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第十九話

 大会が始まって一時間が経とうとしている。

 二回戦も順調に進んでおり、そろそろユーカの出番。

 ユーカ自身も、フィールドに早く行くべく移動を始めていた。


「リビエちゃんとフォルスくんも順調に勝ち進んでいるし。私も頑張らないと……!」


 そういえば、二人は控え室に戻ってきていなかった。

 いったいどこにいるんだろう? 移動しつつ二人を探すユーカ。


「―――失敗したのか」

「ん?」


 声が聞こえた。

 用具室のようだ。

 誰がいるんだろう? と近づき耳をすませる。


「まー、あの人達はそこまで強くないからねー。最初から期待はしてなかったよ」

「あいつらのせいで、俺達が頑張らなければならなくなったが……まあ、問題はないだろう」


 会話をしているのは男女二人だ。

 そして、二人の声が気のせいかリビエとフォルスの声に似ている。試合がそろそろ始まるが、気になってしまう。

 いったいどんな会話をしているのかと。


「それで? どっちが負ける?」

「お前が負けろ。俺が奴を殺す」

(殺す? な、なんだか物騒な話になってきたんだけど……)


 自然と心拍が上がってきた。 

 これは、誰かに報告したほうがいいのか。それとも、このまま自分で止める?


「えー! 私が負けるのー?」

「お前は調子付いて色々と失敗するだろ。俺がやったほうが確実だ」

「……しょうがないにゃー。じゃあ、譲ってあげるよ。でも、ちゃんと殺してよ? じゃないと、私がわざと負ける意味がなくなっちゃうからさー」


 二人は、やはり大会の出場者。

 それに男女。

 声や喋り方……そんなことって……信じたくない。


「わかっている。殺してやるさ。あいつは、優勝者に優勝賞品を渡す役になっている。俺が優勝し、あいつに近づいた瞬間……殺す。魔法使い達の頂点の一人―――賢者ウォルツを」

「―――」


 息を呑んだ。

 確かに、優勝賞品を優勝者に渡す役はウォルツとなっている。本来であるのなら、賢者であるウォルツを殺すことなどそう簡単なことではない。

 だが、今はほとんど無力と言ってもいい小動物へと姿を変えている。

 護衛がついているとはいえ、命を狙われたら……。


「ちゃんとやってよー。そうじゃないと、ここに来た意味がないんだからね。フォルス」

「お前もあまり不自然な行動はやめろよ? リビエ」


 信じたくなかった。

 せっかく仲良くなった二人が、ウォルツを殺すために大会に出場していたなんて。


《おらー! 次の魔機使いさんどもー! カモーン!!》

「そろそろ戻るか」

「そうだね。ユーちゃんの試合をちゃんと観ておかないとだしー」


 ズィーの声が響き渡り、二人が用具室から出てこようとしている。ユーカは、どうしようと慌てて隣の部屋が丁度開いていたので見つからないうちに隠れる。

 入ったところは、トイレ。

 しかも……男子側のだった。その事実に気づき、恥ずかしくなりながらも二人が遠ざかっていくのを待つことに。


「……」

「どうしたんだ? リビエ」

「なんでもー」


 足音が遠ざかっていく。

 一分ほどが経ち、ゆっくりと廊下に出る。二人の姿はもうなく、ほっと胸を撫で下ろす。


「……リビエちゃん、フォルスくん。どうして」


 もやもやした気持ちを胸に、ユーカは次の試合に向けてフィールドへと駆けていく。




★・・・・・




《さあ! これも注目試合だぁ!! 一回戦の最後を盛り上げた注目選手! ユーカ=エルクラーク!!》

「ユーカちゃーん!! 頑張れぇ!!」

「応援してるぜぇ!!」

「ふふ。どうやら、ファンが出来たようね」


 一回戦を見ていなかったメアリスとネロには、ジェイクから詳しく説明をした。どれだけ、ユーカが相手に対して戦ったか。

 一回戦で、応援をしてくれる人が増えたのか。

 素直に、嬉しそうに笑うメアリス。

 応援してくれる人達の声に、ユーカは笑顔で応えている。


「ん?」


 だが、どこか悩みを抱えているような色が見えた気がした。

 気のせいならいいのだが、とジェイクは眉を顰める。


「対戦相手は……髪の長い男の人だね」

《さあ、対するは魔法研究所に所属している研究員の一人! ヴァレオ=ミスカッティ選手だ!!》


 自信に溢れた表情でめがねの位置を直す。

 灰色の長い髪の毛を一本に纏め、研究員である証拠なんだろうか。白衣を身に纏っている。魔法研究所といえば、ハージェが所属しているところだ。


《二人とも! 準備はいいか!》

《いつでも》

《大丈夫です!》

《オッケー! なら、さっそく試合……開始だぁ!!》


 試合開始のゴングが鳴り響き、ユーカとヴァレオが動く。

 先に攻めたのは、ヴァレオだ。

 風属性の中級魔法シルストームを発動。ユーカも覚えている風属性の中級としては扱いやすい魔法のひとつ。


《わっ!?》

「おお!?」

「みえ……!」


 当然のようにスカート姿のために、巻き起こる風で捲れてしまいそうになる。男性の観客達は、より一層湧き上がっている。

 しかし、ユーカはしっかりとスカートを抑えながらも同じ同等以上のシルストームを発動させかき消す。


《おしい》

《な、なにがおしいですか!? へ、変態なんですか!?》

《変態ではない。お前がスカートを抑えている隙に攻撃を仕掛けようという作戦だったのだ。別にお前の下着になど興味はない。ちなみに、私の守備範囲は十二から十八歳だ》

《なんで、そんなことを説明するんですか!?》


 つまり、十五歳であるユーカも彼の守備範囲に入っているということ。これは、色んな意味で危ないとジェイクは心配になってしまった。


《さあ、続いていかせてもらおう!》

《こ、来ないでください!》


 ユーカは相手の強さよりも、別の意味で危険を察しヴァレオから逃げる。

 色んな意味で危険な匂いがするが、ヴァレオの実力は本物だ。

 的確な魔法を放ち、ユーカの行き先々を読んで道を塞いでいる。


「あの子……ちょっと動きが鈍いわね」

「何かあったのかな?」


 二人も、やっぱりユーカの異変に気づいたようだ。この試合が終わった後にでも、悩みを聞いてやりたいところだが……試合に出場する選手のところには、大会が終わるまで入ることができないことになっている。だから、あちら側からくるかユーカが負けるかしないと無理だということだ。


《もう……いい加減にしてください!》


 涼しい顔で露骨にスカートの中を見ようとするヴァレオに、ユーカは我慢の限界。


《《アクアパニッシャー》!!!》

《ぐおおおおっ!?》


 ヴァレオを襲う水柱。

 逃げられないように四方八方から押さえつけられている。

 そして、そのままユーカは容赦のない雷属性の《ライトニング》を放つ。


《し、痺れ……びれ……!?》

《こ、これに懲りたら、エッチなことはしないように!》


 水の柱から解放されたヴァレオはびくんびくんっと痙攣している。ズィーは、顔を覗き力強く頷いた。


《ヴァレオ選手ダウン!! これにより、変態の負けぇ!! 勝者はユーカ選手!!》


 審判にも容赦なく変態扱いされるヴァレオ。

 観客の中にも、よかったよかったと安心している者がいる。が、どこか悔しがっている者も少なくはない。拳を握り締め、俯いている。


《そしてぇ! この試合を最後に、二回戦も終了! そろそろ終わりが見えてきた今大会! 最後まで盛り上がっていこうぜぇ!! そんなわけで、十分の休憩後三回戦を開始致します!!》


 三十人居た魔機使いも、半分ほど減った。

 今回もユーカは無事に勝てたが、そろそろあの力を使わなければならなく頃だろう。あの力を解放した時の観客の反応は……どうなるのか。

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