第二十一話
ちょっと短めです。
「ユーカはどうやら悩みは解消できたようだな。動きにキレが戻っていた」
「おかげさまで、決勝戦ね。相手は」
「フォルスって人だね。一回戦から、圧倒的な力で勝ち進んできている」
大会もいよいよ大詰め。
決勝戦を残すところだ
観客も、負けてしまった選手さえも大いに盛り上がっていた。決勝戦を戦うのは、ユーカとフォルス。かなり余力を残しているフォルスと、的確な魔法で順調に勝ち進んでいたユーカ。
実力から見たら、おそらくフォルスのほうが上だが。
ユーカはこの大会で、成長している。
簡単には負けることはないはずだ。
《お客様方ぁ!! お待たせしましたぁ!! いよいよ、第一回魔機使い杯も大詰め! ここまで、激戦を繰り広げ勝ち残った魔機使い二人による決勝戦を残すのみとなりましたぁ!!》
ズィーも、いつも以上にテンションが高い。
マイクをくるくると回しているのが何よりの証拠だ。
感情が行動に表れるというやつだろう。
ズィーのテンションにも、観客達は応え声を張り上げている。
《ありがとうございます!! いい盛り上がり具合です!! では、さっそく! 決勝戦を戦う魔機使い達をお呼びしましょう!! まずは、この人! 圧倒的な力で観客達を盛り上がらせた男! フォルス!!》
東側から、ゆっくりと現れるのはフォルス。
が、その瞳には何か強い意志のようなものを感じられる。
《続いてぇ! あのユーリ=エルクラークの妹! しかし、姉とは違った強さと人気を博したこの少女! ユーカ=エルクラーク!!》
「うおお!! ユーカちゃーん!!」
「絶対優勝してくれよぉ!!」
観客の声に手を振りながらも、西側の入り口から出てくるユーカ。すっかり人気者になってしまった。ジェイクにとっては嬉しいことなのだが。
「なんだかユーカも、決勝戦のせいなのか。いつも以上に気合が入ってるみたいだね」
「おー、ユーカちゃんは決勝戦に出場したようだねぇ」
「ハージェ……あなたがここに来たってことは」
「うむ。捕まえた奴らから情報を聞きだすことが出来たので、そのお知らせに。メールより直接話したほうが伝わりやすいと思ったのだよ」
突然現れた白衣の少女に、観客達は驚いていた。
この魔法都市グリードゥアでは、かなりの有名人なハージェ。観客達も、どうしてここに? と目を見開いている。
ちょっと失礼、と言ってジェイクの膝の上にハージェは座る。空いている席がないために、仕方ないといえば仕方ないこと。
二十歳は言っていると聞いていたが、背が低く幼い見た目のためまったく違和感がない不思議な光景。
「それで? なにかいい情報は聞け出せたの?」
「もちろん。あそこに、少年がいるでしょ?」
フォルスのことだろう。
彼がいったい……。
「あの子が、どうやらウォルツの命を狙っているようなんだよ」
軽く、とてつもなく軽く喋る。
周りの観客には聞こえないように、且つジェイク達には聞こえるような声量で。
「そのことを、ウォルツは?」
自然と三人の声も、小さくなる。
「知っているとも。この大会は、ウォルツを中心に主催しているからね。優勝賞品は、あいつが渡すことになっているのだよ」
「なるほどね。その時に、彼の命をってことか」
「けど、それは、優勝したらの話よ。彼の相手は……簡単には負けないわ」
その通りだ、と二人は頷く。
「でも、もしものことがあった場合も考えて、いつもでいけるように準備はしておきたまへよ~」
ぴょんっと膝の上から跳ね、去って行くハージェ。
試合は見ていかないのだろうか。
いや、もしかしたらウォルツ達と同じ場所で見るのかもしれない。
《両者、熱き炎が宿った瞳でにらみ合っています! これは、審判である俺も気合いを入れていかなくちゃならないようです! よっしゃあ!! 決勝戦! フォルス対ユーカ!! 試合……開始でーーすっ!!》
☆・・・・・
試合直前、ユーカは一緒に移動していたフォルスに緊張しているが、どこか自信がある表情で話しかけた。
「フォルスくん。いよいよ決勝戦だね」
「ああ」
「お互い、全力で戦おうね」
「ああ」
ユーカの言葉に、ただただ短く返事をするだけで振り向くことも立ち止まることもない。が、次のユーカの言葉にフォルスは、足を止めることになった。
「……絶対負けないからね。ウォルツ様の命も奪わせない」
「……やっぱり、聞いていたのはお前だったのか」
足を止め、振り返ったフォルスは今にも襲い掛かってきそうな気迫だ。
だけど、ユーカは負けない。
視線を外すことなく、真っ直ぐ見詰める。
「うん。盗み聞きをしたのは、ごめん。でも、どうして? どうして、ウォルツ様の命を狙おうだなんて思ってるの?」
「聞いていたのなら、わかっているだろ。賢者ウォルツは、魔法使いにとって憧れであり、希望だ。そいつをこの大勢の前で、殺すことで魔法使い達は……絶望するに違いない」
魔法使い達に絶望を与えるために? どうしてそんなことを。
「なんで、そんなことをするの? フォルスくんだって、用途は違うけど魔法使いの一人なんだよ」
「……俺は、魔法が嫌いだ。嫌いで嫌いで……反吐が出る」
今まで、平常心を保ちほとんど表情を激しい感情を表に出さなかったフォルスが……憎しみで歪んでいる。拳を握り締め、歯を食いしばっている。
「そんなの嘘だよ。だって、嫌いならどうして魔機使いに」
「俺だってなりたくなかった。だが、より大きな絶望を与えるためには堪えるべきことだと言われたんだ」
「誰に?」
「……それは言えん。そろそろ時間だ。行くぞ」
最後まで、聞くことが出来なかったが。
いくつかわかったことがある。
フォルスが、魔法に対して憎しみがあること。そして、フォルスに何かを吹き込んだ首謀者がいるということ。
しばらく、また無言のまま共に移動をし、東と西の入り口に分かれるところで、ユーカは叫んだ。
「フォルスくん! 私……絶対負けないから! あなたに人殺しなんてさせないから!!」
「……ふん。勝てるものなら勝ってみせろ」
気持ちは少なからず伝わったはずだ。
後は、実行するだけ。
自分が、この決勝戦でフォルスに勝利することで、彼がやろうとしていることは無駄になる。いったいどんな憎しみがあるのかはわからないが……絶対させない。
《続いてぇ! あのユーリ=エルクラークの妹! しかし、姉とは違った強さと人気を博したこの少女! ユーカ=エルクラーク!!》
審判ズィーの声と、観客達の声を浴びユーカは決勝のフィールドに立つ。
すでに、待ち受けていたフォルスを睨みマジフォンを構える。
今まで、自分が積み重ねてきた経験を出し切って絶対勝ってみせる。