジェイクの膝の上に座っている女の子がジェイクの娘だというのは、ありえないのだ。もし、彼女が長寿の種族だとしても、幼すぎる。

 さらに、現在のジェイクを父親だと認識するということは彼女が今の姿で、今のジェイクを記憶していることになるのだ。


「ふむ。どうやら彼女は、一時的に危険回避のためジェイクを父親と認識しているみたいだねぇ」

「どういうこと? ハージェ」


 困惑するユーカ達の傍らで、棒つき飴を舐めながらふむふむと冷静に分析をしている。


「彼女の手の甲にある紋章があるっしょ?」

「見たことのないものがね」

「見たことがないのはしょうがない。それは、ある種族が自己防衛の時に発動する術式なのだよ」

「ある種族?」


 ジェイクと女の子もハージェを見詰め、首を傾げる。


「―――守人」

「守人って……え? この子が!?」


 これから向かうはずのシルティーヌに四十年も前にいた種族。それが、どうしてここに?


「ハージェさんもびっくりしているんだよ。生き残りをめにするなんてさ」

「君は、守人なのか?」

「もり、びと……? ……うっ」


 頭を両手で押さえ、苦しみだす女の子。

 どうやら、これも自己防衛のため記憶を呼び越せないようにしているのだろう。


「すまん。無理に思い出さなくても大丈夫だ」

「うぅ、パパぁ。頭痛いよぉ」


 本当の我が子のように抱きつく女の子の頭を撫でるジェイク。

 それを見て、微笑ましいと思うと同時にユーカは少し羨ましいと思ってしまう。


「えっと、お名前とかは言える?」


 いつまでも、君やあなたでは何かと不便だろう。

 そう思ったユーカは、小さく笑い怖がらせないように名前を聞いていく。女の子は、ジェイクに涙目で抱きつきながら静かに口を開いた。


「……ノア」


 美しい銀色の長い髪の毛。

 琥珀色の売るんだ瞳に、柔らかそうな頬。彼女に目が行くのは、長い髪の毛に絡み付いている蔓のようなものだ。

 これはいったいなんなのだろうか? と。


「ノアちゃんか。いい名前だね」

「えへへ」


 純粋な笑顔だ。

 自分の名前を褒められ、嬉しそうに笑うノア。

 ジェイク達も軽い自己紹介を終えて、シルティーヌへと向かうため動き出す。当然、ノアも一緒に行くことになる。

 ジェイクと手を繋ぎ、楽しそうに歩いている。


「親子……というよりも、兄妹に見えるわね。年齢的に」

「そうだね。今のジェイクはまだ十八歳だからね」


 後ろで、見ているメアリスとネロは仲良さそうに歩いている二人を見て小さく笑う。ノアはパパと呼んでいるが実際親子というよりも兄妹。

 事情を知らなくとも、多くの人達がそう思うだろう。


「そういえば、三人はさ。ジェイク=オルフィスのおっさんの姿って見たことある?」

「え? お、おっさん? それって三十代ぐらいのジェイクさんってこと?」


 突然、ハージェがジェイクの過去のことを話だす。

 そんな突然な問いに三人は真剣に考える。

 ジェイクの十代の姿は、今目の前にある。そして、老人の姿は歴史書を見れば掲載されている。

 だが……。


「考えてみれば、青年時代と老人時代の姿しかみたことがないわね」

「うん。僕も、歴史書はそこまでは読み込んでいないけど。その二つの時代の姿しか見たことがない、かな?」


 もちろんユーカもそうだ。

 ジェイクに詳しい友人ラヴィがいるが、ラヴィに聞いてみようかな? とマジフォンを取り出す。


「そう。ジェイク=オルフィスの姿は、青年と老人しか我々は知らない。それはなぜか? 中年時代のジェイクを見たものは多くいるそうだが、誰もが曖昧な記憶だったために掲載ができなかったという」


 青年の姿は、ジェイクが過去画家からの依頼をこなした報酬に似顔絵を描いてもらった画が残っていたために歴史書にも掲載することができたという。


「というわけで、想像してみよう! ジェイクのおっさん姿を!」

「いや、本人を目の前にそれは……」


 と、ユーカはジェイクに失礼だと思い遠慮がちだ。


「あら? 面白そうじゃない。想像するだけなら、別に迷惑にはならないわよ」

「うーん、僕も想像するのは結構好きだからやっちゃおうかなぁ」


 対してメアリスとネロはかなり乗り気である。

 遠慮がちなユーカに、ハージェはぐいっと顔を近づけ語る。


「気にならないのかい? ジェイクのおっさん姿。かなり渋くて今とはまた違ったかっこよさになっているかもしれないって想像してみたまえよ~。ほれほれ~」

「し、渋くて……かっこいい……」


 徐々に、徐々にユーカは頭の中で想像していく。

 三十代、四十代ぐらいのジェイクの姿を。


「おーい。お前達。なにやっているんだー! 置いていくぞー!」

「おいていくぞー!」

「は、はーい!! 今行きます!」


 完全に想像する前に、ジェイクとノアの呼ぶ声にハッと我に返り、慌てて駆け出すユーカ。


「ありゃま。いっちゃったねぇ。まあ、我々は楽しく想像しながら進もうじゃないか」

「そうね」

「ジェイクが渋いおじさんになるのか……僕も、大人になれば……」


 その後、ジェイクは何をやっていたんだ? と問いかけるも誰も答えてくれず、なんでもないと誤魔化されてしまう。

 仲間はずれにされたジェイクは、少し落ち込みそれをノアが慰めた。

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