表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/162

第二十話

「いやぁ、負けちゃったよ~」

「まったく、お前はなぜあそこで転ぶんだ。真剣試合だぞ? あれがなければ、勝っていたというのに」


 三回戦も順調に進み、準決勝。

 ユーカもフォルスも無事準決勝に上がったのだが、リビエは凡ミスをしてやられてしまった。順調に相手を追い込んでいたのだが、変なところで転んでしまい、その隙に攻撃。


 予想外の出来事に観客も、フォルスも唖然としていた。

 苦笑いをしながら帰ってきたリビエ。


「まあまあ。リビエちゃんもがんばった結果なんだから。フォルスくんもそう言わず」

「わーん! ユーちゃーん!! フォルスが苛めるよー!!」

「よしよし」


 嘘泣きをしながら抱きつくリビエを、ユーカは撫でる。

 それを見たフォルスは呆れた表情で頭を抱えていた。

 しかし、そんな誰もが微笑ましい光景に見える中ユーカの心は穏やかではなかった。


(本当に……リビエちゃんが負けた。あの試合。綺麗に転んで、わざとには見えなかったけど……)


 かなり綺麗に、自然に転んだおかげでわざとには見えなかった。

 が、リビエが負けることを知っていたユーカには予想できていた。予想できていたが、信じたくはなかった。

 あの時聞いたことが、嘘であってほしいと。

 先ほどの試合でリビエが勝っていれば、自分が聞いていたことが間違いだったと思えた。


「まあいい。お前は大人しく俺達の試合を見ていろ」

「あーい!」


 次の試合に向けてリビエは観客席。フォルスは選手控え室へと向かうことになった。そして、ユーカも控え室へと向かおうと移動を始めたが、曲がった角でリビエと出くわす。


「あれ? どうしたの、リビエちゃん」

「んー、実はねユーちゃんに聞きたいことがあってさー」


 聞きたい事? と首を傾げる。

 わからないわけじゃなかった。なんとなくだが、予想できていたかもしれない。それでも、頭には浮かべたくなかったこと。


「ユーちゃん。二回戦前、なにしてた?」

「え? 二回戦前……?」


 どうしてそのようなことを聞くのか。

 まさか、ばれていた? 

 リビエの意味深な質問に、心拍が自然と上がっていく。が、ユーカは平常心を保ちばれていないと想定してリビエの質問に答える。


「えっと、二回戦前は廊下を歩いていたよ。自分の出番が近づいていたから、移動していたかな」


 嘘は言っていない。

 現に試合に遅れないよう早めに移動をしいた。その途中で、二人の会話を聞いてしまったのだが。


「ふーん」

「それがどうかしたの?」

「別にー」


 くるっと背を見せ、三歩ほど歩いたところでまたくるっと振り返る。


「ねえ、ユーちゃん。私達の目的ってどんなことだと思う?」

「うーん、ちょっとわからないかな……」


 まるで尋問でもされているかのようだ。

 柔らかい物腰と声音で質問してきているだけなのに、心拍数がどんどん上がっていく。このままでは、表情に出てしまう。

 心音がリビエに聞かれてしまう。


「だよねー。でもね、これだけは覚えておいてユーちゃん」

「……」


 数秒間を空け、笑顔で告げた。


「盗み聞きはいけないことなんだぞー」

「―――っ!?」


 やっぱりばれていた。

 やばい。

 ウォルツを殺そうとしているような者だ。作戦を知られたことで、いったい何をされるか。

 動けない。冷や汗が流れる。

 リビエの笑顔が……とても恐ろしいものに見えてしまう。


「あ、そろそろ準決勝が始まっちゃうやー。それじゃねー、がんばってよー」


 何もされなかった。

 何もすることもなく、奥へと姿を消していった。


「……はあ」


 力が抜けた。

 その場にへたり込み、額から流れる汗を拭う。何もされなかったのは、よかったが……今後、どうなっていくのか。

 リビエにばれているということは、フォルスにも当然ばれていると想定したほうがいい。

 せっかく仲良しになれたが、これからは気をつけて接していかなければ。


「そういえば、フォルスくんとあたるとしたら……決勝、だよね」


 壁に背を預け、天井をしばらく見上げた後自然とマジフォンを手にし、通話機能を使用した。

 数回コール音が聞こえた後、繋がった。


《ユーカか? どうした》


 通話相手はジェイクだ。

 大会が終わるまでは、ジェイクやメアリス、ネロの声を聞くのは我慢しようと思っていたのだが、無理になった。

 マジフォンを握る手が震えている。

 戦える勇気が欲しい。

 信頼している人の声を聞けば、勇気が湧いてくるとそう思ったのだ。


「……あの、私」


 二人のことを言ってしまいたい。

 けど、そんなことをしたら大会が中止になってしまう可能性がある。せっかく、魔機使い達が始めての大会で張り切って参加していた。

 皆、この大会のためにどれだけ特訓していきたのか。それが全て無駄になってしまうかもしれない。下手をすれば、今後の大会に影響が及ぶかもしれない。


(でも、私が黙っていたせいでウォルツ様が殺されちゃったら……)


 言ったほうがいい。

 言ったほうがいいと思っている。

 だけど……。


《……ユーカ》

「は、はい」

《何があったかはわからないが。お前は、お前のしたいようにやってみろ》

「私がしたいように?」


 自分がしたいようにって……でもそれじゃ……。

 ユーカは、悩んでいる。

 確かに、自分は今できるかどうかわからないことを頭の中で考えていた。でも、それを実行して成功できるかどうか。


《とはいえ、困ったことがあったら俺達になんでも言え。俺達にできることなら、手伝う》

《ユーカ。悩みより行動よ。悩んでいたら、二回戦みたいにスカート捲られちゃうわよ》

《もう準決勝だよ。ここまできたら、優勝目指しちゃおう!》

「メアリス……ネロ……」


 ―――あぁ、やっぱり……。


 信頼している仲間の声を聞いただけで、震えが止まった。

 勇気が湧いてくる。

 大丈夫。今の自分は昔のような弱い自分じゃない。これまで、仲間達といくつもの体験をし、経験を得て成長してきた。


 優勝。

 そうだ。優勝してしまうえばいいんだ。フォルスは優勝し、スキルチップをウォルツから進呈される時に殺すと言っていた。

 ならば……自分が優勝してしまえばいいんだ。

 今の自分ならば、できる。


「ありがとうございます。なんだか、勇気が復活しました! 私、このまま優勝しちゃいます!!」

《よかった。俺達も、しっかり応援しているからな。優勝したら、皆でお祝いをしよう》

《もちろん、ウォルツの屋敷でね》

《僕もおいしい料理を作っちゃうよ》

「それは楽しみ! よーし!! そうと決まれば、準決勝を突破しないと!! やるぞー!!」


 やれる。今の自分ならば。

 絶対……絶対、ウォルツの命は護ってみせる。そして、二人に人殺しなんてさせない。

さて、そろそろ六章も終盤に近づいてきました。

年内には終わるかな? 新章も考えてあるので、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ