第二十四話
「エルフェリア……!」
「やー! お久しぶりだね、おっぱい小さい人!」
「ち、小さくないよ! それなりにはあるよ!! って、そういうのはいいの。いや、よくないけど……」
エルフェリアの言葉に、困惑させられるユーカだが、すぐに起こった事態に冷静になれた。倒れていたフォルスが糸で操られているかのようにゆったりと体が起き上がったのだ。
手も足も使わずに。
「エルフェリア! フォルスくんに何をしたの?!」
「えー? 知りたいー? そんなに知りたいのー?」
相変わらず、挑発するような言い方だ。いや、実際に挑発している。が、そこはぐっと堪えて静かに、首を縦に振る。
「知りたいよ。今、フォルスくんを覆っている白い膜はなに?」
「これ? 君たちも知ってるでしょ? これはエルフェリアちゃん特製のちょー! 強くなれる天使の力。もし、失敗した時にはこうすることになっていたんだよね~」
それを聞いてユーカはあれかっと頭の中に思い浮かべる。
ファルネアの街の人々は、エルフェリアが謎の力を与えたせいで凶暴化し、街中は不安が広がった。ただただ痛みを感じず、暴れているだけの獣のような存在に。
それが、今フォルスに?
「むふふ~。エルフェリアちゃんのお仕事はここまで~。これにて、帰らせてもらうよ」
「どこに行こうというんだ!」
「大人しく降伏しろ!」
逃げようとしたエルフェリアを、魔法使い達が囲う。
いつでも魔法を放てるように詠唱はすんでいるようだ。数は、五人。彼等は何かしらの問題が起こった時に対処するため準備をしていた警備の魔法使い達だろう。
「ぶー! エルフェリアちゃんは、これでも忙しいの! それに、戦闘もあんまりしたくないんだけどな~」
そう言いつつ、エルフェリアは翼を広げ指を擦り音を響かせる。
「ぐああ!?」
「な、なんだこれは!?」
「う、動けない……力も……でな……くっ!」
鎖だ。
鎖が魔法使い達の足元から現れ拘束する。しかも、それはただの鎖ではないようだ。どうやら、力を奪われている様子。
「そこで大人しく跪いていてね~。エルフェリアちゃんは、その隙おさらばぁ」
「させるか!!」
「あああああああっぶないぃ!?」
逃げようとしたエルフェリアへジェイクの攻撃。
フィールドを覆っている結界は解かれているようだ。そのおかげで、ジェイクは観客席から侵入することができた。
転がるように、ジェイクの一閃を回避したエルフェリア。
が、それで終わらなかった。
「闇に食われなさい! 駄天使!!」
「ひゃあああっ!?」
回避した先で、闇に食われそうになる。
それもウサギが跳ぶように回避するも。
「逃がさないよ!」
「もうやだああっ!?」
ネロが立ち塞がるも、これも見事に回避。三人の攻撃を回避して見せたエルフェリアは、息切れをしながらも壁を背に立ち上がる。
「集団暴力はいけないことなんだぞ!!」
「人を操るのもいけないことだぞ、エルフェリア」
「エルフェリアちゃんはいいんだもーん!!」
「相変わらず、自分勝手でうるさい駄天使ね」
「誰が堕天使だー! 堕ちてなんかないもーん!!」
「意味合いが違うわ。私が言ったのは、駄目な天使で駄天使よ」
「ぐぬぬぬ……!」
メアリスに馬鹿にされたことで、涙目になって睨みつけている。メアリスはメアリスで、いい玩具が出来て嬉しそうな顔をしていた。
「エルフェリア。お前、いったい何をしようとしているんだ?」
「何を? そんなの、決まってるじゃん! 君達の邪魔だよ! 今まで、君達の行動はずっと観察してきたけど、もう我慢できなくて邪魔しにきたの! ジルハルト様は、大人しく観察してろーって言っていたけどさ!」
ジルハルト。その名を聞いて、ジェイクは表情を強張らせる。
この第二のイルディミアの創造神アダーの御使いにして、エルフェリアの上司と言ってもいい存在。このイルディミアの真実を語った存在。
ずっと、あの時から自分達のことを観察していたというのか。予想はしていたが、まったく気づくことが出来なかった。
「もう我慢の限界! というわけで、そこにいる魔法使いに恨みあがる少年を利用させてもらったってわけ! おーい! フォルスくん!! こいつらやっちゃってー!!」
…………だが、何も起こらなかった。
「あ、あれ? フォルスくーん? どうしたのー?!」
「彼にかけられたものなら、私がもう解いちゃったわよ」
「えええ!?」
その証拠に、白いオーラがなくなり、再びぐったりと地面に倒れているフォルスの姿があった。
「進歩のない駄天使ね。同じ手がずっと通用すると思っていたのかしら?」
「か、確実に強くなってる……私の光を完全にかき消しちゃうなんて……!」
とても悔しそうに拳を握り締めるエルフェリア。
が、それでは止まらない。
「こーなったら、最終手段を実行するー!!」
「最終手段?」
手を天へと掲げ、叫ぶ。
その名を。
自分を助けてくれる者の名を。
「ルーシアちゃーん!! 助けてー!!!」
刹那。
光の柱が天から落ち、エルフェリアの友達であり神を護る剣たる少女ルーシアが推参した。
「ルーシアちゃん! こいつら、私のこと虐めるんだよー!!」
虐めを受けた子供のようにルーシアに抱きつく。
「うん、ずっと見ていたからわかるよ。でも、あれはエルフェリアの詰めの甘さがいけないって思うな」
しかし、ルーシアはエルフェリアの頭を撫でながら彼女のせいだと発言。
さすがに予想外の言葉に、エルフェリアはショックを受けた表情に。
「ルーシアちゃんも虐めるの?!」
「虐めたりしないよ。ただ、見ていて思ったことを言っただけ。ちゃんと、エルフェリアのことは護るよ。任せて」
心優しい少女の表情から一変。
剣に手を添え、ジェイク達を睨みつける。
「また会ったね、ジェイク=オルフィス」
「ああ。できれば、俺のほうから会いに行きたかったんだがな」
「あら? 敵を口説く気?」
「い、いやそんなつもりで言ったわけじゃ……!」
わかってるわよ、と小さく笑うメアリスは続きをどうぞと進める。
「こほん……それで、ルーシア。お前はどうするつもりだ? お前が強いことは知っている。だが、周りをよく見るんだ」
周りには、まだ多くの魔法使い達、魔機使い達がジェイク達の会話を聞いている。今は、様子見と言ったところだろうが、この人数を一人で相手にするのは実力者でも相当きついものだろう。
「下手な行動は、身を滅ぼすってことだね。でも、私も馬鹿じゃない」
「どうするつもりなの?」
ネロの問いにルーシアは、行動で表した。
剣を鞘から抜く。
やはり戦うのか? とジェイク達も構えるが。
「こうする」
突然、剣を投げる。
投げたが……ジェイク達に向けてではない。闘技場の外へ投げたのだ。観客達も、ジェイク達も一体どこに投げているんだ? と首を傾げるも、ルーシアは意味深な笑みを浮かべエルフェリアを抱き寄せる。
「いくよ、エルフェリア」
「うん! ジェイク=オルフィス! そして、メアリス! 絶対この恨み忘れないからな!」
そう言った刹那、二人の姿が消えた。
転移魔法じゃない。
だが、確かに二人は目の前から消えたのだ。
「気配が……闘技場の外に?」
「まさか、あの投げた剣は移動のために?」
「くっ!」
完全にやられた。
ジェイクは、すぐに闘技場から出ていく。闘技場内は、まだ困惑した声が響きあっているが彼女達を逃がすわけにはいかない。
少しでも、彼女達から創造神アダーへの道の手がかりを。