第二十六話
《第一回魔機使い杯優勝者ユーカ=エルクラーク。君は、数々の魔機使いを倒し、頂点となった。賢者ウォルツがここにどの栄誉を称え、スキルチップを贈呈する。受け取るといい。優勝おめでとう》
《あ、ありがとうございます!!》
エルフェリア、ルーシアの登場により混乱が少しあった魔機使い杯だったが無事に閉会式を迎えることが出来た。
優勝者にスキルチップを贈呈するウォルツも、ジェイクが偶然切り裂いた宝玉が小動物に変えていたものだったことから今ではもう人間の姿に戻っている。
「ふふ、あの子無駄に緊張しているわね」
「これだけの人たちに見られて、それも今は魔法使いの憧れである人と面と向かっているからね。記帳しないほうが無理かもね、ユーカにとっては」
事態も収拾し、優勝者であるユーカは緊張をしながらも嬉しそうにスキルチップを握り締めている。
それからは、多くの魔法使い、戦ってきた魔機使いに見送られユーカはジェイク達と共にウォルツ邸へと帰っていく。
そして、優勝した祝いのパーティーが開かれることになった。エレナ、セレナを初めとしたメイド達が腕によりをかけた料理を振舞ってくれた。
今まで味わったことがない嬉しさに、ユーカは嬉死にしそうだと語った。
大会が終わった次の日、ユーカはグリードゥアを観光する前に会っておかなければならない者がいると寄り道をした。
その人物は……。
「……フォルスくん」
「お前か……」
大会で出会い、決勝戦で想いをぶつけ合った相手フォルスだ。
今は、病棟のベッドで治療中。
彼は【魔殺団】の一員だと判明したが、ユーカにより必死に訴え。彼はただ大会で魔機使いとして純粋に戦っていただけ。
エルフェリアに利用されていただけだと。
闘技場内で彼の試合を観ていた魔法使いや魔機使いもそれは良く知っている。フォルスの戦いを見て、少なくとも深いには思うことはなく、盛り上がったと好評だった。
ウォルツも、運営側もそれを考慮して治療を終え次第、彼の処遇を決めるそうだ。
「リビエ……エルフェリアとは、ここにくる途中で出会ったんだよね?」
「……ああ。【魔殺団】の一員として、グリードゥアへ来る途中でな。初めて会ったのに、なんだか昔からの仲のように思っていた自分がいた。今思えば、それもあいつの術だったんだろうな……」
包帯を体中に巻き、真っ白なベッドの上でフォルスは小さく笑う。
「でも大丈夫だよ。エルフェリアはもういない。それに、フォルスくんの処遇もそれほど重いものにはならないってウォルツ様が言っていたから」
「そうか……」
「……ねえ、フォルスくん」
「なんだ?」
窓から吹き込む風を感じながら、ユーカは問おうとした。
だが、言葉が詰まる。
本当は、どうしてあんなに魔法を憎んでいたのかと聞こうとしていた。
「―――えへへ。やっぱり、なんでもない。元気になったら、また一緒に戦おうね。今度は、憎しみとかそういうのなしで」
それじゃ! と言葉を飲み込みその場から去ろうとする。
「待て」
しかし、フォルスに止められる。
振り向くことなく背中を見せたまま、ユーカは立ち止まった。
「これだけは、言っておく」
「なに?」
数秒の間が空き、フォルスは静かに発言した。
「―――ありがとう。まだ魔法への憎しみは消えていないが、お前の魔法は……真っ直ぐで綺麗で、結構好きだった」
「……うん。こっちこそ、ありがとう。フォルスくんのような才能ある人と戦えて楽しかったよ」
「ふっ。才能ある、か。才能があるのは、お前のほうだと俺は思うがな……」
そんなことないよ、と小さく笑いユーカは病室から出て行く。
またどこかで会えたらいいなっと願って。
病棟から出ると、ジェイク、メアリス、ネロの三人が出迎えてくれた。
「もう用事は済んだのか?」
「はい。すみません、寄り道をしちゃって」
「気にしないの。それよりも、彼との別れは済んだのかしら?」
明日にはグリードゥアを旅立つ予定としている。
フォルスの容体は、ジェイク達も知っている。
ユーカとの戦闘の傷は明日にでも治るそうだが、記憶操作や肉体操作などエルフェリアに受けていた術の影響は、二日程度では完治することはないようだ。
「もちろん。さあ! 今日は思いっきりグリードゥアを観光するぞー!!」
「メアリス。案内よろしくね?」
「仕方ないわね。私の取って置きの場所へ案内してあげるわ」
「あんまり変なところへは連れて行くなよ?」
「……当然よ」
「え!? さっきの間はなに!?」
☆・・・・・
ジェイク達が、グリードゥアの街に繰り出した後、ウォルツは客室でハージェと出会っていた。
「おー、本当に人間に戻ってるんだ」
「ふっ。ようやくこれで俺のイケメンさで女の子を……!」
「それはないわー。正直、そのキモさ皆ひいてるよ?」
「なに!?」
などと会話をしながらも、本題へと入っていく。
本題とは、今回の【魔殺団】の件についてだ。
二年前の彼等は、確かに強かった。だが、今回に居たってはこちらが優勢だったのは事実。しかし、予想外のことがあった。
「まさか、天使様が絡んでいたとはね~」
紅茶を嗜みながら、ハージェは魔殺団を手引きしていた天使エルフェリアの存在を口に出す。
「ああ。しかもあのかわいい天使ちゃんは、どうやらあの見た目で五歳だって話だ。なんて犯罪級なんだと……」
エルフェリアのことに関しては、ジェイク達から詳しく教えて貰った。
彼女が、他の街でも悪さをしていたことも。
まだ生まれてから五年しか経っていない精神的には子供だということも。それを聞いた、エレナとハージェはウォルツを失望したような目で見詰める。
「確かに犯罪ですね」
「うむ。犯罪だねー。あの賢者ウォルツが五歳児にまでナンパをするなんて……これは、いくらなんでも」
「待て待て! 五歳だって知っていれば、ナンパなどしなかった!」
本当に? と二人は同時に首を傾げる。
「本当だとも! そ、そんなことよりも今後の事に関してだ」
これ以上攻められれば、二人には口では勝てないと思ったウォルツは無理やり話題を戻す。
「今後ねぇ。あ、そういえばハージェさん、明日からグリードゥアをしばらく空けることにするから」
「どういうことだ?」
「うーんとねぇ、実は前々から気になっていたところがあって観測し続けていたんだけど……つい最近になって、不可思議な力が働き始めているんだよねぇ。その調査に向かおうかなぁって思って」
ハージェの所属している魔法研究所では、魔法に関することはもちろんのこと。それ以外の不可思議な力に関しての研究もしている。
その所長が、ハージェだ。
彼女が直接調査に向かうほどだ。その調査場所は、かなり不思議な力で覆われているのだろう。
そう思ったウォルツは、手助けをしようとエレナに実力者を派遣しようと頼む。
「あ、そういうのはいいよ。ただ調べに行くだけだからさ。それに、明日は丁度良く一緒に行ってくれそうな人達がいるじゃんじゃん」
「なるほど。彼らなら、実力も確かだしいいかもしれないな」
「それで、調査する場所とは?」
エレナの問いに、ハージェはカップを置き答える。
「四十年前ほどに滅んだとされている守人の里……シルティーヌ」
おそらく次回で六章は終わりです。