第二十話
「いやぁ、負けちゃったよ~」
「まったく、お前はなぜあそこで転ぶんだ。真剣試合だぞ? あれがなければ、勝っていたというのに」
三回戦も順調に進み、準決勝。
ユーカもフォルスも無事準決勝に上がったのだが、リビエは凡ミスをしてやられてしまった。順調に相手を追い込んでいたのだが、変なところで転んでしまい、その隙に攻撃。
予想外の出来事に観客も、フォルスも唖然としていた。
苦笑いをしながら帰ってきたリビエ。
「まあまあ。リビエちゃんもがんばった結果なんだから。フォルスくんもそう言わず」
「わーん! ユーちゃーん!! フォルスが苛めるよー!!」
「よしよし」
嘘泣きをしながら抱きつくリビエを、ユーカは撫でる。
それを見たフォルスは呆れた表情で頭を抱えていた。
しかし、そんな誰もが微笑ましい光景に見える中ユーカの心は穏やかではなかった。
(本当に……リビエちゃんが負けた。あの試合。綺麗に転んで、わざとには見えなかったけど……)
かなり綺麗に、自然に転んだおかげでわざとには見えなかった。
が、リビエが負けることを知っていたユーカには予想できていた。予想できていたが、信じたくはなかった。
あの時聞いたことが、嘘であってほしいと。
先ほどの試合でリビエが勝っていれば、自分が聞いていたことが間違いだったと思えた。
「まあいい。お前は大人しく俺達の試合を見ていろ」
「あーい!」
次の試合に向けてリビエは観客席。フォルスは選手控え室へと向かうことになった。そして、ユーカも控え室へと向かおうと移動を始めたが、曲がった角でリビエと出くわす。
「あれ? どうしたの、リビエちゃん」
「んー、実はねユーちゃんに聞きたいことがあってさー」
聞きたい事? と首を傾げる。
わからないわけじゃなかった。なんとなくだが、予想できていたかもしれない。それでも、頭には浮かべたくなかったこと。
「ユーちゃん。二回戦前、なにしてた?」
「え? 二回戦前……?」
どうしてそのようなことを聞くのか。
まさか、ばれていた?
リビエの意味深な質問に、心拍が自然と上がっていく。が、ユーカは平常心を保ちばれていないと想定してリビエの質問に答える。
「えっと、二回戦前は廊下を歩いていたよ。自分の出番が近づいていたから、移動していたかな」
嘘は言っていない。
現に試合に遅れないよう早めに移動をしいた。その途中で、二人の会話を聞いてしまったのだが。
「ふーん」
「それがどうかしたの?」
「別にー」
くるっと背を見せ、三歩ほど歩いたところでまたくるっと振り返る。
「ねえ、ユーちゃん。私達の目的ってどんなことだと思う?」
「うーん、ちょっとわからないかな……」
まるで尋問でもされているかのようだ。
柔らかい物腰と声音で質問してきているだけなのに、心拍数がどんどん上がっていく。このままでは、表情に出てしまう。
心音がリビエに聞かれてしまう。
「だよねー。でもね、これだけは覚えておいてユーちゃん」
「……」
数秒間を空け、笑顔で告げた。
「盗み聞きはいけないことなんだぞー」
「―――っ!?」
やっぱりばれていた。
やばい。
ウォルツを殺そうとしているような者だ。作戦を知られたことで、いったい何をされるか。
動けない。冷や汗が流れる。
リビエの笑顔が……とても恐ろしいものに見えてしまう。
「あ、そろそろ準決勝が始まっちゃうやー。それじゃねー、がんばってよー」
何もされなかった。
何もすることもなく、奥へと姿を消していった。
「……はあ」
力が抜けた。
その場にへたり込み、額から流れる汗を拭う。何もされなかったのは、よかったが……今後、どうなっていくのか。
リビエにばれているということは、フォルスにも当然ばれていると想定したほうがいい。
せっかく仲良しになれたが、これからは気をつけて接していかなければ。
「そういえば、フォルスくんとあたるとしたら……決勝、だよね」
壁に背を預け、天井をしばらく見上げた後自然とマジフォンを手にし、通話機能を使用した。
数回コール音が聞こえた後、繋がった。
《ユーカか? どうした》
通話相手はジェイクだ。
大会が終わるまでは、ジェイクやメアリス、ネロの声を聞くのは我慢しようと思っていたのだが、無理になった。
マジフォンを握る手が震えている。
戦える勇気が欲しい。
信頼している人の声を聞けば、勇気が湧いてくるとそう思ったのだ。
「……あの、私」
二人のことを言ってしまいたい。
けど、そんなことをしたら大会が中止になってしまう可能性がある。せっかく、魔機使い達が始めての大会で張り切って参加していた。
皆、この大会のためにどれだけ特訓していきたのか。それが全て無駄になってしまうかもしれない。下手をすれば、今後の大会に影響が及ぶかもしれない。
(でも、私が黙っていたせいでウォルツ様が殺されちゃったら……)
言ったほうがいい。
言ったほうがいいと思っている。
だけど……。
《……ユーカ》
「は、はい」
《何があったかはわからないが。お前は、お前のしたいようにやってみろ》
「私がしたいように?」
自分がしたいようにって……でもそれじゃ……。
ユーカは、悩んでいる。
確かに、自分は今できるかどうかわからないことを頭の中で考えていた。でも、それを実行して成功できるかどうか。
《とはいえ、困ったことがあったら俺達になんでも言え。俺達にできることなら、手伝う》
《ユーカ。悩みより行動よ。悩んでいたら、二回戦みたいにスカート捲られちゃうわよ》
《もう準決勝だよ。ここまできたら、優勝目指しちゃおう!》
「メアリス……ネロ……」
―――あぁ、やっぱり……。
信頼している仲間の声を聞いただけで、震えが止まった。
勇気が湧いてくる。
大丈夫。今の自分は昔のような弱い自分じゃない。これまで、仲間達といくつもの体験をし、経験を得て成長してきた。
優勝。
そうだ。優勝してしまうえばいいんだ。フォルスは優勝し、スキルチップをウォルツから進呈される時に殺すと言っていた。
ならば……自分が優勝してしまえばいいんだ。
今の自分ならば、できる。
「ありがとうございます。なんだか、勇気が復活しました! 私、このまま優勝しちゃいます!!」
《よかった。俺達も、しっかり応援しているからな。優勝したら、皆でお祝いをしよう》
《もちろん、ウォルツの屋敷でね》
《僕もおいしい料理を作っちゃうよ》
「それは楽しみ! よーし!! そうと決まれば、準決勝を突破しないと!! やるぞー!!」
やれる。今の自分ならば。
絶対……絶対、ウォルツの命は護ってみせる。そして、二人に人殺しなんてさせない。
さて、そろそろ六章も終盤に近づいてきました。
年内には終わるかな? 新章も考えてあるので、お楽しみに!