第二十八話
「はあ……はあ……はあ……くっ!」
少女は、護る。
その身がボロボロになろうとも。
恐怖に怯えようとも。
「くはははは!! 抗うではないか、少女よ。そんなに、そやつらが大事か?」
「も、もちろん……です。なにせわたしは……守人、ですからね……!」
目の前で、少女を嘲笑う恐怖。
少女の後ろには、護るべき者達がいる。だが、少女だけではどうあっても護りきれない。周りは、緑豊かで、草木に覆われている森。
樹齢何百年もあるであろう大樹の根元の空間に、その者達は隠れている。
少女は、探していたのだ。
いつの間にか、いなくなっていた護るべき者達を。
数十分の捜索をかけ、ようやく発見したと思えば……恐怖が今にも襲いかかろうとしていたのだ。
「守人……嘘をつくのも大概にしておけ。その種族は、何十年も前に我が滅ぼした。生き残りなどいなくなるようにな」
鞘より、強靭なる刃を抜き放ち、男は語る。
守人という存在は、自分が根絶やしにしたことを。しかし、少女は首を横に振った。そんな話は、嘘だ。自分が生き残りだと否定するように。
「わからぬ奴よ。よかろう! ならば、貴様をここで八つ裂きにしてくれようぞ! 我が名は、絶望の星ヨハネス=D=アウロスタ!! 貴様が守人であるのなら、我が凶刃にて朽ち果てるがいい!!!」
凶刃を天に掲げ、ヨハネシアは叫ぶ。
黒き雷が飛来し、刃へと宿った。
凄まじい波動は、ボロボロで立っているのもやっとな少女を吹き飛ばさんとする。
(くっ……! まだこんな力が……! なんとかしたいけど、もう今のわたしには抗う力が残っていないです……こうなったら!)
今の自分では、ヨハネスには勝てない。
だから、今は。
「死ねぇ!!! 守人を名乗りし少女よ!!!」
「転移魔法……《テレポート》!!!」
「むっ?」
雷の刃が直撃する寸前だった。
少女は背後にいる護るべき者達と共にヨハネスの前から姿を消した。地面は抉れ、生えていた草はひとつ残らず消滅していた。
もし、少女がこれを直撃していたのであれば……死は逃れなかっただろう。
「逃げたか……しかし、奴は自分を守人だと言っていた。だとしたら奴の行く場所は……。くっくっく。なんとなく散歩をしていただけだと言うのに、良き獲物を発見できた」
刃を鞘に収め、不適に笑う。
そして、東南のほうへと振り向きゆっくりと足を進めた。
★・・・・・
「ハージェ。シルティーヌは後どれくらいで到着するんだ?」
魔法都市グリードゥアを旅立ち一日半が経つ。
グリードゥアで一時的に仲間になった魔法使いのハージェの調査を協力するために、現在四十年も前に滅んだとされる場所へ移動をしている最中。
ジェイクはもちろんのことユーカ達も場所がわからないため頼れるのは場所を唯一知っているハージェのみ。
昼食を取りながら、後どれくらいかかるのかを話し合っているところだ。
「んーっと、半日もあれば到着すると思うよ。……たぶん」
「たぶんって、場所を知っているのはハージェさんだけなんですからね。不安になるようなことは言わないでくださいよ」
「えへへ~。実際、私もそこに行くのは初めてだからね~」
ハージェは、魔法研究所に設置してある魔機の力で今までそこの観察をしていたようなのだ。そこから発せられる不思議な力がどんなものなのか。どのような波長なのかを飴を舐めながらという感じでやっていたと本人は言っている。
「それにしても、滅んだはずの里に何があるんだろうね?」
「うーむ。ハージェさんの予想では、守人の生き残りが里復興のため精霊達と共にえいやっさっさーってやってるんじゃないかと思う」
ぴり辛のソースをつけた分厚い肉とレタスが挟まったサンドウィッチを手に間違いないねっと語る。
「まあでも、精霊っぽい波動とはまた違った力も感知したんだよね」
「どんな波動なんだ?」
「うーん……なんていうか、禍々しい力ってやつ? 兎に角、聖なるものではないのは確かだね。あれだけ歪んだ反応だったからさ。もぐもぐ……お、うまい」
なるほど、と頷いたところで、視線の先に光の柱が天から降ってくるのをジェイクは目撃した。
「どうしたんですか? ジェイクさん」
「いや、向こうに光の柱のようなものが……」
「何かしら?」
「……様子を見てくる」
付き添いにネロを連れて、光の柱のあった場所へと近づいていく。もし、敵だった場合を想定していつでも戦えるように構え一歩また一歩と近づき……到着した。
「……女の子?」
そこには、女の子が倒れていた。
それもまだ幼い。
ユーカよりも、年下だろうか? それに手の甲には奇妙な紋章が。ひし形で、真ん中は十字が刻まれている。
「おい、大丈夫か?」
ネロに警戒を頼みつつ、女の子を抱き起こす。
随分と傷だらけだ。
誰かと戦っていたのか? まだ傷は真新しい。
「ん……」
よかった。すぐに目を覚ましてくれた。ほっと安堵の息を漏らすジェイクであったが、女の子の言葉に衝撃が走る。
「―――パパ……?」
「へ? ぱ、パパ? ……え!?」
驚きのあまり今まで出したことのない声で驚いてしまう。警戒をしていたネロでさえも、驚きで声が出ない状態だった。
というわけで、衝撃な一話で始まった七章。
次回は、明日になります。