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第十話

「【吸血剣士】ですかぁ。名前からすると、血を吸う剣士ですか? でも、血を吸って何になるんでしょうか?」

「単純に考えれば、自分の力になるだろうけど。それに見合ったスキルもいくつかあるんだよ」


 危険種を倒した森をあっという間に抜けたジェイクとユーカは、どこまでも広がっている草原を移動しながらジェイクの謎の職業について語り合っていた。

 このパラレルワールドに来る前のジェイクの職業は【闘剣士】だった。

 だが、改めて自分の職業を確認すると吸血剣士という見たことのない職業だったことに気づく。ユーカに聞いたところ、この世界の住人であるユーカですら聞いたことがない職業のようだ。


 ジェイクは、吸血剣士になったことでそれにあったスキルも覚えている。通常、職業によってスキルを覚えるにはある一定のレベルに上がれば習得できる。

 そして、スキルにもレベルがありそのレベルを上げるには得た経験値を使い自分で上げれることができるのだ。得た経験値を使うことで自分自身のレベルが下がるわけではないので安心。

 自分が使いやすかった、もしくは有効的に使えそうなスキルのレベルを上げるのが基本。


「そもそも、職業が勝手に変わっているっていうのが不思議なところなんだよな」

「私の知っている限りでは、レベル100になった剣士は【剣帝】と呼ばれる職業になっているそうです。ジェイクさんも本来だったら剣帝になっているはずですよね」


 ジェイクもそれは知っている。

 レベル100になることでしかなれない職業。剣士や魔法使い、弓使い、拳闘士などの高位職業となるのがユーカも言った剣帝などがそうだ。

 魔法使いだった場合は【賢者】となるように初期職業には高位職業がある。


「もしかしたら、レベル100になったと同時に死んでしまったから何か異変みたいなのが起こったのかもしれない」

「なるほど。確かにありえそうですね」


 それか、ここがパラレルワールドだからなのかもしれない。

 自分がレベル100となり死に、パラレルワールドに転生したことで本来あるはずのない職業へとなった。ユーカはここがパラレルワールドだと知っているのだろうか?


 ……いや、おそらく知らないだろう。

 自分が生まれた頃からずっと住んでいる世界を普通は似たような世界などとは思わない。誰かにそう言われる以外は。

 このことは今は、自分自身だけのうちに秘めておこう。

 彼女の純粋な冒険心を揺さぶらないために。


「けど、損ってことはないな。むしろ、この職業のスキルは今の俺にとってはどんなものなのか試したくてしょうがない」 


 元々、高位職業のスキルというものには興味があった。

 レベルが100のままということはこの吸血剣士も高位職業ということだ。誰もなっていないジェイクだけの高位職業。

 素直にわくわくが止まらない。


「楽しそうですね、ジェイクさん」

「もうレベル上げに必死にならなくてもいいんだ。素直に冒険や未知なるものに触れ、楽しむことにしているからな」

「正直なところ、私も高位職業のスキルを見たことがないので楽しみです!」


 そうと決まれば、魔物探しだ。

 今のところ、魔物の姿は見当たらない。魔物は、こうして歩いているだけで突然現れる。好戦的な魔物も多いが、近づかなければ襲ってこない魔物もいる。

 つまり無理して戦わなくてもいいということだ。


「ん? あそこにいるのって、人か。それに」

「ま、魔物に囲まれていますよ!? 大変です!!」


 ふと前を向くと、三十メートルほど先に傘を差した少女と少女を囲んでいるウルフェンの集団が目に入った。

 ウルフェンの数はざっと確認できるだけでも十は超えている。

 そして、囲まれている少女はユーカよりも小さく細い。

 というよりも幼いと言ってもいいだろう。


 薄い紫色の髪の毛に、黒が目立つドレスのような洋服を着込んでいる。普通なら怖がり慌てるところだが、少女はそんな素振りを見せずくるくると傘を回しながらその場に棒立ちしていた。

 あれは余裕の表れか? それとも本当は怖くてその場から動けないだけ?


「……」

「ジェイクさん、助けないと!」


 ユーカはマジフォンを取り出し、今にも駆け出しそうになるもジェイクは「まて」と手で制する。


「……あの子、動くぞ」

「え?」


 傘を回すのを止め、少女は傘を畳む。

 そして、一呼吸間が空き……動き出した。

 傘の先端でとんっと地面を突くと、一瞬のうちに周りを囲んでいたウルフェン全てに黒き光の槍が突き刺さる。


「す、すごい……!」

「あれは、まさか闇属性魔法?」


 ジェイクは一度見たことがある。 

 世界には基本の四属性、火、水、風、地の他にも様々な属性が存在している。その中でも、特別でさらに扱える者が少ないのが光属性と闇属性。


 職業別に覚えるスキルの中には、当然属性が付与されているものもある。

 スキルは、基本のものは全てのものが扱えるが。その者の才能なのか。よくその者しか覚えていないスキルなどが存在していた。


 その多くが基本の四属性など付与されていたが……光や闇属性などはあまり見ることはない。ジェイクが見たのは、二十代前半の頃だったと記憶している。

 あの禍々しいオーラがあの時の闇と同じだ。


「闇属性って、超レアな属性じゃないですか!」

「……近づいてみるか」


 ウルフェンは、経験値となり少女へと吸い込まれていく。

 再び傘を広げた少女にジェイクとユーカは近づいていった。気配に気づいたのか。少女は、ゆっくりとこちらに振り返り、青い瞳で見詰めてくる。


「私に何か用?」


 少し幼いが、とても聞きやすい透き通った声だ。


「さっきの魔法。闇属性か?」

「……へぇ。見ただけで、闇属性ってわかるなんて。あなた、見るのは初めてじゃないみたいね」


 ジェイクの言葉に、少し興味を示したのかくすっと微笑む。

 見た目は幼いが、雰囲気や言動などから貫禄があるように感じ取れる。まさかとは思うが、ジェイクと同じく見た目だけが若く年齢は……という風なのだろうか。


「前に一度だけな。あの禍々しいオーラは一度見たら忘れようとしても忘れられない」

「ひとつ訂正して。私の闇は禍々しいんじゃなくて、美しいって言うのよ。他の闇属性使いがどうかは私には関係ないけど」


 傘を一回転させ、ジェイクに人差し指を突きつける。

 どうやら、闇属性にかなりのこだわりがあるようだ。


「それは、悪かった。あ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は、ジェイク。ジェイク=オルフィスだ」

「私は、ユーカ=エルクラーク! まだ冒険者成り立てなんだ」


 お前は? と聞くと少女は少し考える素振りを見せたもすぐに口を開く。


「私は、メアリス=A=ラファトリア。闇属性をこよなく愛し、闇に生き、闇と共に世界を旅する闇の賢者よ」

「闇の賢者?」


 賢者というワードにジェイクは反応し、ユーカは質問を投げようとする。


「賢者ってことは」

「ちなみに、賢者と名乗っているけど。私はまだレベル100じゃないの。勘違いされる前に、言っておくわね」

「……」


 質問をしようとしていたユーカは見事にメアリスの説明に言葉を飲み込む。そんな姿を見て、意地悪そうに笑うメアリス。


「それで、何を言おうとしたのかしら?」

「あ、いえ。なんでも、ないですはい」


 一瞬、ジェイクもレベル100なのか? と質問しそうになったので危なかった。彼女のように、自称で名乗っている者も居るのだと勉強になったジェイクであった。

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